第26話 王太子殿下生誕パーティー
そしてついに王太子殿下の生誕パーティーの日がやってきた。
この国では、年が明けるとみんな自動的に歳が1つ増える。だけど、それとは別に自分が生まれた日は祝う。簡単に言うと、元旦に18歳になって5月1日とか特定の日に18歳の誕生日を祝う…みたいな。
そして、最近良くなってきていた体調は今日に限って悪化した。というか、これ風邪だね。夏風邪ひいちゃったね。免疫力が弱まってる時に容赦なく攻めてきやがった。
だけど!私は!今日に限っては大人しくしているつもりはない!
ぶっちゃけ、バッドエンドが回避できるかどうかの確かめをしに行きたい。サンローン家糾弾については、あの王太子殿下たちがいるから大丈夫だと思うけど、バッドエンドについては私しか関わっていないからなぁ。多分大丈夫だろうけど…。
最後の選択肢は、会場に向かうルートを選ぶことだ。緊張しているヒロインが、ついうっかり時間ギリギリになってしまって、その時にいつもの道を通るか、近道を通るか、の選択肢が出る。バッドエンドの選択肢は近道。だけど、今までのバッドエンドルートを回避していたら、近道を選んでも何も起こらない。もしバッドエンドの選択肢を選んで近道を選択したら、会場に行く途中で悪役令嬢が出てきて冤罪をふっかけられる。証拠付きで。嫌われのテンプレみたいなことをしていたかな。
まぁつまり、私は近道に行ってアダリンナ様がいないかどうかを確かめたいんだよね。
「あー、きっつ…」
風邪今日じゃなくていいじゃない…。絶対熱あるよ。というかこれから熱上がるよ。
「大丈夫?」
パーティーが始まる前に、ミリアが様子を見に来てくれた。実を言うとミリアは毎日来てくれている。でもね、今日は自分のことに集中してもいいのよ?
「大丈夫大丈夫。ミリアはどう?緊張してない?」
「すごくしてる」
「だよね。すごい顔しているよ」
今にも緊張で吐きそうな顔している。
まぁそうだよね。平民だよ?平民が王太子殿下生誕パーティーで公爵家を王様に向かって糾弾するんだよ?実際大部分を言うのは2人の殿下だけど…。ミリアは被害を受けた当事者として、パーティーの場所に居て、そしてそれが真実だと訴えることになっている。王太子殿下曰く、ここが上手く決まらないと自分たちが言わせたように捉えられるから重要、らしい。
実際は裏で既に王様に伝えているとは思うけどね。絶対に逃げられないように、ある程度自由が利く王太子殿下生誕パーティーで皆さんの前で訴える。そりゃ自分の生誕パーティーだもんね。自分が主役だもんね。一番適している日でしょう。
「あー…上手くできるかなぁ」
「ミリアなら大丈夫だって。それと、緊張しすぎて時間を忘れないように。こまめに時計は見ること」
「う…わかった」
一応注意を促しておこう。そもそも時間ギリギリにならないなら、近道をすることもないからね。
「じゃあ、私は最終確認があるから行くね。…セイレンが頑張ってくれた分、私も頑張るよ」
「うん、頑張ってね」
そう言ってミリアは部屋を出て行った。
あの目はもう大丈夫だね。ミリアなら上手くやるよ。ヒロインだし、頑張り屋さんだし。
「さてとー、私も行きますか」
「どこに行くって?」
「うえあ!?」
領主様が笑顔で医務室に入ってきた。
わぁ、びっくりした。今のはびっくりした。というかなんでいるの!?今日大事な日でしょう!?え、なんでいつもの隊長の服を着ているんですか。
「あれ、パーティーは…?」
「今日は私は出ないよ」
「出ないんですか!?」
それは初耳なのですが。え、だって上級伯爵でしょう?パーティー出ないなんてそんなことできるの!?
「今日は別仕事があるんだよ。だから休憩中にちょっと様子見に来たんだけど…まさか抜け出そうとしているとは…」
「ごめんなさい。でも気になるじゃないですか」
「そうだね。セイレンは欲望に忠実だったね。でも今日はダメだよ…熱あるでしょ」
私の体調に気づくの早くないですか。でもね、領主様。今回はどうしても行かないといけないのです。
「えぇ…ほんの少し、ちょっとだけ」
「ダメなものはダメです。ちゃんと詳細は明日教えるから」
「はーい…」
これ以上頑張っても無理だ。これは大人しくしている風を装ってコソっと行くしかない。領主様は仕事なんだよね?じゃあ、ちょっと行って確かめてすぐ帰ってくればバレないはず!
「とにかくゆっくり休んで」
「わかりました。ちゃんと教えてくださいね」
「もちろん。…じゃあ、仕事に戻るね」
「はい。頑張ってください」
領主様を見送り、大人しく布団にもぐる。まぁ、大人しくしているつもりなんてないんですけど。
しばらくして、ベッドから起き上がり、髪を整える。服はメイド服を体調が良かった時に持ってきていたので、それに着替える。
「よし、完璧」
…化粧はいいや。リップだけしとこう。え、完璧じゃないって?ぱっと見がオッケーならオッケーだよ!
「し、しんどい…」
重い体を無理やり動かして、予想した分かれ道まで来た。結構時間かかった。体調って大事。でもまぁ、この時間ならまだミリアは来ないでしょう。
「…よし」
この道が最後のバッドエンドルート。
大丈夫。今までバッドエンドの選択肢をことごとく私が潰してきたから、きっと誰もいないはず。
ひとつ息を吐いて道を曲がる。
あまり灯りがない薄暗い通路をゆっくり歩くこと数分。ふと、かすかに話し声が聞こえてきたので、思わず近くの柱に身を隠した。
いやいや、何隠れてるの。ただの使用人か警備の騎士くらいしかいないのに。でもなんだろう、何か嫌な感じ。
「…準備…整っ…か…」
辛うじて聞き取った言葉に、自分の感覚が間違っていないような気がした。もう少しだけ近付くと、今度ははっきりと聞き取れた。
「これで王太子もお終いだ」
えぇ、なんでこんなことになってるの…?チラッと覗いた時に見えたのは、キラリと光った刃物。
私、王太子殿下暗殺の実行犯とエンカウントしました。
…頭痛いなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます