第153話 闇市へ

「やっべぇ、罠か!!」


 床に叩きつけられた方はすぐに起き上がりすぐに逃げ出す。しかし──。



「甘い!!」



 声の主はルーデルだった。彼がその男の正面に立つ。そして──。



「ぐほっ!!」



 無言で思い切りの腹パン。魔力も使えない彼にその攻撃を耐えられるはずもなく──。




 グダッ……


 ばたりと意識を失い倒れこむ。すぐにルーデルはその男を拘束し持ち物を調べる。イレーナもはっと思い出して壁に叩きつけた男を拘束し、ポケットなどから手掛かりを調べる。


 そして──。


 そして今に戻る。


「それで出てきたのがこれという訳か」


 イレーナとルーデルがその時押収した銅でつくられたバッチを幸一に見せる。

 それ以外に有力な物は出てこなかったらしい。


「う~~ん、俺は見たことないな……。サラ、何かわかるか?」


「ごめん、私も見たことが無い、よくわからないや」


 幼少をこの土地で過ごしたサラもこれはわからないらしい。


「とりあえずルチアに相談してみるか」


 後でルチアと会う予定があるので時間が空いた時に聞くのが一番いいだろうと考えた。そして就寝の時間となる。


 各自ベットについて睡眠を取ることになったのだが──。


「幸君、その──手……」


「ああ、そうだね。ごめん」


 イレーナと幸一は魔力の供給の関係で隣で寝ることになっている。イレーナが顔をほんのりと赤くしながら幸一に手を差し出す。


(そういえばこうして手をつなぐのは一週間ぶりくらいだな。魔力大丈夫だったかな)


 幸一はイレーナの手をぎゅっと握りながら気になり出す。今までは長くても手を握るには一日くらいだったからだ。恐らくそこまで強い魔獣などに出会わなかったのだろう。しかしこれからこの国では別行動になる事も多いだろう。

 いつ強敵と当たってもいいように魔力は満タンにしておきたい。なので行動する時もこまめに出会えるようにしたいと考えるのだった。







 ──そして闇市の開催日──






 礼服を纏った幸一とドレス姿のサラが手をつないで街の大通りを歩く。とても賑やかで様々な商店や飲食店が立ち並んでいて二人が暮らしていたネウストリアと同じくらい活気がありにぎやかな街だった。



 そして大通りから階段を下りて地下道に入る。



 さっきまでのにぎやかな大通りから打って変わり一通りが少なく物静かな雰囲気になる。

 照明は少なく薄暗い道を二人は歩いていく。


「大丈夫、かな。なんか怖い」


「心配はない、と思う。ほら、あそこじゃないかな」


 その雰囲気にサラが怖がり幸一の腕をぎゅっとつかむ。つかんだサラがびくびくと震えているのを理解した幸一、サラの手を握り前方に視線を向ける。すると黒色で幾何学模様をしたドアが視界に入る。


 幸一は怯えているサラを先導するようにそのドアに向けて歩いていく。


 そして二人はそのドアの目の前にたどり着く。しかし──。


「取っ手が無い、っていうかくっついたように開かない。どうなっているんだ?」


 取っ手が存在しない、横に空けるタイプかとも思ったがどれだけ力を入れて開けようとしてもびくともしない、重いとかかぎが掛かっているとかいう次元ではなく床に張り付いたように全く動かないのだ。


(どうすればいい……、何か仕掛けがあるはずだ──)


 そう考えながら幸一はポケットから招待状を取り出す。考えてみればここではなく別の場所かもしれない。

 そう思いこの場を去ろうとしたその時──。




 シュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ──!!


 何と突然招待状が光り出したのだった。そして光り出したとたん突然ドアが──。



 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ──。




 なんとゆっくりと勝手に横に開き始めたのだった。30秒もするとドアは完全に開く。ドアの先には円形のやや広い場所、そこに机といすがありフードをかぶった人物が手を組んでこっちに視線を向けている。


「サラ、行こう」


「う、うん」


 突然の出来事に戸惑うサラ、しかし行くしかない。幸一はサラの手をぎゅっと握ってドアの向こうへ進む。


 ゆっくりとフードをかぶった人がいるところまで進む。すると──。



 シュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ──。



 何とドアが蒸発するかのように消滅してしまう。逃げ道がなくなった事で握りこぶしをして覚悟を決める幸一。



「闇市へようこそ、念のため参加状を見せてもらえますか?」


 フードをかぶった人物が幸一にゆっくりと話しかける。

 どうやら彼が案内人らしい。

 幸一は警戒の態度を続けながらゆっくりと案内人の元に歩いていく。そして手に持っていた招待状をその人物に見せる。


「あなた、初めてのようですね。この仕掛けにずいぶんと警戒していたようで」


 フードの人物は自慢げに仕掛けについて話し始める。


 昔は地下道に隠し場所などを設けて開催していたが作るたびに場所と特定されてしまい今はあのドアを通して異空間に闇市の場所を設けているという。


 そして招待状を持っている人が地下に来た時他の人から視界に入らなくなるよう仕掛けをしていたらしい。


 彼に参加状を見せる、フードの人物が幸一が持っている参加状を手に取る。


 参加状と二人の顔に視線を向け参加状が偽物でないか、怪しい人物でないか確認。


「あんたたち、何でこの場所に来た? どうやってこの場所を知った?」


「面白い闇市があると噂を聞いてやってきました。この話しを聞いたのは知り合いのマフィアからです」


 幸一は相手の目をじっと見て自信満々に答える、嘘は言っていない、下手に取り繕うよりこの方がいいと感じたからだ。


「あいよ、通りな──」

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