第19話 個性の養父府様

「さすが領主様の馬車ですね。体に優しい…」

「本音は?」

「揺れるものは揺れます」


 現在山越え中です。結構揺れています。ちょっと領主様、なんでこんな中で本を読めるんですか。乗り物に強すぎでは。慣れ?慣れればそうなるの?


「ミリア大丈夫?」

「うん、なんとか。結構な道なんだね」

「でしょでしょー」


 これで整備されたほうなんだから昔はどんだけ酷かったの…て話である。うん、そりゃ人が入ってこないし、先代領主が横暴になるわけだ。人が入ってこなかったら自分がやってることがバレないもんね。


「領主様、帰りもお願いしたいです…」

「最初からそのつもりだよ」

「やったー…ありがとうございます」

「ありがとうございます」


 1回これを経験したら民間の馬車で山越えしいたくなくなるよ。快適。揺れるけど快適。お尻に優しい。






「あー!山越え終わったー!」


 無事に山越えが終わり、ミサト街の近くに出た。


「お疲れ2人とも。セイレンどうする?家まで送っていこうか?」

「え、いいんですか?」

「私は構わないよ。ここからだと近いし、街の人たちに見られるわけじゃないし」

「じゃあお願いします」


 街外れに住んでてよかった。さすがに街の人に見られたら面倒くさい。うん、絶対根掘り葉掘り聞いてくる…。嬉々とした目で楽しそうに追い詰めてくる…。そう、それが井戸端会議大好きおばさん。






「ここだね。…どうした?」


 家の近くまでやってきて、馬車が止まった。…と同時に気づいてしまった。家の窓から見える明らかに私のじゃない色の服…ショッキングピンクのつなぎがそれを物語っていた。はい、フラグ回収お疲れ様です。というか、その服捨ててなかったっけ…?


「いる…」

「あ…まぁ、頑張って」

「そうだ、領主様もうちに来ません?」

「巻き込みたいだけだよね」


 ばれていた。ほら、被害は分散させなきゃ。


「まぁ、別に構わないよ。久しぶりに会うのも悪くない」

「よし、決まりですね!さ、ミリアも行こう」

「う、うん」


 馬車から降りて、家の玄関前まで行く。あー、久しぶりの家なのに、なんでこんなに気兼ねなくドアを開けれないんでしょうね!


「ふぅ…ただいま帰りました養父様」

「おかえりセイレン会いたかったよー!」


 ドアを開けて声を出すと、奥から1人のおじさんが駆け寄ってきた。蛍光イエローの全身タイツに、レインボーな髪の…レインボーな髪!?


 思わずドアを閉めた。


「…セイレン」

「久しぶりすぎてどう反応すればいいのか忘れました」

「今のがセイレンの養父様…」


 ミリアが全力で引いている。うん、正しい反応。私もこの人が養父じゃなかったら全力で引く。まぁ、これでも育ててくれたから感謝しているんだけどね…。


「お久しぶりですね」


 再びドアを開けると、そこには逆立ちをしている養父がいた。もうツッコミません。これくらい日常茶飯事だし。うわー、懐かしいなぁ、この感じ。


「久しぶり!家に帰ったらセイレンいなくて寂しかったんだからね!だから思わず可愛い子呼んでパーティーしちゃったよ!」

「このエロショッキングピンクが…」

「お!新しく買ったんだよ!良く気づいたね!イケてるだろ?」

「私の記憶が正しかったら1年前にダサいって言って捨ててませんでしたっけ」

「袖のボタンが1つ増えているんだよ!イケてるイケてる!」


 それ形変わってないのでは。それ結局ダサいままなのでは。やっぱり養父にツッコミを入れるのはきつい。そしてまったく変わらないね…。まぁ、私が家にいる時は女性を呼ばないようにしているみたいだけど。


「あ、養父様。領主様来てます」

「おぉ、本当だ!お久しぶりですね!」

「お久しぶりです。変わりないようで」

「いやー、いつの間にか大人の色気が加わって更にいい男になりましたなぁ!これは眼福」


 あ、親子だわ。血は繋がってないけどこれは親子だわ。私がこの人の元で育ったことがよくわかる台詞。そうだよね、眼福だよね。わかるわかる。

 なんだかミリアに見られたような気がするけど、気にしないで行こう。


「養父様、こちらが友人のミリアです。しばらくうちに泊まります」

「ミリアです。よろしくお願いします」

「おお!ようやくセイレンに友人が!いやぁ、嬉しくて泣いちゃう」


 そう言って泣き真似をする養父は無視だ無視。不思議だよね、こんなに変人なのに魔法の特訓の時は鬼になるんだから。


「さて、セイレン。魔力切れで倒れたって風の噂で聞いたんだけど」

「倒れてはいませんよ。意識はありました。それとどこからその情報を掴んだんですか」

「魔法関係の仕事をしていると聞こえてくる」


 そうでした。この人情報通でした。魔法関係の仕事でたぶんいろんなところに知り合いがいるんだろうなぁ。あー、一番掴まれたくない情報だったのに。

 そして態度がさっきと違いすぎてミリアがびっくりしている。うん、そうだよね。養父は魔法が関わると厳しくなるからね。


「後で特訓…と言いたいところだけど、これから仕事でまた家を空けるんだ」

「あ、そうなんですか」

「だからお小言を書いた紙を読むように」

「はい」


 何枚かな。10枚はあるだろうね。今日の夜はお小言手紙を読むことで決まりかな。


「せっかくセイレンが帰って来たのに一緒に居られないなんて悲しい…」

「はいはい。また運が良ければ休みが被るでしょう」


 不定期で帰ってくる親子か。次会えるとしたら来年とかになるのかな。


「サボろうかな」

「養父様、仕事頑張ってください!」

「頑張る」

「うわ現金」


 ちょっと領主様とミリアよ、お前がそれ言う?みたいな目をやめて。自覚はあるから。うん、そう思うと親子だわ。


「ミリアさんだったね?これからも娘をよろしく頼むよ」

「はい」


 もう、こういうところで父を見せてくるんだから…照れるけど嬉しい。


「とりあえず養父様、仕事に行く前に斬新な服はすべて片づけてくださいね」

「何言ってるんだセイレン。良い服は飾らないと!」

「えぇ…?」


 良い服?ショッキングピンクのつなぎや蛍光イエローの全身タイツが…?ちょっと私にはわからない感覚だなー。


「あ、そうそう。セイレンの部屋で見つけた黒歴史ノート全部読んじゃった」

「なにしてんだこのクソおやじ!」


 こうして無事ミリアに養父を紹介できて、養父は仕事へ出かけて行った。

 領主様にも改めてお礼を言って、今日は解散となった。

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