第11話 魔引きのピンチ

 魔引きが始まって4日が経った。予想以上に魔物の数が多く、また結構下に降りてきているらしく、魔引きは難航していた。どうやら前の魔引きからだいぶ間が空いているらしい。上なりの事情があって、来れなかったそうだ。


「あー、終わらなーい」

「はいはい、手を動かそうねー」


 目の前に積まれた洗濯物の数を見て思わずぼやく。

 結構な重労働なんですよ、サポートって。1部隊分の洗濯と料理を2人でするのは思っていた以上に大変。とにかく休みがない。夕飯の片づけが終わってようやく休憩という感じ。そしてまた朝ご飯作りからスタートするから…本当に睡眠以外の時間が取れていない。騎士の方も手伝ってくれるんだけど、やっぱり本職の方が忙しいらしく結構2人ですることが多い。まぁ、それでいいんですよ。それがサポートだし、騎士の人には魔引きに集中してほしいし。しかもここらの森の魔物は強い個体が多いからね。


「そろそろ魔物と遭遇しそうだよね」

「そうだね」

「もしそうなったら私がミリアを守るからね!」

「頼りにしてる」


 なんて会話をミリアとしながら、手はずっと洗濯物を洗っている。これはお城に帰るころには手が荒れてそう。あとで噂好きの情報通ミリアに良いハンドクリームを教えてもらおうかな。

 そして、本当に魔物と遭遇しそうなのだ。ちょくちょく拠点の近くで魔物を見たり倒したりという話を聞いている。私の養父の地獄魔法特訓の成果が火を噴くのも早そうだ。


「ミリア、どうしよう終わらない…でもそろそろ夕飯作り始めないと」

「洗濯物増えたからね…」


 今はもうすぐ夕方に差し掛かろうとする時間。1部隊分の夕飯を作るには、そろそろ準備を始めないといけない。

 洗濯物は本当に急に増えた。というのもここに着いて2日目から本格的な魔引きが始まったからだ。うん、そりゃ増える。3日目の昨日でさえも大変だったのに。

 本来は午前中に洗濯し終えるのが理想だけど、食事の用意と片づけで午前中は潰れる。だから洗濯物は必然的に午後になった。生乾き?大丈夫明日ずっと乾かすから。何が大丈夫なのかわからないけど。


「うー…ねぇミリア、先に夕飯の準備始めててくれない?ここは私がやっとくからさ」

「え、いいの?」

「うん。それに拠点の方が魔物が来た時安全だし」

「確かに…私はあまり魔法を使うの得意じゃないし…じゃあ、よろしくね」

「はーい!」


 ミリアがお礼を言い、今やっていた洗濯を終わらせて川辺から離れる。

 これはしょうがないよね。分担作業に協力作業。この量なら1時間くらいで終わるかなぁ。多い…。


「今魔物が出てきたら私最強な気がする」


 水に濡れた布って結構重くて痛いのよ…。前世で、むかついた時に手に持ってた濡れタオルを思いっきり壁にぶつけた記憶が蘇る。すっごい音がした。そして怒られた。

 さすがに人様の洋服でそんなことしないけどね!



 しばらく洗濯物と格闘すること1時間。ようやく最後の一着を洗い終わり、すべて桶に入れて立ち上がる。体がバキバキと良い音を立てる。そして桶が重い。こんなか弱い乙女にこれはきついですわ…。なんちゃって。か弱いって言葉、どこに落としてきたんでしょうね。

 でもまぁ、さすがに重すぎるんで軽く身体強化かけておこうかな。






「え、なにこれ!?」


 洗濯物を抱えて拠点に戻ると、そこは騒然としていた。魔物が襲来していたのだ。しかも結構な数の魔物が。見る限り、強い魔物もいる。


「あ、セイレン!」

「ミリア!どうしたのこれ!?」

「さっき、いきなり攻めてきたの!」

「そんなことあるんだ!?…っと、危ない!」

「っ、ありがとう」


 ミリアが私を見つけて近くに来てくれた。そんなミリアを追ってか、魔物が一体襲い掛かって来たので、すかさず魔法で撃退する。よかった!反射神経落ちてなかった!


「あ、よかった。2人とも無事だったんだね」


 不意に領主様が魔物を倒しつつもこちらに来てくれた。顔には緊迫した表情が走る。

 やっぱり緊急事態なんだ。


「なんでこうなってるんですか」

「私にもわからない。だけど、ちょうど騎士が一番少ないタイミングを狙って大群が押し寄せてきたんだ」

「それ結構やばくないですか?」

「やばいね。医官と医女を守りながらだから、満足に対応できなくてね。森にいる騎士に戻ってきてもらいたいけれど、戦力を割くわけにはいかなくて…」


 領主様がかいつまんで状況を教えてくれた。聞く限り状況は緊迫していて、おそらく人為的な力が働いたような気がする。誰かが狙った…?たとえば、領主様の噂をばらまいた貴族とか…。でもこんな明らかに法に触れそうなやり方をする…?

 …て、そうじゃなくて。今は緊急事態。考えるのは後にしよう。


「あ、じゃあ私が伝えに行きましょうか?場所さえ教えてくれたら行けますよ」

「いやそれは…」


 私の提案に領主様が眉を寄せる。良い案だと思いつつも、騎士としての気持ちが遮るのか…。まぁ、普通に考えれば、ただのサポートメイドを魔物がいる森に行かせるということだから、肯定しにくいんだろうなー。でも、私魔法の扱いは上手いと自負してますし…それにその実力は領主様も知っているはず。


「私これでもあの養父の元で魔法の特訓を受けたんですから多少は大丈夫ですよ。それに緊急事態でしょう?」

「…危ないと思ったら、すぐに戻ってくると約束できる?」

「もちろんです!身体強化でババーッと戻ってきますよ!」

「わかった。場所を教えるから、行ってほしい」

「かしこまりました!」


 領主様から、騎士のグループがいる場所を教えてもらう。ふむ、結構バラバラかー。でもグループごとに団体で動いているらしいし、なんとかなりそう。

 そして領主様から、騎士が纏う外套を受け取る。どうやら特殊加工がされているらしく、衝撃に強いらしい。これは心強い。


「では行ってきます。…領主様、ミリアを頼みます」

「もちろん。セイレンの大事な友人はしっかり守るよ」


 ここでヒロインが倒れたら、元も子もないからね。それに、友人を失いたくない。


「セイレン、気を付けてね…」

「もちろん!帰ってきたらカバディしようねー」

「それは嫌だ…」

「えー…じゃあ、行ってきます」


 私は自分に身体強化をかけて、森に向かって走り出す。久しぶりの本格身体強化!体が軽いし早いね!

 間に合ってくれよ…!

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