第4話 最悪の出会い

次の瞬間──。


「え──?」


 幸一は左足首の外側に強い衝撃を感じた。

 その瞬間、慌ててすぐに視線を移す、それは少女が足払いをしたのだと確信。



 そして天地が逆転し全身に衝撃が走る。

 それは当然その少女によって、身体が宙を舞い一回転された時の衝撃であった。


 白髪の少女は更衣室から縄を取り出し幸一を縛る。

 そしてすぐに警備の兵士に捕らえられた。











「最悪のスタートだ──」


 薄暗い地下の留置所でぐったりとした様子で幸一が囁く。

 鉄格子と石壁で囲われた簡素な独房。



 そして手枷と足枷につながれている──。



 手足の動きを妨げる冷たい金属の感触に気付く。

 周囲を確認しようにも手枷と足枷で縛られていた。


 両足はそれぞれ鎖でこの部屋の隅につながれ、両腕も万歳をする形で頭上に引っ張られている。


 季節のせいか気候のせいか分からないが、寒さが強くてたまにくしゃみをする。

 正確な時間こそ分からない。首をひねって天窓を何とか見る。

 すると、さっきの暗闇から日がのぼってきているところから、朝だと幸一は予想した。



「まいった……まさかこんなスタートを切るとは」



 ため息を交えた後、これからどうすればいいかを考え始める。まさかの犯罪者、それも覗き魔からのスタート、間違いなく後ろ指を刺される。


 見てしまった女の子も、こんな大きな宮殿に住んでいるのだから、それなりの身分であるのだろうと想像はつく。


 どんな罪が待っているか、どうやってここから名誉を挽回すればいいか、そんなことを幸一はため息をしながら考えていた。


 コッコッとこっちに向かって歩いてくる音がしてきて、誰かがやってくる。甲冑を着た兵士の人だ。兵士の人はガチャッと牢屋の鍵を開ける。


「八田、幸一」


 兵士の一人が無表情でそう囁く。


 兵士は三人ほどいて後ろ二人は兵士、そして前にいたのは、白髪の少女がサラと言っていた茶髪の少女だった。


「こんな目にあわせてもらって申し訳ありません、幸一さんの無実が証明されたので釈放いたします」



 そう言うと、サラは幸一を縛っていた鎖の鍵を外し始める。


「助けてくれてありがとう、でも──」


 なぜ自分を助けてくれたのか気になり聞いてみる。するとサラは事の顛末を話し始める。


「あの後、幸一さんの所持品に私たちの天使ユダからの手紙を確認しました」


 そしてそれには、ユダから送られた手紙も含まれていて、その手紙を解析したようだ。


 幸一が持っていたタロットを調べると、自動的に夜のあの時間にあの浴室に送られるように、プログラムされているとのことだった。


 つまり幸一はユダに、こういう結果になるようにはめられたということになる。


「あ、あいつ……」


 幸一は後悔する。

 (今思えば浴室までの誘導は俺を信頼させるための罠だったような気がする、一度でも信用した俺がバカだった)


 幸一はそう考え、再びあいつの言葉を確証もなしに信じないことにした。



 サラが話を進めると、もう一人に人物がやってくる。


 それはさっき幸一が浴室でのぞいた白髪の少女──。



「わたし、イレーナ・ミッテランよろしくね」


 イレーナはじっと幸一の目を見つめる、冷たい目線で彼を指差しながら叫び出す。




「あ ん た な ん か 今 日 や っ て く る 炎 の 唯 一 王 さ ん に ボ コ ボ コ に さ れ ち ゃ え ば い い の よ 」




 イレーナはこの国の国王の娘に当たるお嬢様のような存在で、国王より近日中に世界を破滅から救う勇者「炎の唯一王」が召喚される事を聞いていた。


 そして自分はその勇者と共に旅をし、世界を救う仕事を担い世界に平和をもたらすようにと命ぜられていたのであった。


 また、国王達は西のウェストファリアへ国際会議で不在、帰ってくるのは三日くらい後のであった。




 イレーナは腕を組み幸一を指差して、ドヤ顔で話を続ける。


「確か聞いたわ、唯一王は男の人なんだってね。きっとこんな変態なんかよりずっといい人でかっこよくって素敵な人なんだわ!!」



 彼女の口調からすると、その炎の唯一王が目の前の人間だというころを知らないのだろう──。


 事実を知っているサラは、キョロキョロとし始める。サラも当然話しずらいのだ。


 幸一は顔が引きつり、苦笑いをする。しかしいつまでも黙っているわけにもいかず重い口を開いてゆっくりとサラが伝え始める。


「あの、イレーナちゃん、いいかな?」


 そしてサラがイレーナに言いずらそうに伝える。彼こそがその炎の唯一王なのだと──


 顔が蒼白になり、幸一を指差しながら叫ぶ。




「え、え、え、え~~~~~こここここんなのが炎の唯一王??」


 当然の反応である、自分の裸を見られた人物なのだから。

 そして動揺して涙目になり後ずさりしはじめる。


「ゆ、ゆ、ゆ、夢だよね?嘘だよね?」


 イレーナはサラに接近し叫ぶ、しかしサラは嘘をつくわけにもいかず──。





「う、嘘ではないです、その……、本当です」








「い、い、いやああああああああああああああああああああああああああ」


 その言葉にイレーナは現実を受け入れられず両手で頭を抱え叫ぶ。


 発狂するように叫ぶイレーナを幸一やサラ、周りの人はどうすることもできなかった。


「そ、そ、そ、そうよ!! これは夢、夢。眼が覚めたらこんな変態なんかじゃなくって、もっとイケメンでかっこよくって素敵な勇者さんが来てくれる。だからもう一回寝てくる!!」


 現実を受け入れられずイレーナはそう言ってこの場を去ろうとする、サラはイレーナの服の裾をつかんで何とか現実に引き戻そうと言葉をかける。


「現実を見ようよイレーナちゃん、嘘じゃなくって本当なんだよ、」


 その言葉にイレーナは、無理矢理現実に引き戻される形になる、そして両手で頭を抱える形で半ばパニックを起こして叫ぶ。



「い、い、い、い、嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーー」







(本当にごめん……)


 そんなことを考えながら幸一はイレーナをじっと見ていたたまれない気分になる。


 その後、サラの案内で幸一にも部屋が与えられ、そこへ案内されそこで今後の調整やスケジュールの確認などを行い睡眠をとった。



 最悪の出会い、それをどうしようかと考えながら……。

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