第66話 あの女の子姿はまさか???





 やや雲がかかった晴れの日。

 中央公園、魔王軍の襲撃が来る三日前。

 大都会のオアシスとして家族連れやカップルなどでにぎわいを見せている。

 そこで幸一は周りをゆっくりと見回しながらベンチでゆっくりとしていた。


(考えたらこうしてゆっくり過ごすのってこの世界に来て初めてだな……)


 勇者としてこの世界に来てから魔王軍との戦いやこの国の政局争いなどに奔走されていた。



 オフの日もイレーナとトレーニングをしたり資料を読んでこの世界の事を知ろうとしたりでこうしてゆったりと過ごすということがあまりなかった。


 今日は平和な日を過ごせると思いながら辺りを見回していると前方に興味深い光景があり視線をそちらに向ける。


 警戒をしながら辺りを見回している一人の少女がいた。


(あの女の子、誰か待っているのかな?)


 つい日頃の癖で幸一はその少女の意味深なそぶりを気にしてしまい少女をじっと見つめる。

 ついに二人は目があってしまう。

 そして彼女の素顔を見た途端幸一は驚愕する。


 エメラルド色の髪の毛をしたロングヘア。


 ぱっと見ではゴズロリのメイド姿の華奢な少女に見える。

 しかしその声で幸一はすべてを理解した。


「こ、幸君!!」


「その声……、ルトだな──」


 女の子の姿をしているが声や顔つきですぐにわかった



 ホーゼンフェルト・ミッテラン、通称ルトであった。

 先日のお嬢様風姿に続き今回はメイド姿。


 先日とは違う服装だが完璧な女の子の姿をしていて何も知らない人か見たら百人中百人は女の子だというだろう。


(幸君に見られちゃった)


「ほ、ほら──。別にダメって言ってるわけじゃないんだけどさ……良く似合ってるっていうか本当に違和感なく変装出来てるよ」


 一応彼は王子様で少年である。そんな彼に女装が似あっているというのはどうかと幸一は悩んだ。本人も少し気にしている様子が表情から確認できる。




(そんなことはないはず……、まさかな──。一応聞いてみるか)


 幸一にまさかとは思いつつもとある疑問が脳裏に浮かんでしまう。



「あのさぁ……、ちょっといいかな」


「な、何?」


 幸一はほんのりと顔を赤くして言いずらそうな表情で質問をする。


「#その女の子の姿って本当にやらされてやっているの?__・__#

ひょっとして趣味でやっているとか?」


「そ、そんなわけないじゃん。僕は男だよ!! そんな扱いしないでよ!!」


 ルトが顔を真っ赤にして反論する。


「青葉がコーディネートしているんだよ。街に王子様が現れたら大騒ぎになっちゃうから変装をするようにって──。何で女装かは分からないけど……」


(お前も少しは抵抗しろよ……)


 そんなことを考えたが青葉の事だから強引に押し切っているのだろう。幸一はそんな予想をして話しの本題に入ることにした。


「それで、一体何があったの? 聞いてもいい?」


 ルトが真剣な表情をし始めてここにいる理由を話す。


「えーっと、あまり大きい声じゃ言いずらいんだけど。この辺りに魔獣がいるらしいんだ」



「え? そうだったんだ。でも──、一体どんな魔獣なの?」


 今日は休日のためこの中央公園は家族連れやカップル、子供達でにぎやかになっている。

 その中で二人は周囲を見回しルトが追っている敵を探す。


「人の形をしているんだ。良く似ているけど少しだけ違うところがある。」


 そしてルトがその説明をしようとすると──。


「なんか視線を感じるな──」



 幸一の姿に気づき周りの人たちがわらわらとよってくる。

 そしてその視線は女の子になっているルトにも注がれる。


「え? 隣にいる女の子、まさか勇者さんの彼女?」


「まじかよ、唯一王さんもう#彼女__・__#を作っているの?」


 周りがひそひそと幸一達を見ながらしゃべる。


「まぁ可愛いメイドさん。唯一王さんはこういう従順そうな女の子が好きなんですか?」


「そ、そ、そ、そういうわけじゃなくって──」


 慌てて手を振って否定する幸一。

 まさかこの人たちは想像もしないだろう。隣にいるのがこの国の王子様で、それも完璧な女の子の変装をしているとは──。


 ルトは何とか苦笑いをして対応する。幸一は何とかこの場を切り抜けるためにっこりと笑顔を浮かべながら周りに向かって叫ぶ。


「ごめん、今仕事中なんだ。魔王軍についての調査があってどうしてもこの場を離れさせてほしいんだ。また今度ね」


 すると幸一の声に反応して何かを思い出したように二人の少女が近づいてきて話しかけてくる。


「それってさっき公園の奥に走っていった不審者の事ですか?」


 少女のその声に幸一とルトが反応する、二人の少女は事情を話す。

 話によるとさっきまで公園の中をうろうろしていていたのだがどうも様子がおかしかったという。


「何か人間なんだけど何かおかしいのよね」


「そうそう、目の焦点が合っていなかったり、肌が何か黒っぽかったり普通よりおかしかった」


 二人の証言をメモに取っているとルトが何かを見つけたように後方に指をさす。


「あれじゃない?」


 ざわめきだす周囲。一斉に彼らの視線が後方に向く


「あ、あれです。すぐに捕まえましょう!!」


「いや、待って。強い魔力の持ち主かもしれない、俺とルトで行く。みんなはここから避難して、ルト、行こう!!」


 ざわめく周囲を何とかなだめて落ち着かせる。すぐにこの場を去り公園の奥へと向かっていく。


 公園の林の中、国の財政不足で手入れが不十分のためうっそうとした林が茂っている。

 薄暗い道のり、時折道に迷いそうになる中進んでいく。


「あれだ!!」


 ルトが再び気づいて指をさす、幸一がその方向に視線を向ける。すると──

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