第152話 夜、人さらい


 正面を向き、葉巻を吸いながら言葉を返し始める。


「うちは代々スラム街で生まれた中規模の組織でね。地元生まれでのんきな一面がある、だから何をするにも行動が遅くなる。この事に関しても俺達が関心を持った頃にはすでに他のグループが幅を利かせちまってな、どうせ勝てないと手を引いているのよ」


「そ、そうですか……。ありがとうございます」


 そして彼が手に持っていた参加状を受け取る。

 そして参加状を机に置いたタイミングで店主が三人に注文した飲み物を机に出す。


「あいよ」


「あ、ありがとうございますっす」


 三人とも飲み物を飲みながらゆっくりと会話を楽しみ始める。


「そういえばさ、ルチアはいつもどんな事をやっているの?」


「自分っすか……、いつもは街を出歩いたり貴族の人と交流を取ったりしていていろいろな情報を集めているっす。魔王軍が襲撃した時は自分も協力して戦ったりしているっすね」


「うわぁ~~、そんなことやっているんだ……」


 他にも色々な情報をもとに怪しい集会などの集まりなどへ変装などをしていくことが多いらしい。そしてルチアは幸一がどんな事をやっているか質問をする、幸一が苦笑いをして正直に答える。すると──。


「へぇ~~、さすがは勇者さん。表舞台で大活躍じゃないっすか──」


 ほめられるとつい彼は顔を赤くして照れてしまう。そんなことないと謙遜するが……。


「勇者さんもうちょっと誇りに思っていいと思うっすよその事。自慢するくらいに!!」


「あ、ありがとう──」



 幸一は照れながら頭を下げワインを飲み干す、そして3人はこの場を後にした。










 夜。



 大通りから歩いて5分程の所にどこにでもある4階建ての建物。ここが俺やサラ、そしてイレーナ達が泊まるホテルである。



 その場所へ移動していたのが幸一とサラ。ルチアや教会の信者たちと話しをしてようやくの帰還であった。


 幸一が前を歩いてそのドアを開ける。


 キィィィィィィィィィィ──



「お、幸君おかえり」


 そこにあったのは小奇麗にまとまったワンルームの部屋、そして──。


「ただいまイレーナ、ルーデル、シスカ。そっちはどうだった?」


 イレーナ、ルーデル、シスカだった。三人は今回幸一とサラが動きやすくなるように裏方のサポート役としてこの地に来ている。

 イレーナとシスカはヴェールを身に付けた修道女の姿、ルーデルはフードをかぶった姿をしていて三人とも姿を隠した格好になっている。


「とりあえず街の中を散策したりしてみたけど結構きな臭いよこの街」


「どういうこと?」


 イレーナが耳打ちでそんな事を言うので幸一がその事に関心を強める耳を傾ける。すると今度はシスカが話しかける。


「治安がまず悪いです」


「まあ、あんなスラム街があるならそうだろうな」


 するとルーデルが腕を組みながら話に入る。


「それだけではない。子供がさらわれる事件が起きているんだ」


「どういうこと?」


 幸一がその言葉に首をかしげて反応するとイレーナがその質問に答え始める。


「私たちが前もって現地入りして聞いたんだけどね、子供たちがさらわれるって。だからその事について調べてみたの」



 先日の夜、三人で実験をしてみた時のことだった。

 場所はこの街の郊外のスラム街、すっかり夜も更けた月夜の時間帯。


 周囲の住人もこの間の外出は危険な事を理解しているようで人通りは全くない。

 そんな夜道をとぼとぼと歩いている小さい女の子が一名。




 その怖さに思わず後ろを振り向いてしまう。そしてその視線の先にいるのは──。


「ルーデルさん、イレーナ──、さん……怖いです──」


 シスカだった。いかにも治安が悪そうな街で、そんな場所で夜道で一人、怖くないはずもなく震えながらとぼとぼと歩いていた。


 しかし作戦のために一人にせざるを得ず何かあったらすぐ助けると約束して遠目で見守ると言って一人にしているのであった。


「シスカちゃん、大丈夫だからね。何かあったら私たちが助けるから」


「まあ、そこいらのチンピラ程度ならあいつの攻撃でけちらせるだろうけどな」


 ルーデルとイレーナが怖がっているシスカと目を合わせながら囁く。そしてその時はやってくる。


 まるでつりざおに引っかけた餌に魚が食いついたように──。



 タッ──。



「ひ……ひっ」


 前方の左にある狭い路地から突然の足音。

 サングラスをかけていて人相が悪い人物が二人、シスカの正面に立つ。


「ひっひっひっ、いい女だ。よく売れそうだ」


「そうですねぇ」


 ニヤニヤと悪意のある笑みを浮かべながらシスカの足元に接近。シスカはびくびくと怯えた表情、足がすくみあがりぺたんと座りこんでしまう。


「ま、なかなか可愛い娘ですし、売り飛ばす前に一発──ねえ」


「ま、それもいいな、興奮するぜぇ」


 そして男の一人がシスカの右手をつかんだその時──。


「この変態――――――――――――!!」


 シスカの背後からイレーナの叫び声が聞こえ始める。そして──。


 ズバァァァァァァァァァァァ!!


 イレーナが二人に切りかかる、一人は煉瓦の壁にそのまま吹き飛ばされ気絶。もう一人は床に強く叩きつけられる。


「やっべぇ、罠か!!」


 床に叩きつけられた方はすぐに起き上がりすぐに逃げ出す。しかし──。

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