第2回を終えて

「人生の選択肢、か……」

静寂の戻った室内で、未來が最初に発した言葉はそれだった。

「考えたこともなかったんでしょ」

ミネルバは小馬鹿にするように言った。

「悪いかよ」

彼がふてくされると、ミネルバは吹き出した。


「ともあれ、お金に対する見方は大分変わったんじゃない?」

どこで買ってきたのか、ミネルバはペットボトルのお茶を差し出しながら言った。未來は受け取ったペットボトルのキャップを捻りながら答える。

「それは認める。お金は持っているかいないかが全てだと思ってた。その使い方が大切だとは考えたことなかったな。確かに、使い方を考えたり、誰かのために使ったりすれば、お金は人を幸せにもできるのかもしれない」

「こっちの世界じゃもうすぐ21世紀が終わるけど、22世紀の貨幣はどんなものに変わっているんだろう。幸せの道具になっているのかな。それとも、嫌われ者のままなのかな……」

ミネルバの呟きが、しばらく宙に浮いていた。


「俺、一つ気づいたことがあるんだ」

未來が抑え気味な声で言った。

「どうしたの?」

「得たお金や経験を誰かのために使ったり、社会に還元することで幸せになれる。閑歳さんは、そう言ってたはずだ」

ミネルバが黙ってうなずく。

「さっきの今村さんは、社会には格差があることを忘れちゃいけないと言っていた。これって、二人とも同じことを伝えたかったんじゃないかな」


 珍しく難しそうな表情を浮かべ、ミネルバは唸っている。

「……っていう、俺の勝手な考察なんだけどさ」

場を濁したくなって、未來はそう付け加えた。やがてミネルバは彼に賛同した。

「それはあるかもしれないね。手段こそ違えど、一人でも多くの人に選択肢や可能性を与えているという点で、二人は共通しているもの。ミライ君の言うことも、あながち間違ってはいないと思うよ」

その言葉に、彼は胸を撫で下ろすのだった。


「でも、閑歳さんの話も、やっぱり一つだけ引っかかる」

「今度はなあに?」

未來は急に深刻な面持ちになった。

「俺、考えてみたんだ。閑歳さんが言うように、何か夢中になれるものはないかって。何一つなかったね。よく考えてみると情けないよ。俺は17年間、何して生きてきたんだろ」


 ミネルバの目つきが変わり、驚いたように未來に詰め寄った。

「ちょ、ちょっと。どうしたの、急に?変なものでも食べた?」

彼女の狼狽ぶりに、少しだけ心が軽くなったような気がする。

「いや、ごめん。ただ、何かに打ち込める方が、人生楽しいと思って。今村さんたちの話を聞いてると、二人とも楽しそうに見えるんだよ」

「なるほどね」

「でもまあ、難しいよな。夢中になれることなんて滅多に見つかるもんじゃないし、特別なことをしなきゃいけないのかもしれない。そもそも、何かに夢中な大人なんて、滅多にいないんじゃないかな」


 ミネルバは口に手を当てて笑った。ばかにされていると思い、未來はふてくされたように顔を背ける。

「そう言うミライ君のために、用意しておいたよ。『面白い』を創り出している大人たちの、面白い話をね!」

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