第5話 おいしい異世界料理
幸一とイレーナが宮殿の前でサラを待つ、3分ほどすると彼女が出て来た。
「おまたせ~~、じゃあ行こうーー」
どこかノリノリ気分になっているサラ。
今日はサラがこ、の世界の事を幸一に教えるため、外に出て案内をする事となっていたのだ。
イレーナは……、半ばイヤイヤ連れて行かれたようで、膨れた顔をしている。
「国王が戻ってくるのは今日の夕方なので、面会は明日になるみたいです。一緒に食事でもしようかと思って」
「あ、ありがとう。でもどんな店へ行くの?」
幸一の質問にサラは、楽しそうに微笑を浮かべながら答える。
「決めてないです。実は私も初めてなんですこういった街へ行くの、だから赴くままにいってみようかと思って──」
「まぁ、私も初めてよ、だからちょっと行ってみたいと思ったの」
聞いてみるとイレーナはお嬢様で、サラはこの国で生まれたのではなく、とある事情で外国からやって来てそれからずっと文官として宮殿にいたのでこういった庶民的な街を歩くのは初めてだそうだ。
宮殿の大きな門をくぐる門番の兵士たちが一斉に頭を下げる。それを見た幸一は驚きながらも、サラのあとについていく。
まずは立派で綺麗かつ豪華な屋敷が立ち並ぶ貴族が暮らしているエリアへ。幸一はその物珍しい風景に見とれながら整備された石畳の道を進む。
回りの景色をキョロキョロ見渡す。
赤レンガの家屋や風車や教会などの街並みがそこにあった。
風情のある石造りの家屋に大理石の建造物。中世のヨーロッパをそのまま持ってきたような街並み。
途中見張りの騎士の格好をした人が頭を下げ、挨拶をしてきたので、二人は同じように頭を下げる。
道を進んでいくと、槍や弓など剣を携帯している人が結構な割合で存在している。
すれ違った馬車は荷台があるだけで幌もない簡素な馬車。
やがて、中流層の人たちが暮らすエリアに入る。
先ほどまでの貴族達の街並みと比べると、どこかごちゃごちゃとしていていた。
しかし同時に人々のにぎわいを見せていて活気がある印象が強い。
露店で客引きをしているおじさんや、買い物袋を片手にすれ違う小太りの主婦のおばさん。
世界観は違えどどこか幸一のもとの世界の商店街を思い出すような雰囲気だった。
さらに兎の耳をしていたり獣のしっぽがついている亜人の存在も確認でき、異世界に来たという雰囲気を感じさせる。
どこか庶民的な街へ三人は入って行った。
「やっぱりこういう一般の人たちの生活の事も知っておきたいし、いい機会なんじゃないかと思ってさ」
街並みをじっくりと眺めながら幸一は語る。
これからイレーナ達と暮らしていくならば貴族達の文化だけではなく、一般の人たちの文化や食事、生活を学んでおきたかったからだ。
「とりあえず、ここなんかいいんじゃないかな?」
サラが指差して店の中へ、イレーナと幸一も特にいい店を知っているわけではないので、サラの後に続けて入っていく。
店に入るとふくよかな中年のおばさんが「いらっしゃいませ」と元気よく挨拶をする。窓側の景色がいい四人がけの席に三人が腰掛けるとメニューを見た。
店はそこそこ客が入っていて、にぎわっている。
メニューを見ると昼はトーストとウナギのランチセットしかないようで三人ともそれを頼む。
待つ事十五分程。
「お待ちどう様、トーストだよ」
まずはトーストが出てくる。
三人に配られたのはトーストと、濃い茶色の粘り気のある調味料の入った瓶であった。
おばさんが調味料について説明する。
「これはマーマイトって言ってこの辺りでよく食べられる調味料さ」
ぱっと見ではジャムのようだが生臭い独特の臭気を帯びている。スプーンで瓶の中身をかき混ぜると粘り気が以外とあり、思わず顔をしかめるような嫌なにおいが三人の鼻を支配していく。
「ほ、ほら……味はおいしいかもしれないですし、食べてみましょうよ……」
サラが嫌な顔をしてそっぽを向きながら、なんとかフォローを入れる。幸一は
「これきっとおいしい、大丈夫だ!!」
サラの言葉を信じ、幸一はマーマイトを塗りたくったトーストを口に入れる、そして──。
「ぐええええええっ!!ゴホッ、ゴホッ!!」
ジャムのようなものだと予想したが、実際は正反対で塩味がきつく味を舌で感じた瞬間咳をゴホゴホとむせかえさせる。
そのイメージとは正反対だった強烈な味、思わず吐き出しそうになるのを何とかこらえる。
正直言って今まで食べてきた料理で一番まずかった。
まず強烈に塩からくて変な味がある、そして口の中に独特の臭みが広がってきて思わず吐きそうになる。
同じく食べてみたサラとイレーナもうつむいて……。
「これ、ちょっとおいしくないかも……」
いかにもまずいという表情を浮かべ、何とか食べる三人。
次に頼んだのはウナギを使った料理。
料理を待ちながら三人が会話をする。
「次の料理、大丈夫かな? おいしいかな?」
サラが心配そうにつぶやく、何とかまずさをこらえながら食べきったので今度もまずい料理が出てくるのではないのかと不安で仕方なかった。イレーナも不安そうな表情を見せる。
「サラちゃん、今度はおいしいといいね……」
その二人のやりとりを見て、幸一が二人を安心させるために作り笑顔をして話しかける。
「大丈夫、鰻の料理は食べたことがある。とってもおいしいから安心していいよ」
鰻の料理、それを聞いて幸一はかば焼きのようなものを想像していた。
それなら多少味が落ちてもそれなりに美味しいだろうと予想している。
(まあ、ちょっとまずかったがウナギで口直しだな)
幸一がそう考えたその時、料理が完成したようでおばさんが、その料理を両手に抱えて持ってきた。
その料理に幸一は絶句する。
その料理は一般的な日本人が持つ鰻料理のイメージとは全くかけ離れたものだった。
「え──」
その見た目に絶句する幸一。三人で一皿という形で
その鰻は焼いたのではなく、恐らくは煮込んでいるようでぶつ切りに切ってあった。
さらに料理自体がゼリー状になっていて、ゼリーの中にぶつ切りとなっていたウナギが入っているという料理だった。
グロい見た目でぐじゃぁぁぁ~~という雰囲気で皿に乗っかっていて、とてもおいしそうには見えない。
しかも少し色あせたような青白い色の皮が気持ち悪い。三人とも思わず食べようとするのをちゅうちょしてしまう。
「ああ、この料理知らないのかい。わしが説明するよ」
店主のおばさんがこの料理の説明を始める。
この料理はぶつ切りにしたウナギを煮込んでから、冷やしてゼリー状に固めたもので、温かくしても冷たいままで食べられると説明が入る。
「あ、ありがとうございます」
その言葉にお礼を言って、幸一はその鰻をフォークでつかみ口に入れる。そして──
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