第15話 イレーナとの一夜
その夜、宮殿に戻ったイレーナとサラ、幸一は国王と食事をとることになる。
幸一からの急な提案で、食事をしながら話がしたいという事だ。
豪華なアンティークな装飾品に飾られた部屋で、周りには警護の兵士もついていて、警備に囲まれた中での食事。
野菜のスープとライ麦パン、ハトのシチューと、豚のソテーが今日のメニュー、全員が食事を始める。
豚のソテーはニンニクとハーブが程良くい香り豊かな料理。
他の食事も素材の味がよく出ていて、よい味をしている。
食事を終え、皿が片付くと、幸一が話の本題に入り始める。
「ここから私個人が見た、この街の問題点について説明します」
幸一が真剣な表情になりとりあえずこの街で起こっていることを説明し始める。
地方では魔王軍との戦いや内戦によって難民が発生、首都であるこの街では、急増していく人口に街のインフラが対応できず、下水道の中にひびが入り飲料水が汚染。
また食糧事情が悪化し、栄養状態が最悪の状態になった。
また、統治が隅々まで届かないため違法な長時間労働が各地で横行し市民達は疲弊。栄養状態の悪化とも合わさって疫病が流行したということだった。
もちろんこの世界では細菌の概念など存在しない。
幸一の世界でも細菌が発見されたのは十七世紀の近世のヨーロッパであり、中世ではまだ存在すらも知られてない。
そして原因が分からないことから魔術を使える女性が原因だとアジテーターが煽り始める。危うくその少女が生贄にされてしまうところを何とか幸一が、持っていた知識を動員して皆の協力もあり何とか解決したというところであった
「国王様、とりあえず窮地は脱しました」
「勇者様、それはありがとうございます」
どこか他人事のような口調をした国王に少し疑問を抱きつつも、真剣な表情でさらに言葉を進めていく。
「しかし根本的なところは全く解決していません。私もできるだけ力を貸しますので協力の方よろしくお願いいたします」
「わかった、協力するよ」
衛生環境、食糧事情の改善、長時間労働の是正。それが幸一から見たとりあえずのこの街の改善点であった。
そして幸一が腕を組んで、具体的に指示を出し始める。
「まずは水系の能力者をありったけ集めてやってほしいことがあります」
「何ですかな?」
「飲料水の確保をまずはこの街全体に出来るようにしたいですね。あの場所で起きたということは、他の場所でも起きるということでもあります」
当然であった。今回の出来事は氷山の一角が浮き彫りになった様なもので、他の場所でも同じことが起こる可能性も十分にある。
それどころか下手をしたら幸一の世界では存在しない新しい種類の細菌に突然変異をして、パンデミックになったら幸一でもどうすることができないため、その前に未然に防ぐ必要があった。
「つまり俺の知識で解決できるうちに何とか解決したいってことです」
「確かに、それはそうですな……」
納得する国王、そしてギルドを通して水を作り出せる冒険者に対して飲料水の確保の仕事を出させる約束を行う。
出来るだけ多くの冒険者を集めるため報酬は相場の三倍となった。
「とりあえず衛生管理には気を配ってください、そうすればこの問題は自動的に解決するでしょう」
「ああ……はい、分かりました」
どこか気の抜けた返事に幸一はどこか心配になる、果たしてこの国王で大丈夫なのかと──。
さらに今後の本格的な対策についても助言をする、衛生環境を整えるようにと──。
そんな会話をしながら食事の時間は終わり各自部屋に戻って行った。
その道中で幸一がつぶやくように言葉を漏らす。
「ちょっと心配になってきた……」
「何がですか?」
サラの問いに幸一があの国王だと答える。
今が国難だって自覚が足りない。何処か安穏とした雰囲気を感じて、そこに少し不安を感じていたのであった。
「大丈夫だと思います。一応あの人も今が魔王軍と戦っているということは理解できていますし、足りないところは私たちが埋めればいいんですから……」
サラがそう言って自分の部屋に戻って行く。
そしてこの後シャワーを浴びて就寝の時間となるのだが──。
明日は魔王軍の襲来ということで、幸一とイレーナは魔力を最大限に回復させるため、一緒に手をつないで寝る事となった。
二つのベッドの間が十センチほど離れていて、その間にブリッジのように手をつないで二人が睡眠をとる。
イレーナはぐっすりと睡眠についていたが、幸一はそうでは無かった。
イレーナはなんとこっちのベットに入ってきて寝返りをうって来たのだ。
そして寝返りをうった先に幸一がいて覆いかぶさるようにして、イレーナが幸一にのしかかる状態になってしまったのである。女の子を感じさせるスタイルとにおい、ドキドキして心臓が破裂しそうだった。
「や、やばい!! 起こすわけにもいかないしどうしよう──」
と混乱する幸一はすぐにどうしようか考える。
この状態で起こせば何を言われるかわからない。
エメラルドのネグリジェを着ていたのだが、ピッタリと着ているわけではなく、大きく豊かな胸の膨らみがはだけていて、白い肌が服の隙間からチラチラと見えそれが幸一の情欲を刺激していた。
幸一が突然に事態に動揺していると、イレーナは夢を見ているようで寝言を幸一の耳元で囁き始める。
「お父さん、お母さん、1人にしないで……」
彼女は何の夢を見ているのだろうと幸一が考える。首をかしげるとイレーナの瞳からはうっすらと涙が溢れているのが見えた。
理性と戦っている幸一をよそに、イレーナが夢の続きの言葉を漏らす。
「私絶対に力になるから……、戦うから……」
イレーナの過去に何があったんだろうか、幸一は考えてみたが今の自分ではどうする事も出来ない。
今は彼女との信頼関係がそこまでない、話しかけても何も言ってくれないだろう。いつかもっと彼女に信頼されるようになって、腹を割って話すことができるようになったら聞いてみよう。そう幸一は心に決めた。
(イレーナ、待っててくれ、俺が何とかするから……)
そういう意味を込めて幸一はイレーナの手を握る、すると──。
「ちょ、抱くのはさすがに!!」
イレーナがぎゅっと両手で幸一を抱きしめてきた。
イレーナの豊満な胸が柔らかく押し潰される感触に頭がかっと沸騰するくらい真っ赤になる。
真っ白の天使のような肌が幸一に触れる。結局その日の幸一はほとんど寝る事ができなかった。
そして魔獣たちの襲撃の日となった。
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