第113話 最深部へ

 

 前方から誰かの声がする。


 坊主頭で長身、筋肉質の男性、デュラグが。もう一人、長髪で痩躯の若い青年の幹部アルメロ。


 2人が幸一とイレーナの前に立ちふさがる。



「そこをどけ」


「残念ながらそれは出来ないね──」



 対立する4人。

 もう言葉はいらなかった。4人は対峙し、戦うという事を共通の理解としていたからである。



 タッッッッッ──。


 デュラグとアルメロが戦いの開始と同時に左右に分かれてイレーナを狙って来た。



 そうはさせないと幸一はイレーナを援護するがデュラグはその攻撃を素手で払いのける。

 彼が繰り出した拳によって幸一の攻撃は一瞬で消滅した。


 その光景に幸一は驚く。つまり彼の攻撃は拳一つで幸一の攻撃を打ち消せる力を持っているということだった。


 何の苦もなく幸一の攻撃を撃破したデュラグは一気にイレーナに急接近、そして彼が左のこぶしを放つ。


 イレーナは何とか攻撃を受けるが鉄の球が衝突したような衝撃。その衝撃に踏ん張ったはずの足が震える。


 さらにデュラグはさらに踏み込み左足の蹴りをイレーナの腹部へ叩きこむ。



 腹部に魔力を集中しギリギリで攻撃をこらえる。


 しかし圧倒的な攻撃力で今すぐ意識を失いそうな強力な威力だった。

 身体は吹き飛び宙を舞う、デュラグはそのスキを逃さず身体を回転させる。目にもとまらぬ速さでさらに拳を放つ。


 イレーナは何とかそれをかわし、後ろへ身をそらす。

 槍の間合いより接近されるととても勝てない。


 何とか間合いを取って槍のリーチを生かす。そういった戦いをしないといけない。


「流石はお嬢様、その実力に偽りは無いな──」


 そう囁きながらデュラグは腰を落としさらなる攻撃の構えをとる。

 そして勝負を決めるため一気にイレーナに襲い掛かる。


 イレーナは意識を集中させ守りを固め彼の猛攻をしのぐ。





 互いに最大の威力を持つ術式のぶつかり合い。


 イレーナの攻撃がデュラグを押し切り彼がのけぞるような体制になる。

 そしてそのスキをイレーナは見逃さなかった。



 最高の力を込めた最大の一撃


 時空を超える力、今友のため敵をせん滅し救いの力となり、定めを超える閃光貫け

 ヘリオポーズ・イクシオンブラスター・スプレマシー・ノヴァ


 ズバァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ──!!




 デュラグはガードもむなしく後方に体が吹き飛ぶ。そのまま肉体が壁に叩きつけられぐったりと倒れて動かなくなる。








 一方幸一とアルメロの勝負も決着がつこうとしていた。


 老獪かつ滑稽な攻撃に苦労してきたが少しずつ対応し始める

 アルメロが

 幸一はその攻撃にバックステップですぐに身を後方に動かす。


 アルメロはここで勝負を決めようと一気に間合いを詰めていく。そして──。


(食いついてきたな!!)


 幸一の戦術だった。幸一は彼が経験豊富でストレートに戦っても苦戦すると予測していた。なので彼に戦術どおりにいってると思いこませていて前がかりになったところに逆に攻撃をたたき込む作戦だった。


 幸一が突然前に出てきたことにアルメロは一瞬驚愕する。


(罠だったのか?)



 しかしすぐに反応し剣に魔力を込める。幸一もここで勝負を決めようと全身に魔力を込めアルメロに攻撃を仕掛ける。



 願いをとどかせし力、逆縁を乗り越え、踏み越えし力現出せよ


 バーニング・ブレイブ・ネレイデス


 ドォォォォォォォォォォォォォォン!!


 強力な魔力を幸一がたたき込む。幸一の攻撃がアルメロの攻撃を打ち破りそのまま彼の体に直撃。



 そのままアルメロの体が壁に叩きつけられる。アルメロはすべての魔力を失い地面に落下する。


「強いな、勇者よ──」




 再び二人が手を握る。使ってしまった魔力を回復しつつ先へ進んでいく。レイカや国王達の無事、地上で戦っている青葉や兵士が心配になり落ち着いていられない。


 焦りを感じながら二人は道の奥へと進んでいった。











 最深部へたどり着いた幸一とイレーナ。二人はきょろきょろとあたりを見回す。


「あの文字は……?」


 幸一が見たには真正面にある壁に記されている文章。

 それは古代の文字の様で幸一は見るのは初めて。当然解読することなどできない。


「イレーナ、この文字わかるか?」


 イレーナは壁に描かれている文章を凝視しながら言葉を失っていた。そして気持ちを落ち着けた後ゆっくりと口を開き始める。


「理由はわからない、でも私にはこの文字が分かるの、見たことも聞いたことも無いはずなのに──」


 困惑するイレーナ、するとこの部屋の中央の小さな壇上が青白く光り始める。

 青白い光はゆっくりと人型の形になり膝下程のサイズの精霊のような生き物になる。


 白い神官のような衣装を着た青白く光る生き物。その生き物がぺこりとゆっくりお辞儀をしてから話しかける。


「おまたせしておりました、イレーナ様」


 突然の言葉にイレーナは何を話せばいいかわからず混乱し始める。



「あなたが強さを身につけてここに帰る事、そしてこの遺跡に眠る「しょごりゅう」の力を手に入れる事。運命でした、そしてその運命が今イレーナ様を手繰り寄せたのです」



「ちょっとまって、どういうことなの? ここに帰ってくるって何? 理解できないよ」


 すると背後から叫び声が聞こえる。


「イレーナ、私が話そう!!」

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