第12話 森のピンチ
「拠点に魔物襲来です!急いで戻ってください!…て隊長が」
「…っ!?わかった!みんな撤退!」
森の中を走ること30分。途中で出会った魔物を倒しつつ、おそらく全てのグループに声を掛けた。
私が騎士の外套を羽織っていたことが功を奏したのか、すぐに全員信じてくれた。あぁ、それと2人だけのサポートメイドだから顔を覚えてくれている人が多いのかな。この点は2人でよかったなと思う。
「はぁ…はぁ……ふぅー」
森を下りていく騎士を見送って、思いっきり息を吐く。だめだ、もう魔力がほとんど残っていない。ずっと使いっぱなしだったもんなぁ…。
「…あ」
今気づいた。私このままじゃ戻れないじゃん。
「わお…」
わー、私ってばかだなー。帰りの魔力の存在忘れてた。元々魔力少ない方なんだった。このまま帰ったら途中で魔力切れ起こして倒れる。もうすでに立ってるのもきついくらい魔力使ってるのに…。帰りも絶対魔物と遭遇するだろうし。まぁ、ここにいても遭遇するけど。
「ピンチ到来ってね…」
おそらく向こうが落ち着いたら、領主様あたりが私の存在に気づくだろうから、それまでどこかに身を隠すしかない。身を隠す…身を隠すね…。無難に木の上かな。あの木の葉っぱが生い茂ってる辺りとか良さそう。
よし、そうと決まればちょっとだけ身体強化をかけて登ろう。少しだけならいける。
「せーのっ」
身体強化をかけてすぐに木に登り、安定しそうな幹の上に座って、すぐに身体強化を解く。
「もうだめだー。動けない…」
体が重いしだるすぎる。超久々にこの感覚になった。養父に知られたら怒られるなぁ。自分の魔力の管理くらいできんのかー!って。いやでもこれ緊急事態だし。しょうがないよね!
騎士さんたちに置いて行かれた…と言っていいかもしれないけれど、自分でここまで来れたら自分で帰れると思うのは普通だよね。私も向こうの立場だったらそう思う。しかも緊急事態に気を取られているし。これは完全に私がやらかしたわ。
魔力というのは便利だけど時に面倒くさい。それに危ない。魔力を使いすぎて少なくなると、次第に体がだる重くなる。そして魔力が切れると倒れる。一番危ないのは、魔力切れを頻繁に繰り返して魔力が枯渇すること。魔力が枯渇すると、体の機能が停止して、最悪死に至る。
「来てくれるかなぁ…」
バタバタしていたら、さすがの領主様でも気づかないかも。ミリアも、もしかしたら気づかない可能性が…。
ミリア、怪我していないよね?領主様に任せたから、大丈夫だと思うけど。領主様、隊長を務めるくらい強いし、その実力はよくわかっているし。
何せたまにミサト街の腕っぷし大会に飛び入り参加して優勝してたからね。最近では優勝者が領主様と戦うみたいな制度になったけど。だって領主様強すぎだし。今の所負けなしじゃないかな。
あぁ、そういえば街外れの山で狩りを一緒にしたなぁ。その日は競りが盛り上がったっけ。領主様が狩ったお肉!ってね。大人気なんだよなー。そして儲けたお金はすべて私たち領民のために使ってくれる。しかもどう使ったかの明細表を見せてくれたからね。あれには街の人もびっくりしてた。
はぁ、だめだー。現実逃避にしかならない。そりゃそうか、実際逃避したいし。
そういえば、拠点はどうなったんだろうか、たぶん無事だと思うけど。
「まぁ、私が一番ピンチなのは変わりないか」
正直に言います。木の下に魔物が2体集まってる。幸い登ってこれない個体だけど、いつ木を登れる魔物が来てもおかしくない。それに空を飛ぶ系の魔物もいるだろうし。
最悪の結末を覚悟するか…?魔力の残りから考えると、倒せて1匹か2匹。
半日もあれば帰れるくらいまで魔力が回復するけど、それまで持つかなー。それに、回復した時はすでに日が暮れているだろうし。日が暮れてから帰るのはさすがに危ない。ここにいても危ないけど。
だめだ、どっちみにピンチを脱することができないねー…。
「怖いなぁ…」
今まで感じたことのない恐怖に押しつぶされそう。下を見ると、魔物と目が合った気がしたので、すぐに上を向いた。今あの目は無理だ。捕食者の目をしてる。
「私は美味しくないよー」
最近美味しいご飯食べてるけど、まだ美味しくないはずだよー。まぁ、通じないけど。
伝令係にならなきゃよかったのかな。いや、これも領主様のためだ。そもそもメイドにならなかったら…いや、それも領主様のため。すべて私たちミサト街の愛する領主様のためだ。後悔してはいけない。それに、領主様が領民を見捨てるはずがないか。だってあの方は、領主になってから私たちを一度として見捨てなかったのだから。
「…領主様……」
早く来てください。このままだと私、領主様のふかふかの馬車でミサト街に帰ることができなくなってしまいますよ。ふかふかの馬車は確定です。譲れません。
まぁ、とりあえず、私に気づいて…!
その頃、拠点で1人の男性の声が上がった。
「あれ、セイレン…?」
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