第111話 一瞬
その後、この場にいる誰もがイレーナの古代文字の解読に意識を奪われる。
そしてこの瞬間を今かと待ち構えていた少女が一人。
(これならいけるわ──)
青葉は物音をたてないようにさすり足で移動する。
そして──。
パッ!!!
「しまった!!」
カン!!
デュラグの腕に魔力を軽く攻撃を見舞う。すると彼が持っている刃物が手からこぼれおちる。その瞬間要人とデュラグの間に割り込み彼に蹴りを見舞う。
その瞬間青葉はアルメロに急接近。驚いているアルメロ、彼がナイフを持っている左手に思いっきり回し蹴りをする。
ドォォォォォォォォォォン!!
その瞬間アルメロともう一人の要人が分断される。その瞬間を青葉は見逃さなかった。
さらに青葉は拳に魔力を纏わせアルメロに向かって殴りつける。彼は何とかガードしたものの人質を完全に失う結果になってしまった。
(この二人、甘い。やっぱ私の勘は当たってるわ)
二人はペドロに比べるとどこかスキがあり、スキを見れば人質を奪還しようと青葉は考えていた。その作戦は大成功。
要人二人が逃げる用に幸一達の方へ向かっていく。
ペドロが激高する、そしてポケットに持っていたナイフをギッと国王の首筋に立てながら叫ぶ。
「嬢ちゃん、やってくれたね。あんたの友達のお父さん殺っちゃうよ」
「やれるものならやってみなさいよ!! けどそうしたらあんたは身を守るすべを失うわ。その瞬間私達3人でそうがかりになってあんたをボッコボコにしてやるんだから!!」
青葉は一歩も引かない、ペドロはギッと彼女を睨みつける。ペドロは人質を失ったらもう自分を守る手立ては無い、国王をカッとなったくらいでは殺すことはしないとの読みだった。
「ケッ──、賢いねぇ。まあいいわ移動を再開するよ。ただし人質を追加させてもらうアリーツェ。こっちに来な」
「──わかりました」
「まずはあたいと人質2人、イレーナ、それとレイカで行く。変な化けものが来てヘルプが必要になったら呼ぶ。そしてら来るんだね。じゃあ行くよ」
「はい……」
イレーナとレイカは渋々ついていく。それを幸一と青葉はただ見ているしかなかった。青葉もペドロの場合は下手に刺激した場合本当に危害を加える可能性があり下手なことは出来なかったのである。
4人がこの部屋を出て5分が立つ。要人はサラや警備の兵士の場所にいて安全は保障されている。
そんなところにさらに一人の伝令がかりの兵士が到着。表情から察するに相当焦っている。サラは何があったか兵士に尋ねる。すると──。
「魔王軍の本隊がウェレンに襲撃してきました。現在戦える者が総力を上げて戦っていますが──」
「大型魔獣相手に大苦戦をしているわけか?」
「はい。通常の兵士はもちろん一般の冒険者では全く歯が立ちません」
腕を組んで青葉と幸一、サラがどうすればいいかを考える。確かに街は救わなければならない。しかしこのままペドロを野放しにすれば何をされるかわからない。そもそもこの襲撃自体がペドロの作戦で彼女から意識が離れたところで大きな悪事を働く可能性も十二分にある。
そして最初に口を開いたのは青葉だった。
「外の敵は私に任せなさい!! あんたはイレーナやレイカを助けて!!」
「え? あんな敵を……倒せるの?」
彼女は胸に手をポンと叩いて自慢げに幸一をイレーナのもとへ行かせようとする。幸一とは青葉を本当に一人にしていいのか戸惑う。ペドロ達を片付けたらすぐに向うと言ってもいついけるかわからない。それはイレーナも一緒だった。
「本当にいいの? 青葉ちゃん、あんまりああいう敵と戦うの得意じゃないんでしょ?」
「大丈夫よ、私には秘策があるわ。だから魔王軍は任せて、あんた達は早くペドロの所へ行って!! 他に方法なんてないわ」
2人はその言葉に反論できない。確かに1回街に戻って魔獣を倒してここに戻ってなんてやっていたらペドロに何をされるかわからない。それに1人で突っ込んで罠を張られたら誰も助けられなくなる。
4人は顔を合わせ、答えを出す。
「わかった。青葉、頼むよ──」
「あたぼう、まかせんしゃ~~い!!」
青葉は満面の笑みを見せる。そしてくるっと反転し右手を振ってバイバイするとただ一言言ってこの場を去っていった。
「幸君、イレーナ。私、絶対勝つから──。だから、あんた達も……、絶対負けないでね!!」
「ああ、絶対に負けない。だから、青葉も勝ってくれよ、無事でいてくれよ」
幸一は青葉が去っていく姿を見つめる。無事であってほしいという願いを込めながら──。
そして彼とイレーナもペドロのところへ向かっていく。
「じゃあ、行ってくるよ──。イレーナ、いいね?」
「うん」
「ああ、行ってくる。サラは、警備の兵士達と一緒に早く外へ」
「──わかった」
サラはいつもこの無力感にさいなまれている。みんなが戦っているのに自分だけがこうして立っているだけで何もできない。自分だって力になりたいと言う想いが胸の中にあるれ出す。
しかし無駄にここにいて人質にされでもしたら目もあてられない。感情を抑えてサラはこの場を去っていく。
「幸君、絶対みんなを助けてね──」
何処かうなだれたように感じたサラの言葉。幸一は彼女の感情をどことなく理解する。自分だけ役に立てないと言う感情、それはつらいものがあるだろう。いつか一緒に戦おうと頭の片隅で考えながらペドロ達の所へ向かっていった。
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