第67話 魔獣「アサシン」VSルト
「あれだ!!」
ルトが再び気づいて指をさす、幸一がその方向に視線を向ける。すると──。
「確かサラから教わったことがあるな、あんな形の魔獣を──」
身体はやや灰色をしていて長身痩躯、遠目からは普通の人間に見えるがこうしてまじまじと見るとやはり怪しく見える。
「確か名前は……、アサシン」
人型の魔獣「アサシン」であった。アサシンは二人を睨みつける、どうやら幸一とルトを敵と認識したらしい。幸一が一歩出て戦う準備をするとルトがさらに前に出て話しかける。
「たまには僕に行かせてよ、守られてばかりなのは嫌だから……」
微笑を浮かべながらの言葉に幸一は彼の心情を考えアサシンの討伐をルトに任せた。
「じゃあ、行かせてもらうよ──」
ルトはそうつぶやき自身の剣を強く握る。
幸一にとってルトの戦いを見るのは初めてである。彼がどんな戦いをしているのか幸一としてはとても興味があった。
そしてアサシンを睨みつけながら身体の中に魔力を集中させていく。
タッ──。
アサシンが一気に間合いを詰めていきルトの胸元に短刀が迫っていく。
中級魔獣と言うだけあって早く尋常でない速度で剣を振り回す。
しかしルトは一回後方に下がり攻撃をかわす。
アサシンはさらに追撃、ルトはアサシンの短刀を避けて剣を空中で弧を描きアサシンの右手に向かって切り下ろしてくる。
アサシンはとっさに短刀を右手から離して間一髪でかわし左手に短刀を構えなおし、間合いを取る。
それを見てルトも剣を構えなおす。
「アサシン、意外とやるね……、だけど」
そう囁きながらもう一回アサシンに接近、間合いを詰めていく。
「こんなもんじゃない、僕が追い求めている強さは!!」
そして再び打ち合いを始める。
跳ねるように下がったルトはアサシンに薙ぎ払い、切り下ろし、さらにアサシンを追い込んでいく。
「ルト、行けそうだな……」
徐々にルトが押していき勝負を優勢に進めていくのが明らかになった。
そして──
救援なる力、その想いを斬撃と化して貫け!!
オーバーロード・スレイシング
カァァァァァァァァァァァァァァン!!
自身の剣に強大な力を込めアサシンに向かって剣を切り上げる、アサシンは何とか対応したもののその圧倒的な威力に対応しきれずのけぞるような体制になり無防備な状態になってしまう。
「よし、いける!!」
そのスキをルトは見逃さなかった。
ズバァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ
ルトの渾身の一撃がアサシンに直撃、アサシンの体は10メートルほど身体を吹き飛ばせ、後ろにあった壁に激突し、その場に倒れこむ。
「やったか?」
幸一はそう叫んだが、その瞬間アサシンは右手をぴくぴくと動かさせまだ息がある事を二人に教えさせる。
構えなおすルト。
そしてゆっくりと立ち上がり二人に冷たい視線を送り狂気めいた叫び声を上げる。
「ギィィィィィィィヤァァァァァァァァァァァァァァ」
そして一気にルトに襲いかかる。しかしルトの対応は冷静だった。
アサシンの振り上げた剣を受け止めるとそのまま体を反転させて急接近。
無防備なアサシンののど元を差し貫く。
アサシンは攻撃を受け五メートルほど吹き飛ぶ。
「ヴェアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアヴォオオオオォォォォォォォ」
断末魔の声を上げながらのたうちまわるアサシン。
紫色の体液がアサシンの体から噴き出るように飛び出す。
そしてまるで蒸発していくかのように身体が消滅していった。
「どういうことだ──」
その姿を見て戸惑うルト、すると幸一はアサシンの特性を知っていたのでその秘密をルトに話す。
アサシンは従来の魔獣と違い獣ではなく人間の形をしている。
戦闘能力はザコ敵のデュラハンより強い。他のモリフェンやウィザードなどのように強力な光線は出さないが近距離戦闘はそれなりに強い。
魔獣たちが押し寄せてくる襲撃では姿を見せず、彼らの役目は主に人に化けて秘密を盗んだり、主要人物の暗殺や尾行が中心になっている。
中には政治家の姿になり街中で過激な演説を行い、国民たちを間違った方向へ導こうとしたケースもあったらしい。
「戦闘用の魔獣ではなく諜報など裏方の作業をする魔獣っていうこと?」
「うん、そう」
特殊な魔獣で特定の条件で指令を出すと死ぬまでそれを実行しようとする特徴もある。
使い捨てで指令を達成したり大きなダメージを受けると消滅するという。
「とりあえず助かったよ。しかし剣の腕もいいね、今度手合わせ出来ない?」
幸一は彼の剣さばきに感服し、模擬戦がしたいと思い交渉する。ルトは少し戸惑い苦笑いしながら口を開く。
「ああ……、考えておくよ」
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