第37話 相談とアンサー

「…ということなんだけど、どうすればいいんだろう…」

「ついにこの時が来たんだね」


 領主様に告白されて5日ほど経った。最初は一人で考えようと思って頑張ったんだけど、結局答えは出なかった。同じことをぐるぐる考えてしまうというか、考えすぎてわからなくなってきたというか。


 だから今日は最終手段としてミリアに相談しに来た。

 いつでも来ていいよ!と言われていたので、容赦なく押しかけました。まぁ、ちゃんと事前に伺いは立てたけど。淑女教育もあるだろうし。


「ついにって、わかってたの?」

「なんとなく?絶対この2人両想いでしょ…とは思っていた」

「え、すご。私まったくわからなかったのに」


 まったくわからなかったからこそ、あの時すごく驚いた。今までで1番驚いた。


「セイレンって意味不明な所で鈍いから…」

「ひどい」


 意味不明な所とは。恋ですか。いやでも自分の恋心に気づいたから鈍くはないぞ。それに領主様の行動ってミサト街にいる時とそんなに変わらなかったような…?あ、でもバレッタ買ってくれたね。あれは初めてだった。


「それで、何に迷ってるの?」

「身分差。私は実際平民で思考も言動も平民だから、絶対多大な迷惑をかけるだろうなぁ…て思って。一緒になりたいとは思うけど、今まで以上に迷惑をかけたくないんだよね」

「うんうん。そうだよね」


 やっぱりミリアも同じことで悩んでいたんだろうなぁ。。

 そういえば、私はミリアに恋の相談されなかったね。ミリアはこの難しい悩みを一人で解決したのか…。すごいなぁ。


「でもまぁ、最終的に大事なのは自分の気持ちだと思うよ」

「自分の気持ち…」


 私は、領主様が好きで、できるなら結婚して添い遂げたい。それは揺るがない気持ちだけど…。


「私が経験したからこそ思うんだけど、身分って意外にどうにでもなるというか。反発はあるけど、最終的に自分たちでごり押しできるんだよね。特にルーエスト様は上級伯爵で、王太子殿下も平民との結婚に理解があるから、ごり押しできると思う。私みたいにどこかの養女になるのもありだし」

「なるほど」


 そうだよね。現にミリアはカーティス殿下と婚約できた。つまりは王太子殿下や王様王妃様が認めたという事。今の王族は平民が貴族社会に入ることに、多少は理解がある。しかも王太子殿下やカーティス殿下は私と領主様の関係を知っている。確かに、ごり押ししたら通せるかもしれない。


「それと、平民の思考や言動は、訓練すれば近づけると思う。私も最近やっと、良くなってきたねって言われるようになったし…。だから、ここに関しては自分でどうにかできるというか」

「自分で…」

「私たちは環境に恵まれている。絶対に結婚できないということはないからね。だから、最終的には自分の素直な気持ちが大事になってくるんじゃないかな」


 環境に、か…。そうだよね、ごり押しできる環境にあって、同じく平民から王子の婚約者になったミリアもいる。淑女教育だって受けさせてくれるだろう。


 そっか。私の場合、身分に関してはどうにでもなるんだ。平民の思考や言動は、私が頑張ればいいだけの話。領主様が好きだから、淑女教育がどんなにきつくても頑張れる。それに、同じ状況にミリアがいるから、辛いことも共有できる。


「でも、領主様に迷惑をかけることには変わりないような…」

「そもそも、領主様がセイレンに気持ちを伝えた時点で、これからかかるであろう迷惑くらいわかっているよ」

「あ、それもそうか」

「今気づくの、さすが意味不明な所で鈍いセイレンって感じ」


 う…これはさすがに言い返せない。そうだよね!あの領主様のことだから、それくらい予想しているよね!色々考えた上で、それでも私を望んでくれているって嬉しいなぁ。


「ちょっと、何いきなりにやけてるの…」

「あ、ごめんごめん。愛されてるなって思ったら嬉しくなっちゃった」

「セイレンらしいというか…。まぁ、ルーエスト様も色々考えているはずだよ」


 そうだよね、領主様も貴族面から色々考えて、大丈夫だと思ったから告白したんだよね。じゃあ、身分に関してはあんまり私が心配する必要はないのかも。


 ということは、やっぱり私の気持ちが一番大事なんだ。


「ありがとうミリア。おかげで答えが出そうだよ」

「ふふ、どういたしまして。自分の気持ちを大切にね」


 そう言ってにこやかに笑うミリアはもはや聖母なんじゃないかとすら思えた。


 それから私は自分の気持ちを最優先に色々考えた。そして2日後、やっと答えを出すことができた。






「答えが出たんだね」

「はい、出ました」


 ようやく答えが出て、ちょうど領主様の休みがあったので、私も同じ日に休みを取り、もう1度あの小高い丘にきた。

 やっぱりここで言いたいよね。ミサト街に似た雰囲気を感じるし。

 そしてちゃんと桜似のバレッタを付けてきました。自分の持てる技術を駆使して三つ編みでハーフアップにしてみた。これ以上は本当に無理。


「えっと…」


 あ、いざ言うとなるとすごく緊張するね。そう思うと領主様すごいなぁ。


「ゆっくりでいいよ」

「じゃあ3回深呼吸させてください」

「わかった」


 小さく笑う領主様を横目に3回深呼吸をする。


 …よし、言える。


「色々考えました。でもやっぱり、私は領主様が好きで、領主様と結婚したいです。たくさん迷惑をかけると思いますが、それでもいいなら、よろしくお願いします」

「構わないよ。…ありがとう。これからもよろしくね」


 そう言って領主様は私を抱きしめてくれた。その温かさは、2度命を助けられた時と同じで。ただ、鼓動だけ早かった。

 まぁ、今は私もかなり鼓動は早いけどね。






 しばらく王都の街並みを眺めつつ余韻に浸った。繋いだ手がとても温かくて心地よい。


「そういえば、身分はどうするんですか?ミリアはごり押しできるって言ってましたけど」

「あー、それね。実は私もまだ把握しきれてないんだけど…」


 ずっと気になっていた身分のことを尋ねてみると、領主様はちょっと困った顔をしながら何やら口ごもった。

 え、やっぱりまずいのかな。殿下方に反対されているとか…?


「今日の朝、セイレンの養父からいきなり手紙が来て」

「え、養父様から?」


 あの養父が手紙を出す…?私は魔法関係のお小言以外で手紙なんてもらったことないぞ。


「その手紙に、セイレンの両親のことが書いてあったんだよ」

「両親…」


 私は両親の顔も名前も知らない。物心ついた時にはすでに養父に育てられていた。


「確認がまだ取れていないから完全にそうとは言い切れないけど、セイレンの母方の祖父は先代の王様の弟だそうだ。つまり、セイレンの母は今代の王様の従兄弟」

「…えぇええええ!?」


 え、どういうこと!?うん!?つまり私には王族の血が流れているの!?ちょっと理解できないですね…。


「先代の姪だったセイレンの母は商人の息子と大恋愛のすえ駆け落ちして、ミサト街に逃げて来たらしい。そこでセイレンを授かった。ただ、王族がいると知った私の祖父が外部に情報が洩れることを恐れて…」

「消した…と」


 私の両親も、先代によって消されていたんだ。もしかしたら、母経由で王様に自分のしていることがバレるかもしれないから。


「そうなるね。それを予想したセイレンの両親は生まれたばかりの娘を孤児院に隠した。そしてそのことを知った私の父が、父の一番の使用人だった人にその子の世話を頼んで街外れに隠した、ということらしい」

「それが養父様と言うことですか」


 つまり、私の両親は領主様の祖父に消されて、私は領主様の父に救われた。なかなか複雑な背景ですね!養父が私に街から見える所に行くなってきつく言っていたのも、私の出自が危なかったから。ちょっと煮過ぎたジャガイモみたいに頭の中がぐちゃぐちゃになりそう。


「そう。今確認中だけど、おそらく本当のことだろうね」

「あー、養父様、嘘つかなそうですもんね」


 それにこのタイミングでその手紙を送って来るってことは、おそらく私たちの状況をわかってて、私が悩んでいたことを知っていた。情報通怖い。どこから得てんのその情報。もうこの際気にしない方向でいこう。そういう人だ。


「あれ、でも母が王族ならなんで私はこんなに魔力が少ないんですかね」


 王族って魔力多かったよね。それなら母も多いはずだし、そんな母の子の私も魔力多いはずでは。


「それに関しても書いてあって、セイレンは魔力に関しては父親の遺伝の可能性が高いらしい。どうやら、魔力が人よりかなり少ない人だったみたい」

「わぁ…父さん…」


 なぜそっちを受け継いだんだ私…!そこはせめて母のを濃く受け継いどこうよ。まぁ、この世界は魔力の扱い技術が物言うところがあったからよかったけど。…いや良くないね。それで何回死にかけたと…。

 あれ、待てよ。ということは。


「今気づいたんですけど、将来産まれてくるであろう子どもの魔力が少ないという可能性が…」

「それもあるだろうね。でも正直貴族は魔力が多いけど、扱いが上手い人って武人くらいしかいないんだよ。だから、あまり心配しなくていいというか」

「そうだったんですね。では、あまり心配は要らなそうです」


 まぁそれに、隔世遺伝という可能性も考えて、私の父と私の魔力少ない遺伝か、私の母と領主様と領主様の家族の魔力多い遺伝かなら、後者の確立が高そうですね!生物学全くわからないから感覚の話になるけど!


 そして将来産まれてくるであろう子ども、て領主様に言ってしまう私よ。…うん、ここはもう何も考えないようにしよう。気にしない気にしない。


「まぁだから、身分に関しては多分何とかなるし、他の貴族の養女になる必要もなさそうだよ」

「なるほど。少しだけ楽になりました」


 ありがとう顔も名前も知らない母よ。あ、名前は調べればわかるか。


「あ、それと、婚約者になるんだから、名前呼びしてほしいなぁ…と」

「名前呼びですか!?…ソルージオン様?」

「もっと短く」

「短く!?」


 それって愛称じゃないですか。いきなりハードルを上がりすぎなんですけど。でもまぁ、ここで呼ばなきゃ婚約者が廃るってもんよ!


「ソル様…うー、いじわるですね」

「正直に言うと、今までの仕返しも入ってるね」

「はい、すみませんでした」


 過去の私、欲望と奇行に忠実すぎたね。言い返せない。というか、欲望と奇行に忠実すぎるって何。さすが生きる黒歴史製造機。今度から抑えよう…いや、無理だ。


「さ、帰ろうか」

「はい」






 その後、確認が取れたという事で、晴れて私は王族の親戚ということが証明された。それを使ってごり押しした結果、反発こそあったけれど、私は平民のまま正式に婚約者になることができた。


 ミリアたちにはすごく喜ばれた。特にミリアは自分のことのように喜んでいた。これでこれからもセイレンが近くに居るね!と笑顔で言ったミリアは大変可愛いかったです。眼福でした。


 ちなみに、正式に婚約者になった日、私は下っ端メイドを辞めて領主様…じゃなくてソル様が持っていた王都の貴族街にある屋敷に移った。体裁的に仕方ないよね。それでも正式に決まるまで下っ端メイドで働くことを許してくれたソル様には感謝です。

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