第110話 ペドロの過去

「ふざけないでよ、あんたにアリーツェの何がわかるのよ!!」


「市民達を守るのだって仕事なのよ、あそこで行かなかったら街が壊滅していたわ!!」


 レイカの言葉は当たっていた。巡礼祭の護衛にあたっていた魔法使い達が来るまで街の十字軍との戦いは十字軍がかなり優勢になっていた。援軍が来たことでやっと十字銀を押し返すことができた。しかし結果として国王達の守備が手薄になりそこを突かれてこのような事態になってしまった。


 一触即発の事態。

 グラードは内政面や政策は悪くないのだが貴族の中でもどこか口が悪く相手の事を考えず思ったことをそのまま言ってしまう癖があった。


 彼が国民達にそれなりに良い政策や行いをしている事を知っている国王は強く言えず

 国王はその貴族を何とかなだめる。


「おい、無駄口は慎めと言ったはずだろう。取り消せ」


「国王様ももっと強く言ってよ、貴族達だってちゃんとまとめるのもあなたの職務なのよ」



「わかったよ。ああ、すまなかった」


レイカが人質になっている国王に向かって不機嫌そうに叫ぶ。すると今度はアリーツェが早歩きでレイカのもとに駆け寄りたしなめるように注意する。




「レイカ、お止めなさい、あまり揉め事を起こさないで。今がどんな事態か理解して。仲間割れをしている場合ではないでしょう」


「……チッ、わかったわよ──」



 納得がいかないがレイカは彼女の命令に渋々従った。アリーツェも国王の事情は分かっている。

 彼は絶対的権力を持っているわけではなく彼のような有能な人材に対しては強く出れないのであった。


(感情的で猪のようねぇ、やはりこいつにはあの作戦が有効になりそうだねぇ)


 そう考えながらペドロがアリーツェや幸一に向かって叫ぶ。


「とりあえず道を進みな。さすがに国王が殺されたとなってはまずいだろう。命令だよ」


(チッ……)


 舌打ちをしながら幸一は他の兵士達に説明を始める。今は指示に従うしかないと──。そして嫌々ながらペドロの命令に従い幸一達は再び道を進む。10分ほどするとさらに道は薄暗くなる。


 狭くなりいくつかの階段を下って行きさらに地下深くを進む。









 そして10分ほどろうそくで照らされた狭くて薄暗い道を進んでいく。そして扉にたどり着く。中央には龍の形をした絵。


「次はあんただイレーナ、あたいはわかっているんだ。その扉を開けな!!」


「はい」


 イレーナがうつむきながらペドロの言う通り龍の形をした絵に手をかざす。すると──。







 ゴゴゴゴゴ──。










 なんとその扉が青白く光り輝く。そしてゆっくりとドアが開き始める。それを見ていた幸一が隣にいるイレーナに疑問を持つ。



「イレーナ、どうして?」


「それは……後にして──」


 イレーナの複雑な表情、幸一の中で何か彼女に事情があるのではないかと勘ぐってしまう。

 さらに要人を二人ほど人質にする。幹部のデュラグとアルメロが2人を拘束。


 そしてイレーナと幸一を先頭になる。2人は今後の事を考え互いに手を握り始めながら前へ進んでいく。


 扉を開けた先、それは大きな部屋のようになっていた。

 その場所は壁には文字がぎっしりと書かれていて机やいすが会議室のように規則正しく並んでいる。机の上には見たこともない不思議な円形や六角形の置物などが見せびらかすように陳列されている。



 幸一達はまずこの部屋の壁に視線を向ける。


「この文字、読めるか?」


「……うん」


 どこか言いずらそうな言い方でイレーナが首を縦に振る。

 ペドロが二人の前に出て笑みを浮かべながら叫ぶ。まるでこの遺跡のすべてを手に入れたような



「まずはイレーナ、あんたにようさ。私の所に来な。意味は分かっているはずさ、この遺跡の秘密。あばいてもらうさ」


「──分かりました」


 そしてペドロが一冊のノートをイレーナに渡し彼女が解読を始める。

 イレーナがこの部屋の文章を書いている間、国王がペドロに向かって話しかける。



「ペドロ。貴様イレーナの事もこの遺跡の事も知っているようだ。初めてここを訪れた時お前同行したのか?」



「ああ、御名答だねぇ。 私はあんたに使える兵士だったのさ、それもただの兵士ではなくそれなりに部下もついていた地位でねぇ」


 ペドロは国王に視線を向け邪険な表情でにやつきながら彼の質問に帰る。

 驚愕する周囲。彼女が昔は国王軍だった事実に衝撃が走る。

 それに話しかけたのは幸一だった


「つまり貴様が十字兵の中で破壊活動をやっているのはそこに原因があるんだな?」


「ああ、あたいはあの時国王の警備をしていたんだ。その時この遺跡で大きなそしてこいつを守るため多数の部下が犠牲になった。忌々しいあの出来事。あれが私の今の原動力になっているね」


「あんた、そんな下らないことのためにこんな組織を作っていたの? 悪事をやっていたの? 死んだ兵士達も誰も喜ばないわ? ただの自己満足じゃない!!」


「うるさいよレイカ。貴様のような小娘に何が分かる!! 今でも忘れないよ部下達の叫び声。救えなかった無念。同じ命なのに、どうしてあんたは生きながらえて彼らは死ななければならなかったんだってね、今も私の思考をよぎっているよ」


「何も分からないわ、自らの復讐なんかのために人生をささげている人の頭の中なんて。後に残るのは空虚だけよ」


「フッ、まっすぐに生きてきた嬢ちゃんだねぇ。空虚かどうかは後でわかるさ」


 レイカはあきれ果てペドロと口論するのをやめる。彼女からすれば復讐なんかのために人生を投げうつ思考が理解不能であった。


 そしてペドロがイレーナのそばにより始める。


 その後、この場にいる誰もがイレーナの古代文字の解読に意識を奪われる。

 そしてこの瞬間を今かと待ち構えていた少女が一人。


(これならいけるわ──)


 青葉は物音をたてないようにさすり足で移動する。



 そして──。

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