第151話 この街の本質

海から来る優しい潮風。照りつける太陽の光、地平線まで続く海。


 南国ともいえる温暖な土地アストラ帝国首都ビロシュベキ・グラードの最大の特徴でもあった。


 そんな道を歩く三人。そして海沿いの道を曲がり街の中に歩を進めていく。


「この辺りの地域っす。目的の場所は、この辺りっす」


「しかし俺やルチアがいて怪しまれたり警戒されたりだいじょうぶか?」


「それは心配ないっす。自分スパイっすからね……。こういう潜入作業や隠密行動には慣れているっすよ。任せてくださいっす」


 ルチアに表情に不安の文字は無かった。自信たっぷりの笑顔。


「これは、事件のにおいはありそうだね」


「ええ、さすが勇者さん。気づくのが早いっすね。マフィアの温床なんっすよこの辺り」


 視線を街並みに映すとさっきとはうって変わってゴミゴミとした裏路地、ボロボロの家屋、スラム街という印象を受ける。

 そんな荒れ果てた石畳の道を進んでいく3人。


「時々マフィアたちの動向を探るため隠密作業をしているっすからね。彼らの行動範囲や考え、動きは私にとっては丸見えっす」



 リゾートに来た人はもちろんこんなところを出歩いたりしない。危険な場所だと知っているからだ。


 埃かぶり薄汚れた道、道沿いには酒場が連なっており時々酔っぱらった、くたびれた服装をした人物が千鳥足でこちらを歩いてくる。


「治安悪そうでしょ、この辺りっすよ」


 ルチアがノリノリな雰囲気で話しかけてくる。


「もう少しっす、そこの道を曲がって路地に入ると目的地っす」


 そして三人は路地を曲がる、その視線の先にあるもの。それは一件の居酒屋だった。

 その居酒屋の中に三人が入る。


「いらっしゃいませ」


「三人っす、それでえーと。あの人っす」


「えっ、あの人が??」


 ルチアが一人の人物指差す。指を差した先の人物を見て二人はびっくりして小声で話す。


「あの人がマフィアのボスっすよ」



 ルチアの言葉に二人は戸惑う。二人の視線の先にあるもの。それは小汚い店のカウンター、そこに座っているのはよれよれの古びた服を着たくたびれたおっさんだった。



「そりゃどこの世界でもそういう闇組織ってのはある。でもどう見てもあの人はマフィアのボスには見えないよ」


 それはそうだ、マフィアのボスならばもっと豪華な服を着たり、女をハーレムのようにはべらかしたり高価な宝石を見せつけるように身につけている人物というイメージだ。


「この国のマフィアの特徴っす。目立つ事を特に嫌うんっすよ、スラム街の小汚い店でどう見ても小汚いおっさんにしか見えない人物が豪華な別荘や車、ヨットを所持している巨大マフィアの幹部やボスなんてよくあることなんすよ」




 確かにあの姿を見て彼を巨大マフィアのボスだと考える者はいないだろう。





 それはこの国の歴史が関係していた。この国では昔から内輪もめが絶えず警察機能が機能不全になる時期がたびたびあった。

 政治の腐敗などで兵士も教会も当てにならなくなることが多い中そういった組織が裏社会で増えていった。


 今でも政治とのつながりが深く貴族や国王のパーティーに行くとマフィアの幹部などか当り前のように出席しているという。


「綺麗事だけではこの世は乗りきれないっす。それに誰もスラム街や の問題を自己責任で放置した結果でもあるっすからね」


「けど直接法王がマフィアと関わっているなんて事があったら世界中から信用を失うっす。だから私たちがいるっす。私たちがうまく声を聞いたり調整したり、時には武力行使をして彼らが一般人に危害を加えないようにしているんす。結構大変なんっすよこれ」


「いらっしゃい。ご注文は決まりで?」


 カウンター席に座ってルチアが話しているとタキシードを着た店主の人が話しかけてくる。

 何を頼むか三人は顔を合わせる。


「ああ、自分酒弱いっす。ミルク」


「俺とサラは──、ワインをお願いできるかな」


「ここ、酒屋なんだけどな──」


 ルチアのミルクという質問に戸惑いながらも店主が用意をし始める。


 そしてそんなやりとりにしているとマフィアの人物がこちらの存在に気付いたようで声をかけてくる。



「ああ、ルチアか。久しぶりだな、何の用だ?」


「ああ、ジェンコさん、お久しぶりっす」


 ルチアが気さくに話しかける、どうやら名前はジェンコというらしい。


「ああ、ちょっとお仲間が魔王軍に関する情報を集めているみたいっす。それで裏社会で何かへんなやりとりとか会ったら教えてほしいかなあって思ったっす」


 するとジェンコはポケットから葉巻を取り出し始める。そして葉巻を一服吸い一息つくと口を開き始める。



「今度闇市があるんだってよ。俺達の所にも参加状が来たよ、俺達はそんなもん毛ほどの興味もない。だがお前たちは欲しがっているんだろ、他のマフィアとか、魔王軍とかの情報をよ……」


「魔王軍──」




 その発した単語に幸一は背筋に電流が走る。確かに幸一は魔王軍と国家に関するつながりを調べようとしていた。しかしこうも簡単に見つかるのは想定外だったからだ。


「い、いや……、こうも簡単にその言葉が出てくるなんて思わなくて」


 ジェンコがその参加状をポケットから取り出す。


「魔王軍も俺達もいわば日陰もんの連中だ、だったら日陰同士手をつなぐのは当然の事だ」


「まあ、考えてみればそうですね──、でもあなたたちはいいんですか?」


 するとジェンコは正面を向き、葉巻を吸いながら言葉を返し始める。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る