第14話 私のミルク飲んでみてください、どんな味ですか?

(恐らくはあれを見てみないと──)


「わかりました、とても参考になりました。この問題は私が絶対に解決してみせます」


 自信のある表情で頭を下げ、幸一達はこの場を後に。


「問題が分かったってどういう事ですか? 原因って何なんですか?」


「恐らくは水だな、あの水を使わなければ問題は出ないはずだ」



「ちょっと水道を調べてくる」


 そう言って幸一は地下に入って水道を調べに行く。そして十分ほどすると、みんなのもとへ戻ってきた。そして──。



「わかった、廃液の所が漏れてるんだ、この辺りの水はとっちゃだめだ、みんな感染するからな」


 水道と廃液の所の壁に亀裂が入っているのを確認した幸一が伝える。ここの周辺の水は絶対に使わないようにと、井戸の前に使用禁止の張り紙を書いて置きながら。

 するとレイが疑問点を見つけて、質問をする。


「でもどうしましょうか、みんな他の井戸から水をとってくることになるんですよね、結構な量ですよ」


「それに生活に使うような水をどこかから手で持って来いというのも面倒だし──」


 ローザンヌも話に入る、水道を直すとしてもそれなりに時間はかかる、それまでの暫定的な手段として幸一は一つの案を出す。


「レイ、水を生み出せるんだろ? 今は取り合えずその魔法でみんなの水を供給できないか?」


 その案にレイは手をポンとたたき納得する。


 レイは水をつかさどる能力者で魔力自体はあるのだが攻撃魔法が貧弱で戦闘には向いていなかった。なのでこういう使い方の方がレイにはあっている。

 もちろん彼女一人ではなく、水の供給を出来る冒険者を集めることになったわけだが……。


「わかりました、やってみますね」


 レイがガッツポーズをしてそれを了承する。





 その方法に変えて一週間、1人もその奇病になった者はいなかった。

 そしてその後、ローザンヌを生贄にしようとした広場で宣教師に睨みつけながら詰め寄った。


「もうお前を信じる者はいない、お前の負けだ。さあ──言ったよな、もし俺が正しかったら貴様を生贄にすると!!」


 すると納得がいかないのか、宣教師はポケットからナイフを幸一たちに突きつける。

 その行動にイレーナが武器の槍を取り宣教師に向かって突きつけた。


「うっ、貴様も魔法使いだったのか」


 幸一は宣教師を睨みつけながら叫ぶ。


「お前はどんな理由があろうと人を殺そうとし皆を間違った方向へ誘導とした、言ったよな? もし俺の言葉が正しかったらお前に生贄になってもらうってな!!」


 腰を抜かし始め後ずさりをする宣教師、幸一はギッとさらに強く睨みつけて宣教師との距離を詰める。

 すると発狂しながら両手で頭を抱えてヒステリックになり叫び始めた。


「い、い、い、い、い、い、い、い、嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない、助けてくれ~~~~~~~~」


 宣教師は逃げるようにこの場を走り去って行った。


 そして彼が逃げていったのを見ると三人は安心する。

 そこにローザンヌとレイがやってくる、二人はうっすらと目に涙を浮かべながら幸一達に頭を下げる。


「本当にありがとうございました」


「こちらこそ、二人がご無事で何よりだよ」


 ローザンヌとレイの心からの気持ちに、幸一は礼儀よく言葉を返す。すると幸一が二人に気になっていた事を質問。


「話しは変わるけど二人の生活について知りたいんだけれどいいかな?」


 彼が二人にお願いしたのは彼女達の生活具合であった。二人のような一般層の生活の状態がどうなっているか、この機会に把握しておきたかったのであった。


 二人は意外な質問にびっくりしたが、すぐにローザンヌがそっぽを見てまるで嫌なことを思い出したかのような表情で答え始める。


「ああ……、分かりました。ここで立ち話をするのも何なんで私の部屋に来た方が早いと思います、五分ほどで着くのでよかったら来てください」


 幸一は予想しなかった答えにチャンスだと思い、喜んで彼女の所に案内させてほしいと返す。


「ありがとう、助かるよ──、ということでイレーナ、この後時間が欲しいんだけどいいかな?」


「あ、うん、」


 ほんのりと顔を赤くして声を詰まらせながら、イレーナが答える。


 そして幸一、イレーナ、サラ、ローザンヌ、レナがローザンヌの集団住宅へと移動を始める。


 道はゴミが散らかっていて汚い小汚くて裏通りには生活ごみが散乱している。どう考えても衛生環境が最悪だということが理解できた。




 そんな道を進んで五分程歩くと、小汚い三階建てほどの建物の前で先頭のローザンヌが足を止める。

 赤レンガで出来た質素な建物の前。


「ここが私の住んでいるところです」


 ローザンヌの家はここの三階にあった。階段を上り彼女の部屋に上がる。


 部屋は特に装飾品などもなく質素で、ローザンヌ自身が掃除を行っている状態だったこともあり清潔感はあった。


 全員が部屋に入り座り込むと、彼女は自身の現状について語り始める。


「私はもともと南方の地方の出身で農村で働いていました。

 しかし内戦や魔王軍との戦いが激化していき数年前からまともに住める状況ではなくなってきたんです」



「それは私も聞いたことがあります」


 サラは一時期貧困層の生活についての調査を請け負っていたことがあるらしく、その時のことをおぼろげながら何とか思い出し語り始めた。


「五年前、この世界に魔法が登場してから地方の領主の中での内乱に魔法が使われ戦闘が激しくなっているんです。魔王軍との戦いの影響もあって、地方によっては壊滅的な被害を受けていて、難民が出ているところもあるんです」


 その言葉に乗っかるようにうなだれながらローザンヌも話し始める。


「それで私は農村で仕事ができなくなり、仕方なく近くにあるこの街にやってきたのですが……」


 大都市では農村とは違った問題が彼女たちに発生していた。

 農村にいた時は仲間内で調理器具を使いまわしたり、共有地から薪を拾ってきたりする事が出来たので、裕福な人でなくともそれなりに多様な調理ができた。しかし薪も石炭も自分で買うとなると必要最低限の器具を買うのがやっとで、それでは長時間煮込んだりオーブンでじっくり焼いたりする料理はなかなかできなくなる。

 なので、自分で作る料理はただ焼いただけ、煮るだけといった単純なものになっていった。


 また、奴隷の首輪をつけている人はそれだけで地位が低く見られまともな職にありつけられなかったり、不当な差別を受けたりするという。



「後この紅茶、飲んでみてください。どう思いますか?」


 と言ってローザンヌが白いマグカップに入った紅茶を差し出す、幸一はその紅茶を口にする。すると──。


「え? 何だこれ!!」


 その味に幸一は驚愕して叫ぶ。イレーナとサラがどんな味なのかを聞いてみる。けげんな表情をしながら幸一は答える。


「味が薄すぎる。っていうかこのお茶味がない、色水だろこれ!!」


「イレーナさん、この牛乳を飲んでみてください。きっと驚きますよ」


 さらにローザンヌはイレーナに苦笑いをしながら、牛乳が入ったコップを渡す。イレーナは軽くお礼を言ってその牛乳を飲んでみる。すると──


「牛乳も味が薄い、多分水増ししてるよこれ……」


 これがこの街の一般層の現実だった。急激に都市部への人口が増えたため食料の供給が追い付かない現状があった。


 特に奴隷などの地位が低い人や亜人の場合飲み物のミルクやお茶は水増しが当たり前、下手をするとただの色水であることもある有様だった。


「これが中世の現実か……」


 ぼそっと呟く幸一、この世界ではゲームや小説で見るような中世レベルの世界ではなかった。奴隷制度、生贄、貧窮する人達という現実のようにこういった負の側面もあったのであった。


「わかった、国王に相談して何とか解決するよ」


「うん、絶対もうこんなこと起こさせないから!!」


 幸一とイレーナが立ち上がってレナとローザンヌに強い口調で約束する。勇者として、王女様として彼女達の境遇を絶対に何とかすると──。


「あの……、飲料水の供給、しっかり責務を果たします。本日は本当にありがとうございました!!」


 今度はレナが会話に入る、親友が助かったのがよほどうれしかったのだろう。歓喜の表情をしていた。今度はレナとローザンヌに応援するようにイレーナと幸一が別れの声をかける。


「こちらこそ本当に頼むよ……、何かあったら相談に乗るから」


「二人とも今度こそ平和に暮らしてね」



「はい!!」


 二人の心からの感謝、それは幸一の脳裏に強く残っていた。

 そしてこの場を後にしながら幸一は考える。


(それにこの最悪の衛生環境、何とかしなければいけないな……)


 この問題の根本的な解決を行う、その事を記録に残した後幸一達はこの場所を去って行った。

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