第2話

魔法模擬戦が始まった。2年生はAクラスの人と一対一で試合をし、3年生はAクラスの人と多対一で試合をする。もちろん多人数の方がBクラスの人間だが、それでもやはり勝つことは許されない。いや、許されていないわけでは無いが誰も勝とうとはしない。

シンはやはり緊張していた。相手が手強いからではない。むしろ相手が弱すぎた場合にどう接戦に持ち込むかを考えなければいけないからだ。

シンはAクラスの人間を多少侮っている節があった。なぜなら、彼らAクラスの人間は、その貴族たる地位にものを言わせ胡座あぐらをかいているような連中ばかりだと思っていたからだ。

また、今現在目の前で自分のクラスの人間とAクラスの人間が戦いあっているが、やはりAクラスの人間がそれほど戦闘に優れているとも思えなかった。もちろん全くのポンコツというわけでもなかったが。

暗黙のルール通りBクラスの人間は次々と負けていった。とうとうシンが出場する1つ前の試合が終わった。

シンは心を決めて講堂の中央スペースに立った。

直後目の前からシンの対戦相手であるAクラスの人間も現れる。


「あんたは!」


シンは驚いた。

シンの前に現れたのは「ミナセ アズサ」という女性だった。

端整な顔立ち。凛としたその態度。おそらく背中の真ん中あたりまで伸びているだろと思われる髪の一本一本が綺麗に彼女に付き纏っている。彼女のその気品、彼女のその姿勢、彼女の全てにおいて彼女が貴族であることを匂わせていた。


「全力で来てもらって構わないわ」


ミナセは言う。


(嘘つけよ)


心の中でシンは呟いた。


シンは彼女を知っていた。いや、彼女を知らぬ者はおそらくこの学校で一人としていないだろうと思われるほどの有名人だった。

貴族にもその中で階級と呼べるもの(かどうかはわからないが)が存在する。

そのなかで、彼女は絶対的なトップに位置する家柄の人間である。

この街には三大貴族とよばれる、3つの貴族の家系がある。この三大貴族は貴族の中で最も上に存在するもので、その内の1つがミナセという家柄なのである。

だからこそこの学校で、いや、この街にいる者であれば知らぬ者はいないとも言えるぐらいに彼女は有名人なのである。

シンは一度ため息をこぼす。

もともと乗り気が起こらないこの魔法模擬戦の上、相手が貴族のトップの家系に生まれた人間であるから並大抵以上の忖度そんたくをしなければならない相手だったからだ。


「じゃあ、お言葉通り!」


シンはそう言うと、彼女に急接近した。

そのまま彼女の顔面を横から蹴り飛ばすように足を繰り出した。

実際には彼女の顔のギリギリの所で当てないつもりだったが、その前に彼女の武器に阻まれた。

彼女は先程までは何も持っていなかった右手に氷の槍を顕現させ、その柄の部分でシンの蹴りを受け止めた。


「アイスランス 一槍いっそう


彼女は受け止めた柄の部分を軸に氷の槍を半回転させその槍を持ち構え直しそのままシンの体に向かって氷の槍を突き刺しにかかる。

シンは片足のまま上半身をそらせ、その突きをかわす。

すぐさまミナセは一度突いた氷の槍を下に振り下ろすが、シンは地面についていた片足に無理矢理斜め右下向きに力を入れ、左に飛ぶようにその槍を回避する。

少し間合いが彼らにできたが、今度はミナセがその間合いを埋めるよう接近し、シンに向かって氷の槍を振り回す。


「おおっ!」


彼女のその一つ一つの動きが意外なぐらい洗練されたものであったので、シンは少し驚いた。

シンはミナセが振り下ろし・なぎ払い・そして突き刺す1つ1つの動きを冷静に見極め、全てかわす。

その後にシンも負けじと体術を繰り出すが、彼女の槍捌きに全て受け流される。


「ははっ」

シンは笑ったがどうしてこの状況で自分が笑ったのかの理由はよくわからなかった。

「もっと遠くの方から魔法でネチネチと攻撃してくるのかと思ったけど、案外武闘派なのか、お前」


シンは少しだけ自分の気持ちが高揚しているのを感じていた。


「別に遠距離の攻撃が苦手ということでも無いわよ。アイスランス 二槍にそう


ミナセがそう言うと上空から氷の槍がシンに目掛けて飛んでくる。


「まじかよ」

シンはその槍を後ろに飛んでかわす。


三槍さんそう


今度は上空から3つの氷の槍がシンに向かって飛来する。

シンはその3つとも全て回避する。


「近接戦もできて遠距離魔法も得意とかチートかよ」


「魔術師の基本戦闘は中・遠距離戦よ。

 アイスランス五槍ごそう


ミナセがそう言うと上空に5つの氷の槍が出現し、その全ての矛先がシンに向かっていた。


(これ以上やるとさすがに本気になりそうだな)

シンは心の中で呟いた。

五本の氷の槍がシンの体の間を縫うよう交錯し、地面に突き刺さる。

その氷の槍のせいで身動きが取れなくなったシンは言った。「参りました」と。

シンがそう言うと、シンの体を封じていた氷の槍が砕け散り綺麗な小さい氷のカケラがシンの周りに煌めいた。

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