第108話 天使と初語龍(しょごりゅう)

「とりあえず安全確認は取れました。いつでも出発して大丈夫です」


 進行の責任者にそれを伝えると一行は街への帰還を再開する。


 時間は夕方になり、山をバックに沈んでいく夕日が幸一達の視界に入る。

 夕焼けの陽光がはるか地平線まで広がる森や湖、山々を照らし出す。


「絶景だね~~」


「はい!!」


 青葉とサラが思わず叫ぶ、王都や幸一のいた世界ではなかなか見れない光景だった。

 雄大で絶景な景色に思わず見とれてしまう。この絶景、それがこの国が信仰深いこの国の風土を作ったのだろうか。


 雄大な景色を見ながら巡礼祭の一行は帰路についていった。

 夜、日は完全に落ち宮殿に戻った。


 部屋に戻って一回落ち着くとメイド服の侍女が出てくる。彼女は食事を持って来たらしくテーブルに調理した食事を用意。



 大きい牛肉のステーキにサラダ、ワインに蒸し魚、パンといったフルコースともいうべき豪華な食事。

 香辛料をふんだんに、しかし程よく使われた蒸し魚、牛肉のステーキには野菜や果物のソースが添えられていてとても味わい深い。


「うわぁ~~、おいしそうです」


 サラが恍惚の表情で囁く。みるだけでおいしそうな食事。

 いただきますの言葉の後幸一達は楽しみながら食事をとる。


「おいし~~」


 素材の質も高く味わいもとてもおいしい。

 イレーナが笑顔でパクパクと口を運んでいく。さらに紅茶に角砂糖を7~8個入れた後にごくごくと飲み始める。


 サラもおいしさに喜びながら少しずつ口に食事を運んでいく。

 食事をしながら幸一達が今日のことについて話し始める。



「やっぱり襲って来ましたね、十字兵」


「そうだなサラ、今回は何事もなく追い出したが」


「でも、彼らがあの程度の小競り合いで終わると思う?」


 青葉の指摘、幸一にはわかっていた。彼らは今回奇襲こそしたもののすぐに撤退。

 命をかけて戦っているわけではない。

 幸一達は今までの戦いの中で何となく理解していた。目的、夢、野望、それをかけて戦っている時と模擬戦のようにテスト時のような時の戦っている時との違いを──。


 必死で戦った時の表情、動き、何度やられてもたちあがってくる執念深さ、実力以上の力を出してくるものだ。

 しかし今日戦った3人にはそれがない。


 何処か淡泊、食い下がってくるわけでもなく、少しこちらが有利になり有効打を許したら何の抵抗もなく即撤退。イレーナ、幸一、青葉3人とも感じていた。


「これで終わりなわけないわよね、幸君?」


「ああ青葉、まだ何か隠していると思う。それこそ俺達が想像もしていないような」


「うん、油断しないように明日頑張ろう!!」


 サラも戦闘は出来ないが周りを観察して不審な動きを察知したり情報面で役に立てようと決意する。

 明日の巡礼祭の最終日。恐らく何か動きがあるだろう、それでも力を出し切ってみんなを守り切る。そんな決意を胸にしながら4人は一夜を過ごした。






 最終日。


 今度は馬車を北東に進んでいく。


 この辺りはこの星の緯度が高く雪こそ積もっていないものの一年中気温が低く植物の生長可能期間が短い。そのため樹木が生長できないコケ類や灌木、草本類が生えている。そんな平原を進んでいく幸一達。

 まさに最果てといった雰囲気。


 今日も先頭を馬車で進む幸一、青葉、イレーナは今日も普段見ることができない絶景をまじまじとみる。


「綺麗だね──」


「うん」


 警戒を怠らない中、景色を楽しみながら道を進んでいく。

 そんな中幸一達は馬車の中でこれから巡礼をおこなう場所について話し始める。


「しょごりゅう──だっけ??」


「うん、それが次に巡礼をおこなう遺跡に祭られているの」


「天使達の使いとしてあがめられている」


 サラがその龍についての事を思い出す。


「はい、確かここの龍はこの世界を創世した天使と密接な関係になっている言い伝えがあります。天使達のしもべとしてこの世界になくてはならない言葉を作りました。ですので初語龍

しょごりゅう

ともいわれています」



 そんな言い伝えを聞いて幸一はとある想像が脳裏に浮かぶ今まで通ってきた景色、この地方の気候。過酷で時には生きていくことさえ困難な極寒の地、厳しさや災いを時には与える一方。恵みをもたらしたりフィヨルドのように見る人をうならせたり感動を与えることもあった。


 だから天使たちを通して自分たちは自然や周りによって生かしてもらっていることへの感謝を確認すること、そのために信仰を通して平和を守り争いのない世界を作り上げていくことを誓うのだと。

 それがこの巡礼祭の本当の意味であると。

 だが人間というものはその数だけ生まれ、環境が全く異なるものである。時には信仰が違うもの、自分たちの信仰の異を唱えたものを敵とみなして人道に反する行為を行ったりすることもある。


 悲しいことに敵は味方の中にもいるということだ。

 そんなことを考えながらサラの話を周囲を警戒しながら聴いていた。










 一方兵士たちは……。








「まあ大丈夫だろ、もう十字兵の3人は倒したんだろ」


「そうだな。後は魔獣か──。でもレイカやイレーナ様がいるんだろ、それにあの勇者だっているし」


「確かに、それなら大丈夫だろ」


 兵士たちは前日に十字兵の3人をレイカやイレーナが倒して撤退した事。何事もなく巡礼祭が信仰していることから何処かゆるんだ雰囲気がこの場を包んでいた。



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