第38話 結婚式
そして月日は流れ、王都にやってきてから2度目の春がやってきた。
年を越したので、全員1つずつ歳を取って、私も19歳になった。
この間に、2つの動きがあった。
1つ目は、王太子殿下の婚約。悪役令嬢との婚約を破棄してから、婚約者を新しく探していた王太子殿下は、ついに利益や人格を総合的に考えて最適だと判断した上級伯爵の令嬢と婚約した。どうやら宰相の親族みたい。
2つ目は、ディランルード様とカテリナ様の結婚。当初はナツミ街が落ち着いてからということだったが、結婚して2人で立て直していった方が何かと都合がいいということで、去年の終わりくらいに籍を入れた。
どちらも利益云々が関わっている所が貴族社会だなぁ…と思う。
まぁ、ディランルード様とカテリナ様は結婚したとはいえ式は挙げていない。驚いたことに、貴族では絶対結婚式を挙げなければいけないという決まりはないらしい。むしろ、絶対結婚式を挙げないといけないのは権力を誇示する必要がある王族と公爵くらいだ。
…だから、私とソル様は、式を挙げないことにした。
私がいくら王族の血を引いているとはいえ、平民なことを考慮した結果、結婚式は挙げずに書類にサインするだけになった。上級貴族は結婚式を挙げる所が多いらしいけど、強制じゃないから挙げなくていいだろうとのこと。まぁ、ソル様も社交界が苦手だったりするからね。正直すごく助かった。どんな反応をされるか、まだ不安だからね。
だから今日の夜に書類にサインをして明日提出して、正式に発表する予定だ。これでもって、私とソル様は完全な夫婦になる。
その前に、カーティス殿下とミリアの結婚式だけどね。
実は今から2人の結婚式が開催される。本来、私は出れないはずだったんだけど、ソル様、つまり上級伯爵の婚約者であり、ミリアの友人でミリアが望んだこともあって、式に出れることになった。やったね。
「上手くできるかな…」
「大丈夫大丈夫。私の近くに居て、笑顔を作っておけばいいから」
「笑顔頑張ります…」
ただいまソル様とお城に向かっています。
実を言うと、今日が初社交だったりする。結婚するまで社交界は出なくていいらしく、今まで出ていない。それも今日までだけど…。まぁ、今日は結婚式でパーティーとは違うから、そこまで気負う必要はないらしい。ちなみに後日2人の披露宴があるらしくて、今から心が憂鬱です。めでたいけどね!
それにしても、社交用のドレスとヘアメイクってすごいよね。なんかもう、自分じゃないみたい。とはいえ結婚式だから控えめらしいけど。
お城に着いてソル様のエスコートで会場に入ると、そこにはすでに他の貴族の方が居た。まだ時間に余裕があるので、皆さん席から立って思い思いに話をしている。
「おや、ルーエスト殿」
「あぁ、どうも」
会場の中に入ってすぐ、おじさんに声を掛けられた。…誰でしょう。話し方的に、同じ上級伯爵だろうけど。
「そちらが婚約者ですか」
「はい」
私はできるだけ自然な笑顔で浅く礼をする。うん、上手くできたと思う。
ソル様とその貴族は一二言話して別れた。
それからも何回はそういうやり取りを繰り返し、ようやく時間が迫ってきたということで席に着いた。
「セイレン、よかったよ」
「ありがとうございます」
ソル様から及第点をもらったので、大丈夫だったと思われる。あとは式が終わるまで正しい姿勢で座っておくだけだ。正しい姿勢もかなり大変だけど。まぁ、喋るよりましでしょう。
少しして、会場に男性の声が響いた。
「ただいまより、カーティス第2王子殿下とミリア王子妃殿下の結婚式を行う。お二方、入場」
その声により、壇上の横にある扉が開き、カーティス殿下とミリアがゆっくりと入ってきた。
「わぁ…」
思わず感嘆の声が出る。それは私だけではなくて、他の貴族もだった。
それほどまでに、純白のドレスに身を包んだミリアは綺麗だった。所作も表情も貴族令嬢そのもので、完璧な王子妃だった。
どこの世界でも一緒だねーなんて思うような長いお話を聞いたりしながら式は順調に進んでいき、残るはカーティス殿下による宣言だけになった。
「では、カーティス第2王子殿下による、結婚の正式発表を」
司会の方がそう言うと、それまで座っていた2人が立ち、その後に私たちも立つ。
「ここに私とミリアの結婚を正式に発表する。これからは2人で手を取り合って国の為、王の為に尽力しよう」
カーティス殿下が声高らかに宣言し、ミリアが優雅に礼をする。
これにより、2人は正式に夫婦になった。
おめでとうミリア、カーティス殿下。お幸せにね。
結婚式が終わり、その後貴族たちに挨拶しつつ、キリがいい所で切り上げて屋敷に帰ってきた。
すぐにメイドたちによって社交ドレスからシンプルなワンピースに着替え、ヘアメイクもシンプルなものに変えてもらう。私からしたらこのワンピースも高いんですけどね…。前は恐縮していたけど、今では随分慣れた。
そして今、私とソル様はサロンに集まっていた。
「これに、サインすればいいんですね」
「そうだね」
目の前に置かれた紙には、長ったらしい文章が書いてあり、下の方に2人分のサイン欄があった。さっきソル様がサインしたので、後は私がサインするだけだ。
これにサインしたら、戸籍上本当の夫婦になる。そう思うと、少し手が震えた。
「セイレン、大丈夫?」
「…はい。練習の成果を見せますね」
ここにサインしたら、もう逃げられない。でも、それでいい。私はソル様と一緒なら何があっても大丈夫。ミリアという最高の仲間兼友人もいるからね。
ひとつ息を吐いて、ペンを握り、紙にサインをしていく。練習の時よりも、上手に書けた。
「どうですか?」
「うん、完璧。これからよろしくね」
「はい、よろしくお願いします」
そう言って優しく笑ったソル様は、私の大好きなソル様で領主様だ。その表情、本当に好きだなぁ。…ソル様にはあるのかな。私の好きな表情とか。
「これを明日私が持って行って提出してくるね」
「お願いします。…明日、ミサト街はどんちゃん騒ぎですね」
「だろうね。修理費用出てくるかなぁ…」
「あー、どうでしょうね…」
明日、ミサト街にも発表する。婚約を発表した時も結構なお祭り騒ぎになったらしい。それが結婚である。絶対やばいね。
本来は私もお祭り騒ぎに便乗してやけ食いするつもりだったんだけどなぁ。それがまさか祝ってもらえる側になるなんて。人生って何が起きるかわからない。
私、幸せだなぁ。
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