第8話 サポートメイド募集

「んー…サポートメイド…?」


 晩餐会が終わり1週間が経った。今日も今日とて楽しく役になりきって掃除をしていると、大きめの掲示板に見たことない張り紙がしてあった。張り出されたのは3日前というのは気にしないでおこう。


「あぁ、それね。なんか騎士団が西の森の魔引きに行くから、身の回りのお世話をする下っ端メイドと下っ端使用人を募集しているらしいよー」

「あー、なるほどね」


 魔引きとは、魔物の数を減らすことだ。前世で言う間引きに近いかな。増えすぎた魔物の数を減らして、生態系を戻す…みたいな。勝手に生態系が戻れば何もしなくていいんだけど、この世界の魔物は前世で言う外来種みたいな感じで、増えたら増えただけ生態系を壊していく。まぁ、それに魔物は危ないからね…。襲ってくるし。だからこうして騎士団が定期的に魔引きに行っている。


「西の森かー」


 西の森は王都から遠い。そのため頻繁に魔引きにいけなので、専門家と話合いながら大規模な魔引きを行う。まぁつまり滞在日数が長い。だから洗濯や調理をサポートする人たちを連れて行って、騎士の体力温存に努めるというわけだ。


 ちなみにサポートメイドは特別手当が出る。身の危険もあるし、結構重労働らしいし。でも、良い駄賃らしいから応募する人は一定数存在するっぽい。生活に困ってたり、欲しいものがあったり、理由は人それぞれだけど。


「どれくらい集まっているんだろうね」

「それがね…」


 何気なく呟いた言葉にミリアが顔を暗くする。お?もしかして集まってない感じ?それ結構珍しいんじゃない?


「今回魔引きを担当するの、第3隊なんだよ」

「へぇ。あれ、でも第3隊ってそこそこ女性騎士いるよね?」


 男性が多いから応募しにくいとかならまだしも、第3隊は女性騎士が3割占めるって聞いた事あるぞ。


「そうなんだけど、隊長がね」

「あ、なんかわかったかも」

「ルーエスト様なんだよね」

「ですよねー!」


 思わず頭を抱える。ルーエスト様とは言わずもがな領主様である。領主、つまり家督を継いでいるため名字呼び。本人曰く、名前呼びがいい…らしい。そんな私たちミサト街の人は領主様呼びですけどね!

 というか領主様!噂が思わぬ方向で影響を与えてますけど!隊長が超怖いらしいよ、じゃあ辞めとこーみたいな会話が手に取るようにわかる…。それにサポートが集まらないってそれ結構やばくない?全部騎士でやったらそれだけで疲れるよ。特に西の森は時間かかるし魔物も強い個体が多いし…。


 こうなったら私が応募するしかない。身の危険?重労働?領主様のためなら惜しくない。


「よし、これも領主様のためだ」

「セイレンならそう言うだろうなと思っていたよ」


 そう言ってミリアがポケットから2枚の紙を取り出す。


「これは?」

「応募用紙。セイレンが行くなら私も行くよ」

「いいの!?」

「もちろん。セイレンから聞く限りルーエスト様はそこまで怖い人でもなさそうだし」

「命の危険とか」

「そのときはそのときでしょ」


 そう言って優しそうに笑うミリアは、この世界のヒロインだと納得してしまうくらい可愛いかった。眼福。


 ちなみにこれ、ゲームのイベントとは関係ない。起こり得る全ての出来事がゲームで決まっているわけじゃないからね。ゲームで決まっているのは、ヒロインの恋模様のほんの一部だけ。ゲームで決まっていないこういう出来事によって、私がこの世界で1人の人として生きているんだなーって感じることができるというのは少し悲しい気もするけど。






「要項書くのめんど…」

「がんばれがんばれ」


 今日の分の掃除を終わらせ、応募用紙の要項を埋めている最中です。結構書くところあるんだね…名前と年齢と性別くらいだと思っていた。何やら応募理由とか家族構成とか出身地とかあるんだけど。あと、最近怪我したかとか病気したかとか。まぁ、必要そうといえば必要そうな情報だなー。


 応募理由は領主様のため。家族構成はあまり家にいない養父のみ。出身地はミサト街。怪我も病気もなし。1週間前晩餐会のお手伝いで足が棒になったくらい。


「魔法か…」


 最後に「あなたは魔法をどれくらい扱うことができるか」という質問があった。

 魔引きについていくということは、魔物との遭遇もあるということ。万が一の時は自分の魔法で自分を守らないといけないのだ。まぁ、拠点を森の中に置くわけじゃないからそこまで遭遇率が高いわけはないけどね。


「もしかしてセイレンは魔法扱えないの?」

「そんなことはないよー。むしろ扱うのは割とできる」

「そうなんだね」


 養父が仕事で家を空ける事が多くなる前まで、すごくしごかれたからね。平民の割には扱うの上手いと思うよ。ただ、魔力量は少な目だけど。まぁ、この世界では魔力量よりも魔法の扱い方が上手いかどうかがものを言うみたいなところがあるから、日常生活で劣ってると感じたことはないんだけどさー。こういう時ってどうなんだろうね。まぁ、自分の身を守るくらいはできるか。

 ちなみに、ヒロインであるミリアは魔力量が多い。でも扱い方は平民と同じくらいだから、どちらかというとその魔力を供給に役立てていたっけ。攻略対象に魔力供給して好感度アップ…みたいな。

 でも、そもそも王族貴族は魔力量多いから供給しなくてもよくない…?というのがこの世界で過ごしてゲームと照らし合わせた結果、生まれた矛盾である。完璧な設定をするのって難しいよね。


「魔法は…魔力は少ないけど扱いはそこそこ上手だと思います、たぶん隊長が知っているので疑問に思ったら聞いてみてください、と」

「ミサト街でのルーエスト様が想像つかない…」

「そのうちわかるさー」


 よし、応募用紙の記入終わり!あとは明日これを提出するだけだね!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る