第6話 階級社会

「あ、ありがとうございます」


 その言葉にお礼を言って、幸一はその鰻をフォークでつかみ口に入れる。そして──。











(うっ……)





 やはりまずかった。








 油がギドギド、下処理で臭みを取るという事がされていないため生臭くて、さらに塩味がきつくてしょっぱい。おまけに料理自体がキンキンに冷えており、そのせいでウナギにたっぷりと乗った脂が、口中に気持ち悪いくらいに不快な余韻を残す。


 どうすればあのおいしい鰻をここまでまずい料理に変貌させられるのか、ここまでくればもはや芸術の域である。


 サラとイレーナも食してみたが、反応は同じだった。


「まずいねサラちゃん……」


「まあ、独特の味だね」


 店主に聞こえないようにひっそりと、そんなやりとりをしながら少しずつ料理を食べていく。

 何とか料理を食べていく中、幸一が二人に疑問がわいて質問をする。


「そういえば二人はこういう一般層の生活や料理ってどのくらい知っているの?」


 幸一が二人の様子から、確実にこの料理を食べた経験がないと予想した、そこからこの国の上流階級と一般層の距離を知ってみようとそんな質問をしてみた、するとある意味予想通りの結果が返ってきた。



「そう言えば一般層の料理ってあんまり食べた事って無いんかも」


 イレーナに続いてサラもその事を思い出す。


「そう言えば私もそうです、故郷では一般人として育ったので知っていました。でもこの国は階級意識が強いみたいで一般人の生活や食事ってあまり教えられなかったんですよね」


 イレーナもその事について語り始める。


「私も、子供のころは素朴な小さい国で育って良く城下町に行って、色んな人と出会ったり身分の差を超えて貧しい子供たちとよく追いかけっこなどをして遊んでた。

 でも大国の王女様となるとそんなことは出来ないと国王様や参謀の人からもとがめられてしまってそういたことってないんだよね」


 その言葉に幸一が、要約して言葉を返す。


「つまり完全な階級社会になっているってことか……」


「考えてみればそうかも、この国の上流階級の人たちはその人たちだけで、コミュ二ティを作っているようで一般人との接点ってまったく無いなーー」


 イレーナの物悲しげな表情、幸一は少しでも先日の罪滅ぼしになればと、イレーナとサラの力になるように言葉をかける。


「それ、何と解決できないかな? やっぱイレーナはそういうのって好きじゃないんだろ?」


「ちょっと、人の心を勝手に読まないでよ」


 イレーナが自分の本心を見透かされ、思わず反論する。


「い、いやごめん」


「まあ、そうだけど」


「私、イレーナにはもっと幸せになってほしい、だからイレーナが幸一君と手を組めばいい世の中になると思う、イレーナちゃんにとっても世界にとってもいいことだと思う」


 サラが珍しく強気な口調で話しかける。イレーナと幸一は思わず一瞬言葉を失う。

 そしてイレーナが強く握りこぶしをして、顔をほんのりと赤らめながら幸一に言葉を返す。


「べ、別にそんなことされたって嬉しくなんかないもん!! へ、変態の癖に、いいこと言うじゃん」


 複雑な表情をしながらの表情に、幸一も顔を少し赤くして反論する。


「変態って言うな!! でもイレーナが何を価値観にしているのかがなんとなくわかった。何かお姫様らしくないって思ってたけど、やっぱりイレーナはもっと親しくて誰にでもいい人なんだなって感じるよ」


「うぅ……、変態の癖に──」


 どこか納得がいかないという表情で、イレーナはほっぺをぷくっと膨らませる。それを見てイレーナの機嫌を回復させようとしたのか一つの提案をしだす。


「じゃあ口直しにあそこに行きましょうよ、イレーナちゃんがお気に入りのあそこ」


「お気に入り? あああれ!! フリューゲルね、いいよ行こう行こう!!」


 その言葉を聞いたとたんイレーナはテンションを高くして叫ぶ。余程そのカフェにおいしい食べ物でもあるのだろうか?


 そしてお会計を済ませると幸一は二人についていくように宮殿の方へ戻る。やがて富裕層の人たちが住んでいるエリアに三人は入って行く。住宅も無秩序でいかにも庶民的な街並みから石畳の道に高級感のある家屋が連なる閑静な街並みに入っていた。



 その閑静な街並みに会ったのがカフェテリア「フリューゲル」。

 いかにも女の子受けしそうなカフェといった感じで、小綺麗でおしゃれな雰囲気を醸し出していた。





 頼んだのはサラがお勧めしたコーヒーセットだった。


 注文をしてから十分ほどで、注文した料理が出てくる。



 一つはクレープ、あふれんばかりのフルーツてんこ盛りの生クリームにチョコレートソースやアイスクリームが乗っかっていて、クレープというよりはケーキに近く甘いモノ好きにはたまらなそうなデザートだと思った。


(見るからに重そう……)


 もう一つはドーナツだった。そこはカリカリ、中はふわっとしていてさっきまでのまずい料理よりはおいしく食べられるものだった。


 飲み物はコーヒー、食べ物はドーナツとパフェだった。

 そしてパフェを幸一も口にしてみた、確かにおいしい。しかし──。


「ちょっと甘すぎないか? 女の子にはちょうどいいかもしれないけど」


「まあ、私もそれは感じますね……」


 女の子のサラでも甘過ぎると感じてしまうほどの甘みの強さ。


「う~~ん、やっぱここのパフェ甘くておいしーーい。やっぱこのパフェ!!」


 イレーナにはこのくらいの甘さがちょうどようで、満面の笑顔でパクパクとドーナツやパフェを次々と口にしていく。


 そしてイレーナはコーヒーを飲もうと机にある角砂糖の入れ物から角砂糖とスプーンで取ってコーヒーに入れるのだが……。


(え、そんなに入れるの? )


 その姿に驚く幸一、なんとイレーナはコーヒーに角砂糖を十個も入れたのである。


(イレーナちゃん、大の甘い物好きなんです。慣れてください…… )


 サラが耳打ちしてフォローを入れる。


 食事自体はさっきの芸術的にまずく、もしこんな食事を出す国があったら世界中からめしが不味い国と笑いの種にされてしまうだろうさっきのような料理とは正反対のおいしさ。

 ただ甘いだけでなくフルーツなども入っていて、味に工夫がしてあった。


 出された料理を食べ終わるとサラがこれからの事を説明し始める。


「まずは今日の夜に国王様がこの街に帰還するので明日に面会があります。

 そこで恐らく支援金のようなものが手に入るので、それをもらったら一緒に武器を購入しましょう。そうしながらこの世界について少しずつ説明していきますね」


「あ、うん、ありがとう」


 そしてコップに残っていた残りのコーヒーを飲み干すと幸一に一言。


「最初は一緒に行動していろいろこの世界を知れたらいいと思います。これからはよろしくお願いいたしますね」



「エッチな犯罪とか起こさないでね……」


 ぼそっとイレーナがつぶやく。当然だが彼女は幸一の事を信じ切っていない。

 彼女のジト目が幸一に向けられる。

 そんな気まずい雰囲気のまま三人は宮殿に帰還していった。

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