第68話 戦いの結末、突然の展開

幸一は彼の剣さばきに感服し、模擬戦がしたいと思い交渉する。ルトは少し戸惑い苦笑いしながら口を開く。


「ああ……、考えておくよ」


「その時はよろしくな」


 さらに幸一はルトに話しかける。


「俺は宮殿に帰るけどルトはどうするの?」


「僕はまだここにいたい」


「まだ何かあるの? 協力するよ」


 幸一の言葉にルトは首を横に振りながら答える。


「いいや、違う。ちょっと見てみたいんだこの街を──。こんな平和な風景、何か僕好きだから」


 ルトは今までいろいろな風景を見てきた。

 いい風景ばかりではなかった、戦場では兵士たちのしがいが並んでいる姿。スラム街で貧困に苦しんでいる姿。

 いい風景ばかりではなかった。


 そういった残酷とも、現実ともいえる光景を見続けてきたからこそ、どこか好きなのだ、こういった平和に国民たちが暮らしている姿を見るのが。

 そしていつも決心する。世界のすべてがこんな風景になったら──と、そのために自分は戦う……、と。


 時間はすっかり夕方になり日が暮れ始めていた。


 二人は互いに挨拶をして別れていく。


「じゃあね」


「また今度手合わせしような!!」


 また同じ目的のために戦う、そんな思いを胸にしまいながら……。



 そんな余韻に浸っているとこっちに向かって誰かが走ってくる。


「あれ、青葉だよな?」


「幸君、ルト君。大変なことになっちゃった!!」


 青葉だった。それもいつもと違いかなり動揺して慌てている。どうしてそんな様子になっているのかを幸一が聞いてみる。すると驚きの言葉が返ってきた。


「対抗派閥のヴァロワ家達が魔王軍との共闘を放棄するって主張しちゃったの」


 完全に寝耳に水であった。

 三貴族と言われ地方領主の貴族の中でも有力で広い国土を持つ影響力の強い家系。


 自分の管理する土地の人達を私物としか考えず、暴力や収奪は当たり前、悪評しかない貴族達。

 幸一もこの世界に来たときにその説明を受けていた。


 話は先ほどの議会にさかのぼる。

 途中までは予算や国政に関することなどいつも通りの審議を続けていた。しかし議会の終盤になって突然声を上げる者が現れる。


 ヴァロワ家の当主であるヴァロワ=ローランスが突然声を上げ始めた。


 今の国王や勇者幸一のやり方が抑圧的で独裁者のように横暴だと主張しこのような人物とは共に魔王軍と戦うことは出来ないと主張。


 一方的に戦いを拒否、議会をボイコットしてその場を去ってしまったのであった。

 国王は突然の出来事に何が起きたか理解できない様子で頭が真っ白になってしまう。

 すぐに彼らのもとに行ってしどろもどろになりながら必死に説得を行う。魔王軍との戦いは国家全体で行わなければいけない。国会での対立や私的な感情を入れるべきではない──と。


 しかしローランスはその声を気にも止めずに立ち去ってしまった。

 にやついた笑みを見せながら──。



「本当に? 目的は何なの?」


 イレーナが動揺しながら質問をするとサラが推測を始める。


「まずは恐らくは魔王軍との戦いで俺達を疲弊させてその後に自分たちがこの国の中で主導権を握ることが目的でしょう」


 それに乗じて今度は青葉が口を開く。

「国王の権限を失墜させることも目的だと思うわ。そして失墜させた後に自らが実質的な新しい権力者になろうとしているのでしょう」


 それに対して幸一は一つの疑問を抱く。


「でもなんでローランスはそんな強気に出られるんだ? いくら権力者と言っても何だってできるわけじゃない。いくら上の奴が不参加を表明したって冒険者が戦うって言って独断で参戦を決めたら奴な何もできないぞ」


 それはそうだ。いくら権力者だからと言ってあまりに冒険者の意思に背いたことなどできない。彼らに裏切られたら政治基盤そのものを失い失脚させられかねない。

 幸一の世界でも軍隊に裏切られ失脚、ひどい時には処刑にまでなった指導者だって存在している。


「奴らだってそれはわかっているはずだ。特に自らの保身を第一に考える奴らの様なタイプであればある程だ──」


 だが現実として彼らは魔王軍との戦いへの不参加を表明している。

 すると青葉はきりっとした表情で幸一の問いに答える。


「それなんだけどね、私も不審に思って調べてみたの──。彼らの領地にすんでいる冒険者の人達に聞いてみてすぐわかったわ」


 青葉の顔つきが深刻になる。

「奴ら、故郷にいる家族達を人質にしたのよ。彼らの安全を確保してほしければ、自分たちの意見に従えって」


「そういうことか──。確かに武力では魔法が使える冒険者には勝てない。だから人質を使って──」



 突然の知らせに幸一は動揺し、考える。冒険者たちを守り、どうやって魔獣と戦うか。そしてこれからどうするかを──。


 五分ほど重い雰囲気と沈黙がこの場を支配する

 そしてようやく幸一が口を開き始める。



「いいよ、冒険者たちは撤退させろ」


 襲撃まで時間があるならやつらの領土へ行って敵たちを全滅させることもできた。しかし今回は襲撃までもう時間が無い。奴らの忠告を無視して戦わせたところで冒険者も魔王軍相手に集中して戦うことは出来ない。


 恐らく人質にされている故郷の家族達がちらついてしまうだろう。


「それなら例え数が足りなくても戦える人たちだけで戦った方がいいってことね──」


青葉の答えに幸一が同調する。


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