第3話 攻略対象の王太子殿下

「今日はお城の中の掃除か」

「2回目だね。緊張するなぁ」

「ミリアが緊張している、可愛い」

「ハイハイ」


 軽くあしらわれてしまった。ヒロイン様もといミリアは今日も今日とて可愛らしい。


 まぁ、そんなことは置いといて。いや、置いときたくないけど。一体いつからストーリーが始まるんですかね。そろそろだとは思うんだけど、ちょっと詳しいことは覚えてないからなぁ。


「さて、中の掃除でどうふざけるか…」

「ふざけなくていいからねー」

「ハイ」


 ミリアのいけず。まぁ、さすがにお偉いさんがよく通る室内でふざけたりしないよ、たぶん。心の中は大荒れだろうけど。






「え、室内掃除ってこんなにきつかったっけ」

「それは私も思うよ」


 お偉いさんが通るたびに端に避けつつ掃除をすることはや1時間。なんだか精神的に疲れた。お偉いさんがよく通るということは、粗相しないように気を張るということ。うん、ミリアも同意するレベルで疲れるはずだよねー。


「休憩入る?というか入ろ?」

「この一画の掃除が終わったらねー」

「はーい」


 ミリアさん、手厳しい。そういうところも可愛いけれど。しょうがない、ミリアを見て癒されながら掃除するか。可愛い子は至福眼福。


 そんな感じで掃除をしていると、角から一人の男性が歩いてきた。豪華な服を身にまとい、端正な顔立ちに威厳のある表情と雰囲気を纏ったその人は、この国の王太子であるオースティン殿下である。御年26歳。いまだに独身。いや、悪役令嬢という婚約者はいるけどね!なぜか結婚はまだしてないのよね!なんでだろうね!え、だって王族の26歳だよ?結婚して世継ぎ作らないといけないじゃない。まぁ、ストーリー上仕方ないと言えば仕方ないけど。


 とりあえず、端に避けよう。


「あ」


 ちょうど王太子殿下が曲がってきた角の方を掃除していたミリアが、慌てて避けようとしてバランスを崩したのが目に入った。


「え」


 これが噂の新人転倒祭りですか。目の前で開催されちゃったよ。よりによって王太子殿下の目の前で。

 …て、これ初対面エピソードのやつじゃない!?まさかこんなにぬるっと来るとは思わなかった!


「大丈夫かい?」


 目の前で盛大に転んだミリアを見た王太子殿下は、その威厳たっぷりの雰囲気を少し柔らかくして声をかけた。そして手を差し出した。


「あ、申し訳ございません…」


 ミリアは本当に申し訳なさそうな表情をしながらその手を取って立ち上がった。


「いいんだよ。新人かい?」

「はい…」

「そうか。これからよろしくね」


 王太子殿下はそう言って微笑むと、そのまま歩いて行った。


 …目の前でさらっとスチル絵が終わったんですけど。まぁ、それは置いといて。リアルスチル絵美しすぎなのでは!?眼福通り越して、ここが漫画やアニメなら鼻血吹いて倒れるレベルだよ!え、これを私は今から何度も目にすると?ありがとう前世のゲーム。


「大丈夫?」

「精神的に大丈夫じゃない」

「だよねー」


 王太子殿下の姿が見えなくなったのを確認してミリアの元に寄る。ミリアは遠い目をしながら王太子殿下が去って行った方向を見つつ、疲労の色がこもった声を出した。


「うん、休憩入ろう休憩」

「そうね、そうしようかな」


 よし、ミリアの許可が下りたことだし、休憩だ休憩!






「新人転倒祭りだけはしたくなかった」

「目の前で開催された私の気持ちよ」

「自分で開催した私の気持ちよ」

「はい、スミマセン」


 まさかしっかりしているミリアが開催するとは思わなかったなー。まぁ、こうなることがエピソードで確定していたんだけどさ。でもやっぱりミリアの同期兼友人としては驚きの方が大きいよね。


「ま、今後の話のネタになるからいっか」

「新人転倒祭り開催は一種のステータスなの?」

「たぶんそう」


 ミリア、意外とあなた強心臓の持ち主だね!

 そうか、新人転倒祭り開催は一種のステータスか。話のネタか。


「私も開催しようかな」

「開催しようとして開催するものじゃないからね」

「領主様の前ならいけるかなーって」

「わぁ…」


 ミリアの引き気味な視線が容赦なく突き刺さるわー。いや、ちょっとだけね、領主様の前で尻もちついたらどんな反応するのかなーって気になったんだよね。


「それにしても、王太子殿下って意外にお優しい方なんだね」

「そうみたいだね」

「もっと怖いかと思っていた」


 そういって表情を柔らかくしたミリアは恋する乙女…ではなく単純に尊敬の眼差しをしていた。

 あ、これたぶん王太子殿下ルートは消えた。どんまい。

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