第126話 二人の気持ち、二人の想い
戸惑いながらもイレーナの気持ちを傷つけないように慎重に言葉を選びながら言葉を返し始める。
「初めて知ったよ、イレーナが俺の事、どういうふうに思っていたのか──」
「初めてイレーナと出会った時。最初はまるで信用されていなかったな」
イレーナがはっと思い出す。最初に幸一と自分が出会った時、自分は彼を敵だと思い込み猜疑心を向けていた。そして彼を倒した事を踏み台にしようとさえしていた。
「ち、ち、ち、違うの。あれはまだ幸君の事よく知らなかったから──」
「そ、それはわかっている。もう気にしてないよ」
慌てて手をぶんぶんと振りその気持ちが今は無い事を主張するイレーナ。幸一もその事は理解しているようでもう気にしていない趣旨を伝える。
「それで、イレーナと一緒に行動して、一夜を過ごして、分かったことがあったんだ」
「俺は恋人というよりは尊敬する人……、目標。そんなふうに考えていたんだよね」
その言葉にイレーナは思わず視線を下げる。目から涙がにじみ始め、胸が張り裂けそうになる。
幸一もイレーナのそんな表情から心境を理解し始める。そして少しずつ自分の気持ちを話していく。
「実際に行動をしながらよくわかったんだ。イレーナの事が……」
「強くて、まっすぐで。正義感が強くて、でもどこか不器用で一生懸命で。でも人のため、友のため懸命に戦っていた」
「強くてもどこかさびしがりやで強がりで……守ってあげたくなる」
幸一は少し言葉をつっかえながらも自分の気持ちをイレーナに語っていく。彼女が一生懸命伝えたのだから俺もしっかりと自分の気持ちを伝える。そんな決意を胸に幸一も自分の想いをイレーナに話す。
「気づいたら応援したくなった。使命感とかそう言うのもあるけれど人として異性としてとてもイレーナについて憧れるようになった。そういうところに惹かれたんだと思う」
イレーナがはっとする。彼が自分の事をそこまで見ていたんだと知る。そして拳をぎゅっと握り彼を見つめながら返しの言葉を聞く。
「まっすぐで、優しくて。一生懸命で、どんな時でもあきらめず相手を見捨てない。そんなイレーナが俺は好きだよ」
幸一のイレーナへの気持ち、初めて知った最愛の人の想い。それを知ったイレーナは明らかに動揺しそわそわし始める。まさか幸一も自分の事が好きだったなんて思いもしなかった。
「嘘──。嘘じゃないよね」
「嘘じゃないよイレーナ。好きだよ──、これからもよろしくね」
幸一の笑みを浮かべながらの一言。その一言に感激し顔を真っ赤にするイレーナ。
イレーナの瞳から涙が止まらなくなる。
「よかった。幸君、見捨てないで──、一緒にいてね」
「うん」
夜。
山の中腹から見渡す王都の光輝く夜景。
街の照明たちが蛍の光のように淡い光を照らしている。とてもきれいな光景で
絶景ともいえる光景を眺めながら幸一とイレーナは
「本当に素敵な人に出会ったと思う。まっすぐで誰にでも優しくて、どんなことにも一生懸命で──」
そして幸一は微笑を浮かべながら、イレーナを見つめ自分の気持ちを伝える。
「イレーナ、そういうところ。俺は好きだ」
「幸君──、ありがとう」
イレーナの表情に笑顔がともり始める。目からほんのりと涙を浮かべながら。
手を握る、イレーナの体温が人割と伝わってくる。幸一は思った。彼女ともっといたい。こんな幸せな時間がいつまで続いていたい。純白の白い髪、色白な肌、そして柔らかそうな真っ赤な唇。
彼にとって生まれて初めての経験これほどまでに愛おしいと思える人に出会えたこと。そしてイレーナも自分と同じかそれ以上にこの自分を愛しいと思っていたという真実を知り、心の底から幸福に感じる。
そして何も言葉を交わさなくても二人の意思はひとつだった。
二人はその瞳をそっと閉じる。そして彼の唇がほんのりとイレーナに触れる。イレーナは強すぎないように、その唇を、彼の存在を確かめるように優しく口づけする。
実際には数秒だった時間。二人には永遠にも感じられた。二つの唇がついては離れを繰り返す。
ほんの数秒間、今までに感じたことがないくらいの幸福な時間。唇を離したイレーナ、顔をほんのりと赤らめながら幸一を見つめる。
「幸君、ありがとう……。今まで一番幸せ──」
「イレーナ、俺もだよ」
そして二人は意思を統一しているかのように唇を離す。
今までの敵と戦う時より強い決心で誓いイレーナとともにこの場を後にしていった。
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