第127話 最大の襲撃

 次の日。


 幸一とイレーナは手をつなぎながらいつもより少し遅めに起床した。

 昨日は二人でデートをしていて途中、迷子の子のためにずっと街を歩き疲労していたためだ。

 二人が起きるとメイド服の侍女が二人の食事を持ってきた。


「ありがとうございます」


 幸一が一言礼を言うと侍女はそばにある机にカートから食事を取り出し丁寧に置く。

 サンドイッチとサラダに紅茶。彼女たちが去った後二人は椅子に座り食事を取ろうとする。


 コンコン──。


 すると誰かがノックしてくる。イレーナが「入ってどうぞ」と一言かける。そしてその通りキィィィィとドアが開くと二人の少女が入ってくる。


「イレーナちゃん。幸君。おはよう」


「お二人さん、おっはよ~~。昨日のデートはどうだった。お幸せなカップルさん」


 淡い髪の顎くらいまでかかったショートヘアーの髪型。丁寧な物言いのサラ。青い髪の色、肩くらいまでかかった髪型で明るい口調でノリノリに話しかけてくる青葉。


 青葉の言葉に幸一とイレーナは思わず顔を赤らめ互いに顔を合わせてしまう。



「食事が終わったらすぐに下の会議室で話があります」


「あんたたちがいちゃいちゃラブラブしている間に大変なことになっちゃったのよ」


 青葉の腕を組みながらの一言に幸一は面をくらい驚く。




 昨日幸一とイレーナがデートをしていた日、緊急会議が開かれた。


 次の魔王軍達の襲撃。それはこの街、ネウストリアと言うことが分かったのだが。


 この街のハリストス教会にあり次の襲撃や規模の大きさを伝える真実の焔、その儀式に国王や要人、サラなどが集まって行ったのだが問題はその内容だった。



 深刻そうな表情と顔つきでサラが話す。



「今までの襲撃より一層厳しい戦いが待っていると考えてください」


「どういうことなの?」


 イレーナが険しい顔つきで言葉を返す。するとサラの顔つきが厳しいものになる。


「その終焉の焔なのですが、今までにないくらい強い炎を発していました。祭司の人からもここまで強い光は見たことないと私たちに強く警告してきました」


 より強い災厄が来るという情報にイレーナと幸一は驚き互いに顔を見合わせる。


「本当に──そうなの?」


「はい、そしてすぐに王国側はそれを知って動いています」


 サラの言葉は嘘ではない。すでに政府は昨日から会議が開かれていて兵站の計画や兵士の動員について話しあっている。

 また、ギルドにはこの事をもう伝えていて今日から緊急で冒険者達を募集している様子だ。



「日にちは一週間後、今日国会では総動員をかける法律が出される予定です」


「総動員……。そこまで深刻ってこと?」


「ええ。国王様やその他大臣たちはすでに一丸となって戦いの準備を進めているわ。地方領主に掛け合って戦うための物資を地方からありったけ集めたり、いつもはいがみ合っていた貴族達も今回ばかりは力を合わせているようすよ」


 青葉のその言葉に周囲は思わず沈黙してしまう。


 昨日までのふわふわした雰囲気から一転ピリッと緊張感が高まった物になる。

 今までの敵より強力な敵の襲撃。絶対に勝ってこの街を、街の人々を守り切る。


 そう彼らは心に決めこの場を後にしていった。





 夜。


「よう」


 幸一は感じていた、上に誰かが乗っている。まるで押し倒したような体制で──。イレーナではない。彼女はそんなに寝相が悪いわけではないし第一彼女のような長身ではなく小柄な少女が抱きついてきたような感覚だからだ。


 今幸一が考えている中でその条件を満たす人物は一人しかいなかった。


「ユダ、お前か──」


「そうじゃ、夜這いに来てやったぞ。ほれ据え膳を届けたぞ、どうぞ召し上がるんじゃ」


「とりあえず裏切り者の事はわかったのか?」


 幸一はユダの悪ふざけをスルー、そして以前話していた人間や天使達の中で魔王軍に裏切ったのは誰か、それはわかったのかを聞き始める。ユダは悪ふざけを止め妖艶な笑みをし始める。すると──。



「幸君!! どういうことなの???」


「イ、イレーナ。ち、違うんだこれは──」


「何も違わないぞ、これからわしと幸一殿はお楽しみな夜を迎えるのじゃ」


「ええ~~~~」


 涙目になるイレーナを幸一が何とか説得する。これはユダが悪ふざけをしているだけだと。イレーナは顔を膨らませ涙をぬぐい何とかその言葉を信じる。


「幸君のばか……」




「とりあえず、話の本題に入ろう。魔王軍への裏切り者の件、目星はついたのか?」


「まあ、なんとなくめぼしはついたのう、じゃが一筋縄ではいかなさそうじゃ。しっかり準備して策を練らなければ逃げられてしまうのう──。そこでわしに策がある、ちと耳を貸してくれないかのう」


 そう言ってユダが口を幸一とイレーナの耳元に近づける、そして──。



 ひそひそ──。


 ユダの話に二人は食いつく、からかっているときはともかくこういう時の彼女はやはり天使だけあって頼りになる。作戦もかなりまともでもっともな案と幸一は思った。

 そして二人が真剣な表情で話しを聞いていると──。





 フッ!!




「ひあっ!!」


 作戦を話した後に吐息を幸一の耳の中に吹きかける。突然の出来事に思わず奇声を上げる幸一。イレーナはプンスカと怒り出す。


「ちょっと!! 何やってるの??」

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