第1回を終えて
「それで、どうだった、今の話は?」
後ろからミネルバの声がして、未來はびっくりした。
「そっか……いたのか」
「いたのか、って何よ。失礼だな」
ミネルバは膨れっ面で、今村さんが座っていた席に腰掛けた。
「こんな活動をしている人がいるなんて、知らなかった。教育なんて、自分が受けて終わりだと思ってたから」
未來が率直な感想を口にすれば、ミネルバも首を縦に振る。
「そうだね。学校の役割なんて話、なかなか興味深かったと思わない?」
「確かに。
ミネルバは椅子に深く座り、腕組みをした。
「前に聞いた話なんだけど、300年ぐらい前の薩摩藩が同じようなことをやっていたらしいよ。武家の子供を数十のグループに分けて、年長者は後輩に学問などを教える。
「やっぱり、年長者との関わりはいつの時代でも大切だってことだね」
未來は窓の外の景色に目を細めながら、片肘をついた。
「でも、一番心に残ったのはそこじゃない」
ミネルバがさもありなん、というふうに相槌をうつ。
「"特権"の話でしょ?」
「そう。その話がすごく引っかかるんだ。わかるような気もするし、わからないような気もする」
経済格差は未來の住む日本社会に根強く残る問題だ。近年では富裕層と貧困層の二極化が激しい。未來のような中間層はその数を減らしている。
「確かに、学校が大切だってことはわかった。学校に行けるのが特権だってこともわかった。80年前を生きている今村さんがそう言うんだ、三人に一人が学校に行けない2100じゃ、尚更だよ」
そこまで言うと、未來は声のトーンを落とした。
「ただ、その特権を理解したところで、俺にどうしろと言うんだろう。貧しい人に寄付でもすればいいの?俺は最低限の生活ができてるってだけで、そんなことをする余裕はない。富裕層なんかじゃないし」
格差があること自体は理解しているが、その一歩先に想像が辿りつかなかった。今村さんのように教育支援をするという考えが頭をよぎり、次の瞬間にはそれを揉み消した。そんなこと、俺にできるわけがない。
「結局、この悪しき資本主義が消え去らない限り、俺たちはどうにもならないんだよ。金だ金。それが全ての元凶ってことだろ?」
考えるのに疲れた未來がぶっきらぼうに言った。ミネルバは軽く失笑した。
「そこでさっきの質問ね」
彼女が人差し指を立てる。
「お金についてどう思いますか、ってこと?」
「そう。ミライ君の疑問には答えないでおくよ。おそらく、このプロジェクトの中でミライ君自身が答えを見つけると思うから。それよりも、さっきのお金の話。次お会いするのは、その"お金"に関する仕事をされている方よ」
どうやら、ミネルバが会わせたかった人物は今村さん一人ではないようだ。
「それじゃあ、私についてきて」
ミネルバは椅子から立ち上がり、小さく伸びをした。
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