第4話 攻略対象の副隊長

「今日は!外掃除!」

「セイレンって外掃除好きだよね」

「まぁねー」


 室内ほど気を張らなくていい外掃除って最高だと思いません?私はそう思います。


 さて、つい昨日ヒロインと王太子殿下の初対面エピソードが投下されたわけですが、このまま行くと次はディランルード・ファリアス様のはず。前世ではネットでディラン様と親しみを込めて呼ばれていたけど、実際貴族様に平民がディラン様なんて愛称で呼べるわけないよねー。家督継いでいないから、呼ぶとしたらディランルード様かな。長い。






 今日担当する掃除場所はお城の中庭の中でも建物が入り組んだところだった。つまり死角が多い。


「ふざけ放題だ…」

「はい、掃除しようねー」

「ハーイ」


 ぼそっと呟いたはずの感想は、ミリアによって一蹴された。ちょっとくらいふざけてもいいと思わない?まぁ、ちゃんと掃除するんですけどね。仕事だし。でも時には息抜きも必要だと思うんだよねー。


 黙々と、時にはこっそり変顔をしたり虐げられたお嬢様になりきったりしながら掃除をすること2時間ちょい。ちょっと疲れてきた。


「休憩しない?」

「そろそろ言うだろうなーって思ってたよ」

「バレてた」

「バレバレ。でも今日は集中力持った方じゃない?」

「虐げられたお嬢様ごっこが予想以上に楽しかった」

「うん?」


 前世で言うシで始まってンで終わるあれである。結構楽しくなっちゃってノリノリで掃除してた気がする。わかりましたわお母様、みたいな。

 ミリアの反応を見る限りこの世界では通用しない話なのかもなぁ。貴族の娘を馬車馬の如くこき使うなんて考えられないのかも。


「まぁ、セイレンが楽しんで掃除をできたようで何よりだよ」

「休憩休憩!」

「はいはい」


 やれやれといった様子のミリアとともに休憩所に向かって歩き出す。そして角を曲がろうとした時だった。


「あ」

「あ」


 角を曲がろうとしたところで、内側にいたミリアと曲がってきた男性の声が重なった。そのまま正面衝突をしてミリアが後ろに倒れた。倒れたといっても尻もちをついたくらいだけど。


 というかこれあれだよね。遅刻しそうな女子高生がパンを加えて家を飛び出して、途中の角で男子とぶつかって恋が始まるあれ。


「あ、すみません。大丈夫ですか?」


 角を曲がってきた男性が、ミリアに手を差し出しつつ謝る。

 ディランルード様だった。ということは、またもやぬるっとエピソードが投下されました。目の前で。いやぁ、眼福至福。


 確かディランルード様はナツミ街に拠点を置く領主の二男だったよね。身分としては中級伯爵。…そっか、ナツミ街か。ヒロインであるミリアはナツミ街の領主に無理やり身売りされたんだよね。つまりは憎き敵の息子になるわけかー。ゲーム上だとへぇ…で終わるけど、いざ現実に起きるとそんなお気楽な反応できないよね。まぁ、ミリアは恐ろしいほど優しい心を持っているから、ディランルード様を恨まないのかもしれないけど。


「大丈夫です。こちらこそ申し訳ありません」


 立ち上がったミリアが謝り、怪我がないことを確認すると、ディランルード様は歩いて行った。


 そういえばディランルード様って騎士団のどこかの隊の副隊長だったよね。どこだっけ。確か2か3か4あたりだった気がするけど…。まぁ、いいか。今後どこかでわかるだろうし、どうしてもわからなかったら領主様に聞けばいいし!


「大丈夫?」

「うん、大丈夫。なんだか昨日から粗相しているなぁ。気を付けないと」

「そうだねー」


 ごめんミリア。それはどう頑張っても避けられない出来事なんです。それとまだ残っているからね。どんまい。


「そういえばさっきの人どこかで見たことあるんだけど…」

「どこかの隊の副隊長かなー」

「それは服装見れば誰でもわかる」

「デスヨネー」

「まぁいっか」


 さすがにここで私がキャラ名を教えるわけにはいかないよね!ゲーム上でも、ディランルード様は最初誰かわからなかったし。まぁ、平民だったり下っ端メイドは王族かよほど噂になっている人以外は知らないよね。よほど噂になっている人。つまり領主様である。


 そしてこの反応はあれですね!興味示してない感じですね!ここにディランルード様ルートが消えたことを報告します。どんまい。

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