第112話 やっぱり私は、先へ進む




 最深部へレイカ、ペドロ、国王をひきつれてとたどり着いたペドロ達。その部屋の神々しさに目を奪われる。

 見たこともない色をした宝石がちりばめられている。龍の壁画は先ほどの部屋のものより大きく鱗や羽まで鮮明に描かれていた。

 そして正面には天空で空を飛んでいる天使たちが地上にいる民達に恵みを与えている絵があった。


「まるで芸術だねぇ。美しいよ」


 ペドロの言う通りだった。その芸術ともいえるその絵画にここにいる誰もが目を奪われてしまう。

 そしてそこに描かれている天使の一人にイレーナが気づく。


(あれ、ユダちゃんだよね──)


 黒い服、髪型、背丈。その外見はユダそのものであった。彼女に何があったのか、この遺跡、龍、そして自分とどんな因縁があったのか。

 そんな想いがイレーナの脳裏をよぎる。


「さあ、イレーナ。始めるんだよ、解読をしな」


「……はい」


 ペドロに指示に従いイレーナは再び壁に描かれている絵画の解読を始める。

 誰も読めない、見たこともない古代文字。その意味をイレーナは何も言わずに淡々とペドロからもらったノートに書き写していく。



 そして15分程の時間がたつ。イレーナが解読した文字を訳した紙をペドロに手渡す。ペドロは勝ち誇ったような笑みでにやっと笑いだす。


「なるほどね、ここの部屋のさらに奥にある部屋。そこが竜を祭る部屋という事かい?」


「そうです」



「つまり本当の力はそこにあると言うことかい?」


「はい、そこにあります」



「わかった、じゃあアルメロ、デュラグ。ついて来な? 邪魔されちゃ構わないからあんたはここにいてな。ここからは私たちだけが入ることにするよ。もしあんたが必要なら再び呼ぶから来るんだよ」


 イレーナが目を伏せながら首を縦に振る。せめてものイレーナなりの抵抗だった。

 次にペドロはレイカに視線を向ける。レイカは彼女を警戒の眼差しで睨みつける。


「な、何よ」


「さあ、次はお嬢ちゃんだよ」


「私、こんな文字わからないし遺跡の事もよくわからないわ」


「まあ、あんたにはあんたの役割がある。この光を見るんだよ」


 ニヤリとペドロが笑う。勝ち誇ったような笑みを見せながらペドロは勝ったと確信する。


(確かに単純な力比べでは私たちはこいつらにはかなわない。だがな──、勝負はそれだけじゃ決まらないんだよ。小娘さん。)


 戦いが強いだけの猪のようなやつに負けるわけがない。そんな自信を持ったペドロがまずその一人を封じる策に入る。


「私が生まれ育った村はね、この近くの集落なんだよ。いくつも神々しい神殿があってね、それを管理している部族なんだ」


「だから、なによ──」


 レイカは何か変な気配を察知し始める。

 身体がわずかに震え出し後ずさりをしだす。


「知っているんだよ、この世界の善の部分も、そしてその反対、闇の部分もね──」

 そしてペドロがその宝石をレイカに向ける。


 シュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ







 30分ほどだっただろうか。ペドロ立ち十字兵の幹部と国王、アリーツェ、レイカはさらに奥へ向かっていった。


 一方イレーナ。イレーナ自身に龍の力が与えることを警戒されこの場に取り残されていた。


「イレーナ、大丈夫か?」


「私は大丈夫。でも……、でも」


 やってきたのは幸一。


 イレーナ、最初は涙目でこっちを振り返ったが幸一の顔を見た瞬間わっと歓喜の表情をし始める。


 そしてすぐにここで何があったかを説明し始めた。動揺を隠せずしどろもどろになりながらではあったが説明を始める。


「なるほど、国王がペドロ達と一緒に奥の部屋に行ったということか──」


「あとレイカが、レイカが──」


「連れ去られた?」


「うん、それなんだけどね。どこか変なの」


 そのイレーナの言葉に幸一が驚きを見せる。

 ペドロが灰色に光る光をレイカに見せると彼女から目の光が消え始めてしまった。そしてまるで魂を抜かれたようになってしまった。そしてペドロがこっちに来いと命令をすると何の抵抗もせずにゾンビのようにふらふらとペドロについていってしまったという。



「この部屋の奥にあるみたい。でもここで何も考えずに一人で突っ込んでいっても何が待っているかわからないし、でもここにいても何も解決しないし──。だからどうしようかって」


「そうか──」


 会話のそぶりからイレーナは相当戸惑っていると推測できる。とりあえず魔力の補てんのため、彼女を落ち着かせるため幸一がイレーナの手を握る。

 その言葉に幸一は腕を組み作戦を考え始める。罠が待ち構えているかもしれない、しかし──。


「とりあえず行ってみよう。ここにいてちゃ何も始まらない」


 その言葉の通りだった。この場にいても事態は何一つ好転しない。

 だったら敵の罠であっても飛び込んでいく方がいいと幸一は判断する。


「やっぱりそうだよね、行こう!!」


 2人は相槌を打って意思を確かめ合う。迷いなんてなかった。ただレイカを、国王である父を、そして街の人たちを救うために。



 例えその道が罠だとわかっていても──。


「私たちはその道を行くわ!!」



 その道を進んでいった。










 幸一と青葉が薄暗い道を早歩きで進んでいく。どんな罠が待ち構えているかわからないので周囲への警戒を忘れない。


 そして道を進んでいくと。


「行かせはしない──」


「──!!」


 前方から誰かの声がする。

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