第10話 2人の副隊長

「…あれ、隊長。珍しいですね、メイドに話しかけているの。あ、もしかしてこの前言っていたミサト街の子ですか?」


 不意に声がして、1人の女性騎士が近づいてきた。凛々しい顔立ちのかっこいい系お姉さん。ショートの髪がとても似合っている。


「そう、こっちの子がミサト街のセイレンで、もう1人がセイレンの初めての友人のミリア」

「ちょっと領主様。初めてのってひどくないですか。初めまして、セイレンです」

「ミリアです」

「ふふ、可愛い子たちね。初めまして、第3隊副隊長のカテリナ・ユーランよ」


 まさかの副隊長様でした。そしてかっこいい系の見た目しているのに喋り方はちゃんとお嬢様なんだね!貴族の令嬢って感じ。


「ユーラン家はミサト街の姉妹街であるチサト街の領主の二女だよ」

「あぁ、チサト街!聞いたことあります」


 チサト街。確かミサト街に一番近い街だったよね。それでも山を越えないといけないけど。確かルーエスト家の庇護下にあって昔から交流があるんだっけ。なんで庇護下にあるかは知らない。きっと大人の事情。それと、たまに政略結婚が行われているって聞いたことある。確か身分は中級伯爵だったかな。


「ふふ。今後もしかしたら領内で会うかもしれないわね」

「え、領主様と結婚するんですか?」

「まて、なんでそうなった」


 私の発言に領主様がすかさずツッコミを入れる。そうそうそれそれ。それを新人転倒祭りの時に欲しかった。


「だってたまに政略結婚していると聞きますし、領主様まだ独身ですし、それで領内で会うとなると…そうなりません?」

「ならないならない。それに血の問題でしばらくは政略結婚しないって決めているんだよ」

「なるほど」


 血の問題…確か血が近い者同士で結婚して子どもが生まれたら、その子どもの体は弱いって聞いた事があるような。確かに後継者が体弱いのは不安要素になるね。


「ふふ。それに隊長と結婚するのはちょっと…」

「カテリナは心に決めた人がいるからね」

「え!?」

「誰ですか!?」


 領主様の言葉に私とミリアが反応する。というかミリアさんや、食いつき良すぎませんかね。さすが噂好き。こういうお話も好みだったか。ごめんね私に恋の兆しが見えなくて。


「あらあら、ふふ、内緒よ」


 そう言って笑うカテリナ様はどこからどう見ても恋する乙女だった。一言で言うと、綺麗。恋は人を綺麗にするんだなぁ。


「あ、隊長にカテリナさん。ここにいたんですね」


 そう言ってこちらにやってきたのは、ディランルード様だった。あ、そういえば2か3か4隊の副隊長だったね。ということは、第3隊だったのかー。まぁ、副隊長は1人じゃないといけないという決まりはないし、男性副隊長と女性副隊長、なのかな。第3隊の女性騎士率は3割らしいし。


「あ…!」

「あ、君はあの時の」


 ミリアがこの前の遅刻パン衝突のことを思い出して声をあげた。それは向こうも同じで、ちょっと目を見開いた。


「知り合い?」


 2人の反応を見て領主様が尋ねる。そうだよね、どう考えても接点ないよね。あ、でも領民と領主の二男だった。


「この前お城の中でぶつかってしまったんです」


 ディランルード様が申し訳なさそうにこの前あったことを話す。


「ちょっとディラン。あなた体がしっかりしているんだから…相手が怪我したらどうするのよ」

「反省してます」


 おっとカテリナ様よ、まさかのそっちを注意するのねー!だいたいこういう時ってメイドだったり立場が下の人が咎められたりするんじゃないですかねー!


「あ、ディラン自己紹介してね」

「はい。初めましてディランルード・ファリアスです。副隊長をやっています。よろしくお願いします」

「…っ」


 微かにミリアが動揺したのが見えた。そうだよね、自分を勝手に身売りした領主の息子だもんね。無理はないか…。まぁ、もうその動揺は見せていないけど。

 そしてディランルード様、やっぱり敬語キャラなんですねー。貴族が平民に敬語ってなんだか不思議。まぁ、そういう設定だったけどさ、いざ現実になるとちょっと違和感。

 確か誰にでも敬語になった理由って、幼少期から家族に見放されていたからだったような。


「セイレンです。よろしくお願いします」

「ミリアです。よろしくお願いします」


 私とミリアも簡易的に自己紹介をする。ぶっちゃけ名前と職業役職がわかればそれでいいみたいなところあるよね。非常に楽。


「あ、そろそろ出発の時間ですよ」

「そうか、ありがとう。ディランとカテリナは持ち場につくように」

「はい」

「かしこまりました」


 領主様の指示を得て、2人の副隊長様がこの場を離れた。


「セイレンとミリアは荷台に乗せるように言っておいたから、向こうの荷台の近くに行ってね」

「え、歩きじゃないんですか?」


 ミリアが仕入れた情報によると、基本歩きらしいけど…。


「今回は2人だけだから特別。もちろん簡易的だけどクッションも用意しているよ」

「やった!ありがとうございます領主様大好きです!」

「相変わらず現金だよね」

「あ、ありがとうございます」

「どういたしまして。じゃあ私はこれで」


 そう言って領主様もこの場を離れたので、私たちも指定された荷台に行く。荷台に近付くと、その荷台を管理していた騎士が荷台に乗せてくれた。


「おー、クッション!これは嬉しい誤算」

「よかったね」


 荷台の中にはちゃんと小さめのクッションが2つ用意されていた。さすが領主様!気が利くね!


「…で、改めて、領主様どうだった?」

「もう本当に噂と違いすぎてびっくりだよ。優しそうな人でよかった」


 そう言ってミリアはホッと胸を撫でおろす。やっぱり実際に見てみないと不安だよね。わかる。


「ミリアの誤解が解けたようで何よりだよ」

「そういえば、セイレンと喋ってる時の喋り方とか雰囲気が結構私たちに近いのね」

「あー、それはたぶん領主になってから、よく時間を見つけては街に来て街の人と交流していたからかな。10年間それをやってると、さすがにノリとか移ったんだと思う」

「なるほど」


 先代領主がとにかく酷かった分、今の領主様は領民からの信頼を取り戻すため、自分は酷いことしませんよと知ってもらうために、よく街に来ていた。街に来て、おばさまたちの井戸端会議に参加したり、市場で売り子として働いたり、居酒屋でおっさんたちとわいわい話したり、農作業や漁業を手伝ったり、とにかく街の人と何かしていた。というか、今もしている。売り子で働くと言われた店主の顔を見ると、そこそこ面白い顔をしているよ。どうしよう…恐れ多い…みたいな。

 その中でも特によく来ていたのが街に1つだけある学校。7歳から12歳までの子供たちが通う初級と13歳から17歳まで通う上級がくっついたその学校に領主様はよく授業を見学しに来ていた。そういえばたまに飛び入り参加していたっけ。そして休み時間に生徒と元気よく遊んだり、1人で静かにいる子とはまったりお話をしたいた。あ、もちろん私も何回も話しました。まったり…ではなかったけど。だからかな、私と喋る時のノリや話し方がどことなく若者平民寄りなのは。

 みんな最初こそ困惑していたけど、他の政策もあり次第に心を開いて信頼して、今ではみんな領主様大好きである。愛されてるね!領主様!


 ちなみにミサト街は決して小さくはない街です。そこそこ大きい。だけど学校は1つ。理由は単純で、子どもたちの…いや、街全体の人口が少ないのだ。先代領主の時に圧政や理不尽な権力によって人口が減少した。特に子どもたちは厳しい食糧難に耐えれるわけもなく…それに無邪気ゆえの粗相とか…そんなこんなで生き延びれない子ども達は多々いたそうだね。私は街外れで自給自足しながらひっそりと過ごしてたから、実際の様子はわからないけど。養父が教えてくれた。

 まぁ、そんなこんなで学校が1つでも十分事足りていた。だけど領主様に代わって、苦しめるような統治をしなくなって10年も経てば人口も増えてきているようで、そろそろ新しい学校が建つんじゃないかって噂になっていたなぁ。


「とりあえず、1つ言えることはクッション最高」

「前後関係めちゃくちゃだけど、すごくわかる。セイレンの領主様、良い人だね」

「これが懐柔か…」

「すでに懐柔されている人が何を言ってるの」

「確かに」


 すっかり懐柔されていた。領主様おそるべし。


 そんな感じでミリアとまったり話していたら、みんなが動き出した。

 さぁ、出発だー!

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