第109話 異変

 一方兵士たちは……。





「まあ大丈夫だろ、もう十字兵の3人は倒したんだろ」


「そうだな。後は魔獣か──。でもレイカやイレーナ様がいるんだろ、それにあの勇者だっているし」


「確かに、それなら大丈夫だろ」


 兵士たちは前日に十字兵の3人をレイカやイレーナが倒して撤退した事。何事もなく巡礼祭が信仰していることから何処かゆるんだ雰囲気がこの場を包んでいた。



 そしてもう少しで遺跡にたどり着こうとしている。その瞬間──。



「伝令係か、何の用だ?」


 国王のもとに一人の兵士が早馬を使ってやってくる。伝令の兵士がカバンから一枚の手紙を取り出しそれを国王に差し出す。


 そして国王が手紙を読み始めると伝令係がその内容を簡潔に説明し始める。


「十字兵が街を奇襲しているようです。かなりの大軍で街の守備兵だけでは数が足りません」


「つまり街に援軍を渡してほしいということか?」


 国王が要約する、伝令係は真剣な表情で首を縦に振る。


 十字兵たちはおとりでこっちの兵力を街に回し国王側の兵力が手薄になったところを狙われるかもしれない。確実にリスクはある。どう選択するか、腕を組んで国王は悩み始める。



「恐らくはあれが本体だと思われます」


 伝令係が耳打ちする。その言葉に国王はピクリと反応する。それを見たのか伝令係はさらに奇襲した十字兵の情報をおぼろげながら話す。



「十字兵の師団長ペドロとその幹部たちの姿の目撃情報がありました。軍の規模から考えると街を襲撃しているのが本体だと思われます」


 後方で伝令係の存在を知ったレイカ、慌てて国王の所にやってくる。


「そんな保証は無いけど街の人達の安全だって守らなきゃいけない、仕方ないわ。国王や教徒たちは私たちが守るわ、兵士達の大半は街の守備に回して」


「わかった、兵士たちをウェレンの守備に当たらせる」


 レナの一言がきっかけになり守護兵の約半数がこの場を去りウェレンへと向かっていく。


「巡礼祭、終わったら俺達も街へ向かおう」


 そしてこの巡礼が終わったら幸一達も援軍として向かっていくことを約束する。

 その後もこちらは何事もなく道を進んでいく。

 そして1時間ほどすると遺跡にたどり着く。



 この国で見たどの建物よりはるか昔に作られていそうなレンガでできた建造物。

 廃墟となって半壊したり崩れている古代の建物や柱、家屋などが立ち並び、街全体は六角形に作られたようになっている古代都市のような印象だった。


 中心には宮殿があり、その中心が遺跡への入り口になっているという。


 5分ほどするとその中心へ到達。少し休憩をとった後遺跡の中に入り始める。

 古びた石で出来た建物の後、そこに地下へと続く螺旋状の階段があった。


 階段を下ると薄暗くて細長い道、進まないと後がつっかえるためすぐに道を進んでいく。


 そこまで道が広くないため巡礼祭の列は間延びし自動的に蛇のように細長くなる。

 必然的に国王やアリーツェの周りも幸一がいるとはいえ兵士の数もまばらになっていく。


 松明に照らされた道を進んでいく一行、敵の本隊は街、ここにはいない。

 そんな弛緩した雰囲気。


 そして皆がどこか安心しているその時、事件は起こった。



 ドォォォォォォォォォォォォォォン。



 入口の方で大きな爆発音が聞こえ出す。



 動揺する兵士たち、一気に周囲があたふたし出す。しかし幸一は持ち場を離れるわけにもいかず国王のそばで警護を続けている。そして──。


 ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!


 要人たちがいる場の近くで大規模な爆発が起こる、そばにいた幸一はすぐにその方向に視線を向けて接近する、負傷者がいないか、要人たちが巻き込まれていないか確認をする。



 それが罠だとも知らずに──。



 目を離したのは10秒ほど、わずかな時間国王から視線が離れてしまう。

 そして幸一は国王の方向に再び視線を向ける。すると──。



「簡単に罠にかかったねぇ。油断したね」



 師団長ペドロがそこにいた、彼女は国王を人質にとり彼の首にナイフを突き刺し叫ぶ。



「お前達の負けだ、こいつの命が惜しかったらその兵器をしまえ」


「あ、あんた──」

 国王の周りの兵士達が一瞬で吹き飛ばされる。そしてレイカがやってくる。

 要人がいるところから爆発音がしたためすぐにやってきたのだった。


 ペドロがそう叫ぶとレイカがギッと睨みつけながら言葉を返す。


「昨日私と戦った姿、あれは幻だったのね」


「御名答、流石ノーム共和国最強。物わかりが良くて助かるねぇ」


「通りで弱すぎると思ったわ」


 勝ち誇った顔で話すペドロ、幸一達は罠にかけられていた。昨日戦った3人は全くの幻で、ペドロが作り出した偽物だったと言う。



「とりあえず武器を置いてもらおうか。次の要求はそれからだ」


「チッ──」


 不本意ではあるが国王にもしものことがあったら取り返しがつかなくなる。幸一達や兵士、信者の魔法使い達は一斉に自身が持っている武器を納める。


「ケッ──」


 貴族の一人がアリーツェに文句を叫ぶ。


「なんで街何かに兵士を送ったんだかねぇ──。おかげで敵の策にまんまと嵌っちまったじゃねぇかよォ!! おい、お前ら信者のせいでこうなったんだろ、責任取れよ!!」


 内務大臣を務めている「クラード」がイヤミのように信者達に向かって叫ぶ。信者たちは何も言えない、代わりに叫んだのはレイカだった。


「ふざけないでよ、あんたにアリーツェの何がわかるのよ!!」

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