第125話 見つめ合う二人、そして──
イレーナはそのパフェをおいしそうに食べる。満面の笑み。
幸一も一口食べてみる。チョコの苦みが程良く効いていてとてもおいしいと感じた。
「おいしいものも食べたし出発しようか」
イレーナが幸一とロムの正面に立ってそう言うと三人は再び出発する。道を南に進んでいく。街の中心を抜け郊外へ。日も暮れ始め家に帰る子供の姿も時折見えた。
そしてしばらく歩いていくと──。
「あそこにあるのがイレーナが言っていた教会?」
恐らくは貧困層が生活している地域。街は薄汚れていて人々どこかやさぐれているような印象を受ける。そんな場所で幸一は道の先を指差す。そこにはプレハブで出来たような家々に囲まれる中頭一つ抜けた大きさを持つ教会があった。
「たぶんそう。ロム君、家はこの辺りかな?」
イレーナが彼に視線を合わせて話しかける。するとロムは自身の記憶とこの辺りの風景をすり合わせる。そして完全に思い出す。
「おうち、この辺り」
ロムはここなら自分の家が分かるようで二人の前を早足で歩き始める。さっきまでより元気を取り戻してイレーナと幸一もそれについていく。
早足で歩いていくこと5分。大通りから離れた狭い道、そこに彼の家はあった。
「おうち、ここ」
ロムがそこにある一つの家を指差す。幸一とイレーナはその言葉に反応、彼の手をつなぎその家の玄関へ足を運ぶ。そして玄関にノックをして中に入る。
「はい、どちら様ですか?」
奥からはおばさんらしい声色の返事、しかしどこか動揺して慌てているのが分かる。
「この子が迷子になっていたんでこの家まで届けに来たんですけど、ここでよろしいんですか?」
幸一がまだ誰もいない玄関でそう叫ぶ、するとそのおばさんらしき人が早足で玄関までやってくる。
「迷子、まさかうちのロム君の事ですか?」
話を聞くと息子が昼前に出掛けに行ったっきりずっと帰ってこなかったらしく心配していたという。
その言葉を聞いたとたんイレーナの後ろに隠れていたロムがひょいと前に出てくる。
「あんた、今までどこで何をやっていたの? 心配したのよ」
おばさんは息子の姿を見るなり心配そうな顔つきになりこっちに接近する。
話を聞くと夕方になっても帰ってこず付近を調べてもどこにもいないのでどうすればいいか途方に暮れていたらしい。
「うちの息子を助けていただきありがとうございます」
ロムの母親は頭を下げて二人に感謝の言葉を贈る。幸一は両手を振り苦笑いをしながらそんなことないですよ、と言葉を返す。
そして母親とロムに視線を移す。
「じゃあね、ロム君。今度はあんまり無理しちゃだめだよ」
「うん、お姉さん。わかった」
ロムが右手を上げて元気に言葉を返す。そして二人はお玉を下げてこの場を去っていく。
すっかり日も暮れてしまった。手をつなぎながら二人は来た道を戻っていく。
そして少し小さめの公園、ベンチがあり二人はそこに腰掛ける。
あたりに人はいない物静かな雰囲気。
「あの……、イレーナ。ちょっといいかな?」
軽くほほを赤らめながらイレーナに話しかけた。
「幸君、何?」
「悪かったかな……迷子のこの家さがしに付き合わせちゃって。せっかくの休み、何にもできなかったし」
罪悪感を感じる幸一。せっかく二人で過ごす休日、イレーナがとても楽しそうだったのが幸一にも伝わってきた。しかし自分が家を探した方がいいのでは無いかと
「そ、そ、そ、そんなことないよ!!」
イレーナは驚いた表情で手をブンブンと振り否定する。
「私は悪かったなんて思ってないよ。あの子の家に着いた時、ロイが心から喜んでいるのを見ていた時、私とても幸せだったし」
「ああ──。そうなんだ。それはよかった……」
その言葉にほっとする幸一。しかし考えてみればイレーナがここで首を横に振るわけがなかった。
小さな広場、日も沈み始めていて周りに誰もいない。石で出来た椅子にちょこんと二人は腰掛ける。
周りに人がいない。静寂した雰囲気。
静かな空間で互いに見つめ合う二人。イレーナは覚悟を決める、今ここで自分の気持ちを伝えると──。
言葉は噛み噛み、胸はドキドキ。頭は真っ白になり顔は真っ赤。さっきまでどんな言葉を
「お二人は夫婦なんですか??」
「どんな時も最後まであきらめなくって、どんな時も優しい心を忘れなくって。自分の信念を捨てずに最後まで戦っている」
「私、そんな幸君のことが大好き」
そっと向きあう二人。何時間もの時が流れているように感じた。
幸一はどう言葉を返せばいいか迷う。初めて聞いたイレーナの本音。
沈黙がこの場を包む。二人にとっては永遠にも感じる時間、客観的には五分くらいしかたっていないだろう。イレーナにとって、幸一にとって最善の答え。それを考え幸一は重い口を開け始める。
「イレーナ……」
イレーナがはっとする。自分の気持ちは伝えた、やることはやった。あとは結果を待つだけ。
幸一ゆっくりと、自分の気持ちを伝え始める。もちろん親しい女性から自分の気持ちを告白されると言うのは彼とっても初めての経験。
戸惑いながらもイレーナの気持ちを傷つけないように慎重に言葉を選びながら言葉を返し始める。
「初めて知ったよ、イレーナが俺の事、どういうふうに思っていたのか──」
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