第4回を終えて

「ちょっと、変なこと言わないでよ!すっごくヒヤヒヤしたんだから!」

ミネルバは噛み付くように言った。

「2020年を生きるただの大学生っていうていでアポをとってあるんだから、ミライ君は余計なこと言わないでいいの!」

未來は不敵な笑みを浮かべた。

「でも、自分だけが知っている真実って面白いな。いつか、それが現実になるかもしれないんだから」

「むしろ、そういう一人一人が持っている『真実』を持ち寄って、現実にしてしまう。江渡さんが研究している共創のプラットフォームは、そのためのものなんじゃない?」


 未來は彼が生きる2100年の日本を思い起こした。あの世界で誰もが思いもよらないような真実は存在するのだろうか。そして、それを追い求めるような人間はいるのだろうか。

「それで、どう思った?江渡さんの話は」

空になったペットボトルを弄りながら、ミネルバは尋ねた。

「仲間を見つけて、活動の場を広げる。確かに大切なことだと思う。渡邉さんが言ってた『偶然』に出会えることも、間違いなく増えるだろうね」


 そこまで言うと、未來はため息をついた。

「ただ、俺はまだ高校生だ。大学生ほどあちこちに行けるわけじゃない。それに、俺たちのいる時代じゃ、学校の外に交流する仲間を見つけるのは簡単なことじゃない」

2100年では、子供も若者も限られた存在だ。それに、社会問題が解決されることなく山積している日本では、誰もが厭世的になっている。おそらく、社会を変えようなどと考える人はいないに等しい。もしいたとしても、どのように接触すればいいのか見当もつかない。


 そのことを伝えると、ミネルバはなぜか明るい表情になった。

「ミライ君、最初に会った今村さんの話を思い出してみて」

彼女にそう言われ、未來はカタリバの話を脳内で再生してみた。彼女はたしか、ナナメの関係とか言ってたっけ……。

「今村さんは、オンラインで教育を提供するサービスもやってたよね。それは、学校に行けない子供達が集まるというものだった。後で調べたんだけど、海外の子供と交流することもあるらしいんだ。それを応用すれば、活動の場は簡単に広げられると思うんだけど、どうかな?」


 ミネルバの明察に、未來は顔を輝かせた。

「そうだ!そのシステムは絶対役に立つさ。どうやって作ればいいのかは全くわからないけど、いつかはそれが社会に普及するに違いない。まあ、誰も信じないだろうけどね」

興奮気味に語る未來に、ミネルバは畳み掛けるように言った。

「それで、江渡さんは何をするべきだって言ったんだっけ」


 突然質問の角度が変わり、未來は面食らった。

「えっと、誰も同意しないけど、自分だけが知っている真実……あっ」

彼は弾かれたように顔を上げた。ミネルバと目が合い、彼女はにやりと笑った。

「そういうこと」

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