第18話 領地へ出発
「ミリアはどうするの?」
「何が?」
「休み」
もうすぐ長期休みがやって来る。なぜがセット扱いの私とミリアは、全く同じ期間休みをもらっていた。
「あー…どうしようかなぁ。セイレンはミサト街に帰るんだよね?」
「うん、そうだよー」
「えー、どうしよう」
悩んでますね。それもそうか。ミリアはナツミ街に帰れないのだから。身売りをされたら家族と会うことは許されていない。もし会うなら莫大なお金がかかる。まぁ、よくわかんない決まりだよね。つまり、ナツミ街の領主に無理矢理売られたミリアは地元に戻っても家族に会えない。というか、無理やり売られたんだから地元にも帰れない。だからたぶん、ここにいるんだろうけど…。
正直に言うと、不安である。アダリンナ様を主体とした嫌がらせの件があるからね。あんまり1人にしたくない。カーティス殿下も、ずっと一緒にいるわけではないから。
それに休みの日は思いっきり楽しんでほしいんだよねー。あ、そうだ。
「ねぇ、ミリアさえよければミサト街来る?」
「え、いいの?」
一緒にミサト街に来ればいいじゃない。領主様はこっち側だし、旅は快適だし。山越えは置いといて。それにミリアと一緒だったら絶対楽しい。寝床は私の家を提供すればいいし!
「うん。安心安全の旅路とミサト街」
「えっと、迷惑じゃないのなら一緒に行きたい」
「じゃあ決まり!準備をしておいてね」
「わかった。…セイレン、ありがとう」
「どういたしまして」
そうと決まれば、領主様に伝えに行こう!さらに楽しみになったなぁ。
「というわけで領主様、ミリアも連れて行きます」
「そんな気はしていたよ。じゃあ3人分の用意をしないとね」
「お願いします!」
そしてやってきました。長期休み1日目。
私とミリアは領主様の馬車に乗るために、王都の人気が少ない道まで来ていた。お城の中で馬車に乗ったことをサンローン家に見られたらまずいからね。暑いけど仕方ない。
ちなみに服装は割と良さげに見えるワンピースです。値段?高いわけないでしょう。平民が簡単に手を出せる範囲ですよ。ミリアにも、良さげな服を着るように言っておいたので、綺麗めなワンピースを着ている。
「ここに馬車が来るの?」
「うん。もうそろそろ来るんじゃないかなー。…あ、きたきた」
「え、まって。あれってルーエスト様の…」
あ、そういえばミリアに領主様と一緒の馬車だよって言うことを忘れていた。ミリアが知っていることと言えば、私が領主様にふかふかの馬車を強請ったことくらいだった。ごめんミリア。頑張って。
「ごめん、言うの忘れてた」
「ちょっとセイレン…」
馬車が目の前で止まり、領主様が降りてきた。
「おはよう、2人とも」
「おはようございます領主様」
「おはようございます」
領主様、朝から顔がよろしいですね。さすが攻略対象。キラキラしてる。綺麗な顔がキラキラしてる。
「さ、荷物を預けて出発しようか」
「はーい。よろしくお願いします!」
「よろしくお願いいたします」
使用人さんに荷物を預けて、領主様のエスコートによって馬車に乗る。うわ、これが自然に出るんだからさすが貴族。人生初のエスコートありがとうございます。
私たちが乗ったのを確認して、馬車が再び走り出す。
「ミリアの反応を見る限り、伝えてなかったんだね…」
「忘れてました」
「はは。まぁ、急で驚いただろうけどゆっくりしてね」
「あ、はい」
ミリアはやっぱりまだどこか恐縮している。うん、ごめん。まぁ、前よりはいいのかな。これも屯所でのお茶会効果ってね!
「あ、だから綺麗な服でって言ってたんだね」
「そうそう。さすがに普段着じゃ釣り合わなすぎるから」
「気にしなくていいのに」
「気にしますよ!…私も領主様の馬車に乗るのは初めてですし」
そう、初めて。いやー、すごく乗り心地がいい。さすが貴族。良い馬車持ってる!願望を言ってみるもんだねぇ。
「あ、初めてなんだ。セイレンのことだからてっきり王都に来るときも乗ってきたのかと思った」
「ミリアの中の私は一体。行きは普通に民間のを使ったよー。山越えが大変だった」
「慣れないときついよね。あれでも前より整備したんだよ」
「そうなんですか…」
うん、そりゃ人の出入りが少ないわけだよ…。ミサト街はその立地と人が街の外に出たがらないせいで、馬車の便がとにかく少ない。1週間に1回だったかな。だからこそいい馬車なわけがなく…お尻が大変だった。もう1つ割れるんじゃないかって本格的に疑ったくらい。
「ルーエスト様はどれくらいの頻度で領地に戻っているんですか?」
「月1か月2くらいかな。でも大体その時は2日くらいの滞在だったから、ここまで長いのは年に2回だね」
「そうなんですね」
「まぁ、最近は忙しくて全然帰れてなかったんだよね」
あぁ、魔引きとその時にあった人為的な魔物襲来の対応とかで忙しかったのかな。そんな中で屯所にお邪魔しても許してくれるって…領主様、領民に甘いですね!
「久しぶりの領主様かー。きっとみんな喜びますよ」
「そうだといいなぁ」
特に井戸端会議大好きおばさん達は1時間くらい放してくれなそう。
「領主様は滞在中何をするんですか?」
「街に出る」
「ですよね」
むしろそれ以外の答えが想像できなかった。まぁ、屋敷では領地に関する難しい仕事をしているんだろうけど。とりあえず、農地と漁港と学校と市場は行くだろうねー。
「セイレンは何をするの?」
「ミリアに街案内です」
どこを案内しようかなー。とりあえず、市場は決まりだとして…。
「そういえば、セイレンの養父は今いるのかな」
「どうでしょうね。…いや、今はいないでほしい。ミリアがいる」
「え、私?」
「あー…」
私の言わんとしたことを察したのか、領主様が遠い目をする。
私の養父、ほんの少し…いや、かなり変人な情報通なのである。見た目もやばければ中身もやばい。ちょっとミリアに会わせたくないよね…。あー、なんか、今ので変なフラグが立った気がする。
「今日はここで一泊だね」
「おぉ…」
馬車が止まったのは、高級旅館。さすが貴族。まぁ、セキュリティーの面からして、こういうところにしか泊まれないのかもしれない。ミサト街は安全でも、他の街がそうとは限らないからね。特に領主様はあの噂もあるし…。
「いいんですか…?」
ミリアが恐る恐る聞く。そうだよね、普通は委縮するよね。この高級旅館の対象層は上級平民と貴族だし。平民も頑張れば泊まれるとは思うけど…まぁ、ほいほい泊まれるものじゃない。
「いいよいいよ」
「えっと、お金は…」
「気にしないで。私が稼いだお金だし」
領主様が使えるお金は、第3隊の隊長として自分で稼いだお金と、領民から納められた税金の2種類がある。
ここでは自分で稼いだお金だから気にしなくていいよってことなんだろうけど…。違う、そうじゃないんです領主様。お貴族様にお金を出してもらうことに恐れ多さを感じているんだと思います。
「そうそう。ここはご厚意に甘えちゃおう。…それに今の私たちの手持ちじゃ払えないから」
「う…確かに。すみません、お願いします」
「お願いします領主様」
ちらっと値段見たけど、案の定高かった。これを多いときは月2…さすが貴族。いや、貴族側からすれば、安い方なのかもしれない。平民でも頑張れば出せる金額だから。いや、そもそも上位貴族は高級旅館とはいえ民間の旅館には泊まらないのかも。その街を治めている領主の屋敷とか。まぁ、ここは想像の範疇だけど。
「明日は山越えだからしっかり休んでね」
「はーい。おやすみなさい、領主様」
「おやすみなさい」
「はい、おやすみ」
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