第27話 二度目のピンチ

 はい、ただいま私ピンチです。近くに王太子殿下を暗殺しようとしている人たちがいます。


 これあれだよな、私がここにいて会話聞いているのがバレたら口封じで殺されるパターンじゃないですかー。やだー。

 …て、現実逃避でふざけている場合じゃなくて。本当にどうしよう。こんなことあります?バッドエンド回避できているか確かめに来たら悪役令嬢じゃなくて暗殺を企てている実行犯がいるとか…。


 パッと見た感じ、相手の人数は6人。対するこちらはもちろん私1人。しかも体調がすこぶる良くない。そしてここは人通りが本当にない。だからこそ、バッドエンドの時、悪役令嬢がこの場所を選んだんだろうけど…今は本当に条件が悪い。

 しかもなぁ…お城の中で魔法を使ってはいけないんだよね…。魔法を使うのは禁止。もし使ったら即刻解雇だし、場合によっては追放ものである。さすがに今回は正当防衛が使えるかもしれないけど、相手が仕掛けてこないと使いにくいよなぁ…。

 そして何度も言うけど、体調が良くない。こんな状態で魔法を満足に扱えるはずがない。たぶん熱上がって来たよね?頭痛いしフラフラする。今の状態で手練れ6人と対峙して無事でいられるか…?いや無理だな。


 あれ、これ私がバッドエンドなのでは。


 ヒロインのバッドエンドの選択肢を選び続けた私へのバッドエンドがこれの可能性が出てきた。そうだよね、ここは良くも悪くもゲームの世界。バッドエンドの選択肢を選んだらそりゃバッドエンドになる。というか、もうこれバッドエンドじゃなくてデッドエンドなのっですが。


 そしてミリアがここに来ないあたり、ちゃんといつもの道を選んだようだね。

 よかった。これでミリアはハッピーエンド。友人の追放は免れた。


 その代わり私がピンチだけどねー!でも友人のためだったから後悔はしていないさ。体調悪い中ここに来たことはすごく後悔しているけど。おとなしく寝ておけばよかった。でもさ、まさかこんなことになるなんて誰が想像できた?少なくとも、お城で働いているからこそ、ここが安全なことを知っている私には全く想像がつかなかったよ…。


 まぁ、ここは逃げるが勝ちだね。身体強化くらいならちょーっと使ってもバレないでしょう。仮にバレても解雇レベルだし。


 そう思って逃げようとしたときだった。


「そこにいるのは誰だ」


 ふいに声が聞こえた。あ、これバレてる。絶対バレてる。いや、もしかしたら別の人だったり…?それもそれでまずいけど。

 とりあえず、今動くのは得策じゃないね。静かにしていよう。


「そこにいるのはわかっているぞ」

「わっ…」


 その声とともに攻撃魔法が飛んできたので、思わず防御魔法をかけて防ぐ。あ、魔法使っちゃった。でもこれは正当防衛ですからね。


「下っ端メイドか…始末しろ」

「はい」


 1人の男性の指示に従って、別の男性が襲い掛かってきた。さすが手練れ、魔法の使い方が上手だから早い。


「あぶなっ!?」

「ちっ」


 身体強化をかけて、無事避けることができました。舐めんなよ私の魔力扱い技術。


 それからも攻撃されては避け、攻撃されては避け、を繰り返す。

 正直、強めの身体強化使っているから、あまり攻撃したくない。この体調、この身体強化で、さらに攻撃魔法を使ったらごっそり魔力を持っていかれる。西の森では攻撃魔法を使う時は身体強化を結構抑え気味にしていたけど…今この状況で身体強化を抑えるわけにはいかないよね。すぐに捕まってしまう。

 あぁもう、どうして私の魔力はこんなに少ないのさ。


「ちょこまかちょこまかと小賢しい…お前らもやれ」

「はい」


 残りの4人も襲ってくる。武器で攻撃してくる人もいれば、攻撃魔法を使ってくる人もいる。

 手練れ5人に一気に攻撃されるとさすがにきつい…。身体強化をさらに強める。ここで逃げることが出来たらいいんだけど、もうすでに逃げ道は封鎖されてるんだよなぁ…。このままドンパチやっている音を聞きつけて警護の騎士が来るまで待つか。たぶん、10分くらいなら持ちこたえられるけど…。


「…あっ」


 しばらく攻防を繰り返していると、突然の激しい眩暈に思わず倒れこんでしまった。

 しまったと思った時にはもう遅くて、私は手練れの1人に押さえつけられてしまった。


「ったく、手間取らせやがって」

「離して」

「ボス、こいつどうやって始末します?」


 無視か。そりゃそうか。

 私を押さえつけている手練れが、ボスに指示を仰ぐ。私を始末しろと命令した人だった。ボスと呼ばれた男性は私を見た後、無表情のまま言い放った。


「手間取らせたお礼にたっぷり痛めつけてから…と言いたいところだが、正直時間がない。なんでもいいから即刻消せ。死体はそこらへんの茂みにでも隠しておけばいい。この暗さと人通りだ。回収するまで気づく人はいない」

「はい」


 私を押さえつけている人とは別の手練れが、攻撃魔法を手に宿す。


 何か…何か知らせる方法は…この暗さを逆手に取って、花火っぽく魔力を打ち上げるか…。どうせこのまま殺されるのなら、魔力を使っても構わないよね。


 私は一瞬だけ身体強化で片手を自由にして、凝縮した魔力を空に放つ。空に放った魔力は、綺麗な光を一瞬だけ発して消えた。


「ちっ、余計なことをしやがって」

「いたっ」


 再び乱暴に押さえつけられ、思わず声が出た。攻撃魔法を手に宿した手練れが近づいてくる。こんな至近距離で攻撃魔法をくらったら即死だ。


 …ここまでか。バッドエンド…いや、デッドエンドは避けられないのか。そうだよね、ここはゲームの世界。バッドエンドが決まったら、バッドエンド一直線。


 せっかく、ミリアの追放バッドエンドを回避して、これからも一緒に居られると思ったのになぁ。ようやく、領主様の噂を否定できるようになるのになぁ。…もっとみんなと一緒に居たかったなぁ。


 ごめんなさい。大好きな人たち。みんなの明るい未来に、私はいないようです。


 全てを諦めて、心の中で謝った時だった。


 目の前に光の玉が飛んできて、あっという間に私を害そうとしていた手練れが吹き飛んだ。


「領主、様…?」

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