第9話 ここから始まる復讐劇

「貴方は…冷、と言うんですね。 …何故、僕たちには関係ないんですか?」

 冷は真っ直ぐ僕を宝石のようなあかい目で見た。 僕はゾッとした。

 …怖い、さっきまでは大丈夫だったのに、足がふるえた。

「実花、大丈夫…?」とシロナが小声で言った。 「……うん、大丈夫……」

 と言ったものの、不安だった。一方ユキ姉は真剣しんけんな表情で冷の方を向いている。 (ユキ姉、怖くないのかな…ユキ姉は戻されちゃうのかな…) 心配だった。

折角せっかく再会したのに、また……はなばなれになってしまうのだろうか…  「嫌、だなぁ…」 小さくつぶやいた。おそらく、皆には聞こえていないだろう。 これから、どうするべきか… このこおりついた雰囲気ふいんきの部屋で、この状態じょうきょう打破だはする方法を思いつかなかった。

しばらくの沈黙ちんもくの後、冷が口を開いた。

「私には、やるべきことがある…私は、自分自身のためにユキを攫った。」

「なぜ、そんなこと…」途中で言葉をさえられた。

「…ッ!うるいっ!貴方達には関係ないッ!」 と急に感情的になった。

いきなりだったのでビックリした。

「ユキ姉に、何かうらみがあるの…?」

「だから…貴方達には…」 「私から話すよ」

とユキ姉が言った。 「私達…私と冷と実花と日向は…」ゆっくり話し始めた。

とその時、冷がユキ姉の首をしめめた。

「!?ッ……ぐぅ…っぁ…」ユキ姉は苦しそうにしていた。

「なにするのっ!冷!」 僕は必死ひっしに止めようとした。

シロナと一緒に。 でも必死の抵抗ていこうむなしく、冷の氷魔法で

はじき飛ばされてしまった。 ―名前通り、氷魔法を使うのか…

一方僕はまだ学校に入学して2ヶ月もっていなかったので低級魔法の

水魔法しか使えなかった。水と氷じゃ相性あいしょうが悪いし、氷魔法は結構後けっこうあとに習う強力な魔法だった。 シロナは…分からないけど僕と同じくらいのとしだから、無理だろう…

そう理解した時には、くやしさがこみ上げてきた。

また…僕は何もできない、ユキ姉を救う事ができないのか?

嫌だ、でも今度こそ何もしないと死んでしまう。 僕は必死に考えた。

そこで、シロナがこの状況を打破だはした。

シロナが冷の足あたりをった。 そして冷はおどいて、手をはなした。        「……っ!?」   シロナはドヤ顔でこう言った。

「こう見えて私、武術ぶじゅつ習ってるからね。」 そうだったのか。

シロナは魔法じゃなくて、身体を動かす武術を習ったのか。

といけない、いけない。 僕はさっと走って、ユキ姉を助けた。

自慢じまんだけど、僕は足が速いのだ。…だけど欠点けってんがあって、体力があまり無い。

その為、あまり走ることは無い。

「…はぁ、まさか私が負けるなんてね…」 と苦笑にがわらいしながら冷が言った。

「冷…ただでむと思うなよ…」 と僕は少し強い口調くちょうで言った。

冷はちょっとにやりとあやしいみをかべていた。

「えぇ…分かってるわ。降参こうさんするわ……なーんてねぇ?」

冷は素早すばやく僕をたおしして両手を後ろ手にして

魔法でこおらせ、拘束こうそくした。

「なっ……!?」 壊そうとしたが、無駄だった。 その間にシロナは冷に攻撃こうげきしようとしたが、冷の攻撃をらい、気絶きぜつしたようだ…

「…シロナ…ユキ姉…」 そうこうしてるあいだに、ユキ姉を手に抱えた冷がナイフ型の氷を取り出した。 その時僕は悟った。冷がしようとしてることを…

「冷!やめてよ!ユキ姉を…僕のお姉ちゃんを、殺さないでよ…」

冷は冷たい表情で「それは無理な話ね」と無情むじょうに言った。

「この…ッ」  「まって、最後に実花と話をさせて」

ユキ姉は何を言ってるのだろう? それって、諦めてる、という事じゃないか。

「…まぁ、いいわ。5分だけね。」  と言ってユキ姉を離した。

「ユキ姉、僕が何とかするから、諦めないでよ…!」

ユキ姉はおだやかな表情だった。 死を覚悟かくごしている、そんな様子もうかがえた。 「もう実花達を危険に合わせたくないの…ねぇ、最後に私の我儘わがまま、聞いてくれる?」


「…分かったよ」この決断けつだんを下すのに、十秒ほど掛かった。

ユキ姉がここまで言うなんて、もう無理なのだろう。でも僕はまだ…

「ありがとう、実花。…あのね、私…」

「うん…」 「結婚して、子供が出来たら、レアルって名前にしようとしてたの。」

そんな将来しょうらいの事も考えていたのか。 でも、もうその未来は見れない。

「それでね、実花…貴方にレアル・フーチェと言う名前になって欲しいの。」

それが、我儘わがままなら、世界中の人のみにくねがいは

どういう言葉で表すのだろうか。

「…いいよ…っユキ姉の願いなら、叶えるよ…」 ユキ姉は笑ってありがとうと言った。

僕は途中から涙がにじんでいた。 僕も無理だと、分かったんだ。

「実花にどうしても、付けたかったの。だって、世界で一番大好きな妹なんだもの…もちろん日向も大好きよ。」 僕は嬉しかった。母からもらった名前も好きだが、「レアル」

という名前も好きだ。 …涙があふれてきた。 泣いちゃ駄目だめだ。

ユキ姉が、悲しむから…っ 何でだろう、涙が止まらないな… ここしばら

涙は流していなかったのに、どうしてかなぁ…

「ユキ姉、いままでありがと…う…っ…ぐすっ…」 ユキ姉が慌てた。

「泣かないの。…実花。私まで悲しくなるじゃない…私だって…死にたくないよぉ…」 ユキ姉も目元めもとに涙がかんでいた。


そして、5分経った。無情むじょうにも、時間の流れは速かった。

「時間だ。…じゃあ、さようなら、私のにくき妹よ」

ザシュッというするどい音をたて、ユキ姉の心臓しんぞうさった。

新鮮しんせんな血の匂いだ…ゆうりちゃんに薬を飲ませてもらって良かったと思った。

暫くしてユキ姉の息、脈拍みゃくはくは止まり、体温が冷たくなった。

また、7年前のような気持ちになった。 「あ…ぁ…」

これが死。これまでに重い死を見たことがなかった。きっと兄弟だから…か。

いつの間にか冷はなくなっていたし、氷の拘束もけていた。

でもそんな事はどうでも良かった。


もういつもの様に、話しかけてくれないし、笑っても、動いてもくれないんだ。

人の死とは、呆気あっけない…実に呆気あっけなかったんだ。

僕はいかりと苦しみの感情を感じた。僕はまた、救えなかったんだ…

悲しい、悲しい悲しい悲しいよ…

僕の旅はここで終わるはずだった。 けど、僕は…こう思ったんだ

    


        「冷に、復讐してやる…」


  …こうして僕の復讐劇が始まった。

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