第16話 悪役令嬢からの嫌がらせ

 あの舞踏会依頼、恐れていたことがやってきた。


 そう、ミリアへの嫌がらせである。


「あ、あの子、平民の分際でカーティス殿下に近付いたらしいわ」

「まぁそうなの、いやねぇ」


 今また、ちょうど近くを通った令嬢方がわざと聞こえる音量で話しながら通っていく。そういえば今日は王妃様主催のお茶会があるって噂好きなミリアが言っていたなぁ。前と変わったのは、お茶会あるんだって!と嬉々として伝えたのではなく、お茶会あるそうだよ…と元気なく伝えたことだろうか。おそらく、わざわざミリアの掃除場所に来て悪口を吐いていくことが予想できたんだろうね。


「はぁ…」


 令嬢たちの声を聞いて、ミリアが静かにため息を吐いた。気にしていない風を装いつつも、やはり心に傷を負っているのだろう。だんだん元気がなくなってきた。


「ミリア、暑い、休憩しよう」

「つい1分前も同じことを聞いた気がするんだけど」

「このままだったら暑すぎて溶ける」

「溶けたら雑巾で拭きとっとくから」

「そこはせめてハンカチにして!?」

「ふふ、冗談冗談」


 ミリアの笑顔にも、やはりどこか元気がない。でもまぁ、私にできる事と言ったら、こんな感じで楽しませるくらいだよね。あんなに支えるって言っておいて、いざその場面が来ると正しい支え方がわからない。

 私はどこまで無力なんだろうなぁ…。


「セイレンに迷惑かけてるよね…ごめんね」

「いいっていいって。領主様の噂で慣れているし」

「それもそれでどうなの」

「それに領主様の噂に関与したら消されちゃう」

「相変わらずシビアな世界にいるよね」


 いや、あなたも同じような立場にいますからね!領主様の本当の姿知っているし。ちなみに、具体的な背景はぼかしつつも、ミリアにも領主様の噂を否定しないように言っておいた。シナリオにないバッドエンドなんてお断りです。まぁ、ミリアへの嫌がらせと領主様の噂の出どころは一緒だけどね…。


「とりあえず、休憩入ろう?」

「そしてそこに戻るのね。まぁある程度終わったしいいよ」

「わーい」


 休憩休憩。早くこの場所から立ち去ろう。






「あら、セイレンにミリアじゃない」

「あ、カテリナ様」


 休憩所に向かっていると、偶然カテリナ様と会った。カテリナ様はその凛々しい顔立ちに柔和な笑みを浮かべる。


「ちょうどよかったわ。セイレン、あの方が呼んでいるから、掃除が終わったら屯所ね」

「何かやらかしましたっけ」

「いつもじゃない?」

「ちょっとミリア、それは言わないお約束」


 あの方とは言わずもがな領主様である。え、呼び出しとか初めてなんですけど。何かやらかしたっけ。え、でも一緒の馬車に乗る約束をしてくれるようなお方だぞ。何かやらかしたとてやらかしに入らないと思うんだけど。もしかしてミサト街に帰る時のご飯代も奢ってもらおうと思っていることがバレた?それとも領主様が好きそうなお菓子を食べまくっていること?


「その間、ミリアは私たちとお茶しましょうね」

「わかりました」

「え、なにそれずるいですー」


 私は何か怒られるかもしれないのに、ミリア達は楽しくお茶会なんてずるい。いいなぁ。


「そっちはそっち、こっちはこっちよ」

「ひどいですー」

「ふふ。お話が終わったら一緒にお茶飲みましょうね」

「ありがとうございます!」


 美味しいお茶とお菓子が待っているのなら、なんでも頑張れそう。え、現金?目の前の欲望に必死なだけです。






「それで、話って何ですか」


 悪口や嫌がらせに耐え、ミリアを笑わせながら掃除を終えて、第3隊の屯所に来ていた。屯所に入っていつもの部屋に入ろうとしたところで領主様に呼び止められ、別の部屋に連れて来られた。うん、ここも涼しい。


「まぁ端的に言うと、ミリアへの嫌がらせだね」


 あー、やっぱり領主様の耳にも入っていたか。そうだよなぁ。貴族だもんなぁ。それに屯所以外を歩くと、耳に入ってくるし。


「あの舞踏会以降出てきました」

「舞踏会…何があったかわかる?」


 私は舞踏会の時に、外に出てきていたカーティス殿下にミリアが捕まった、と見た通りのことを伝えた。魔力供給とか、そんなの会話を聞いてないとわからないし。私はあくまでその現場を遠くから見ただけだからね。


「誰か予想ついている?」

「おそらく、アダリンナ様付近かなーと」

「だよね」


 おや、わかってらっしゃいましたか。それもそうか、領主様の噂を流しているのもサンローン家だし。領主様から実際聞いたわけではないけど。でもまぁ、この反応からほぼ確実だよね。


「どうしてアダリンナ様がそんなことをするのかわかる?」

「そうですね…推測なんですけど、王族に平民が近づくのが気に食わないんじゃないですかね。特にアダリンナ様は王太子殿下の婚約者ですし、もしかしたら自分の身内になるのではないか、と思ったのかも。アダリンナ様付近の方の場合、自分が王族の妻になる可能性が潰れるとかですかね」

「なるほどね。それはありそう」


 というか、アダリンナ様に限ってはたぶんこれが本当だろうね。そんな感じの事をシナリオで読んだ記憶があるから。あれ、シナリオだったっけ、攻略サイトだったっけ。まぁ、どっちでもいいか。簡単に言うと、あんたなんかのような平民が王族に近付くなんてふざけんな、である。


「…大丈夫?」

「何がですか?」

「友人への嫌がらせを止められなくて気を病んでそうだな…と思ったんだよ。私の噂の時も泣いていたから」

「あーあー、あの時のことは言わないでください。恥ずかしい」


 ちゃんと泣いていたのバレていました。そうだよね、服を濡らしたもんね。くそう、顔上げてなかったのに。泣いた後のひどい顔もなるべく隠したのに。

 そして、領主様が私を呼び出した理由はこれか。心配してくれていたんだなぁ。


「でもまぁ、悩みというか…どうやったらミリアを支えられるのかなって」

「何があっても味方でいてあげて。絶対自分の味方だってわかる人が近くにいると、少しは救われるはずだから」

「わかりました」


 味方か。私は何があってもミリアの味方でいよう。もちろん領主様の味方でもあるからね!

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