第41話 大剣士ヨゥ・リヴァイア→黒魔法使いミィ・シルフェー③


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「姫、こいつを見てどう思う?」


「すごい…………おおきい……です」


 あ、剣ね? 剣の話ね?

 本当だよ?


「これがアタシの本来の得物。銘はスカルクラッシュ。お手製さ」


「すかるくらっしゅ……っ、なんて物騒な名前……っ!」


 いや本当に物騒だよ。

 名前どころかその見た目もなんかおどろおどろしい。


 両手で持つタイプの、なんだっけ。えっと、4号が前に言ってた、通販だかアンデッドだか。


【ツーハンデッドソード、です姫】


 そうそう、そのツーハン。ありがとうイド。


【どういたしまして】


 柄と柄ががっちゃんこして、その先にとても分厚くて長い刃先がついてる剣。

 今4号──────改め、大剣士たいけんしヨゥ・リヴァイアが渾身のドヤ顔で見せびらかしているのが、そのツーハン。


 血が錆びたみたいに赤黒い鉄の刃先は鉄板の様に分厚く、斬るって言うより断つ! って感じの剣。

 シンプルな装いが実用性重視っぽさをさらに際立たせていて、柄にグルグル巻きに巻かれている布が所々血で汚れてるせいで普通におっかない。


「これ、背負って歩くの?」


 邪魔じゃない? て言うか、重すぎない?


「ああ、こう言うのは見た目だけでも相手をビビらせる効果があるからね。アタシは戦うのが好きだけど、無駄な喧嘩は死ぬほどめんどくさいって言う天邪鬼だから」


 そう言ってヨゥはニカっと笑う。

 赤髪を頭の真後ろでポニーテールに括り、さっきはしてなかったのに今は4号の時みたいに左目に眼帯をしている。


 前に聞いたんだけど、どうやら4号──ヨゥの左目には2号と3号の魔力を込めた義眼が嵌められているんだって。

 剣士としての戦闘に特化する様調整されたヨゥは、他の猫たちと違って魔力があんまり多くないそうで、だからいざって時に魔力が必要になった場合、この義眼式魔導具『落涙する猫目キャッツ・アイ・ドロップ』を使って魔法を行使するとかなんとか。

 でも使える魔法も数種類しか無いし、威力も調節できないから本当に奥の手なんだって。

 見せてって言っても見せて貰えなかったし。


「そんでここに───っと。これで姫を抱えてても気にせず移動できるって寸法さ」


 そう言って自分の豊満な───本当にびっくりするほど大きな────胸の上から胸当てを当てて、はめ込み式のアタッチメントを更に上から装着した。


 これはオレの腰のベルトにデコがあって、ヨゥの方はボコになっている。

 オレ達が今から向かう目的地は寒い所で、年中雪に覆われた豪雪地帯らしいから、オレは基本ヨゥに抱えられて移動するのだ。

 何せこの小さな身体じゃ雪を歩くには不慣れだし、何より簡単に積もった雪に覆われてしまいかねないから。


「なんかオレ、荷物みたい」


「ちっこい姫程度の重さじゃ荷物にもなんないよ。良いとこ、アクセサリーかな?」


「ひ、ひどくない!?」


「あはは、冗談冗談! 大事な大事なアタシらの姫さ。家来に背負われたり抱えられたりするぐらいが丁度いいってね」


 こうやって快活にケラケラ笑う姿を見ると、やっぱり4号なんだなぁって安心する。


 肩周りや腰回りの動きやすさを重視した真っ赤な軽鎧や、猫の時にも愛用していたボロボロのマント。

 背中にさっきのツーハンも背負って、下はダボダボだけど動きやすそうな布と皮と鉄で覆われたズボン。


 これで顔を隠してこの自己主張が激しすぎる胸部や長い赤髪さえなかったら、男の人って言われてもバレなさそう。

 勇壮っていうより、獰猛。元が猫科の妖精なのに、猛禽って感じ。


 でも顔を見たら女の人だってすぐバレちゃう。だってめっさ美人さんやもん。

 べっぴんはんやもん。


「ん? どした? アタシに見惚れちゃった?」


 その顔をじっと見てたら、ヨゥはニタァっと意地が悪そうに笑った。

 む、見惚れてないぞ。


 ちょっと『ほえー、めっさ綺麗やないですかこのお姉さん。ボン・キュ・ボン・ワァオ!』って視線が動かせなかっただけだい!


【姫、それを見惚れると言うのです】


 イドまでそんなこと言う!

 見惚れるって言うのはもっとこう、『はー、すんごいビューティー。セクシー、ダイナマイツ! ワァオ!』ってなる感じの、あれ?


「よし、んじゃアタシは1号と最後の打ち合わせしてくっから、姫は大人しくここでミィを待ってな」


「わ、わぁああ」


 頭グシャグシャすんな!

 せっかくちゃんと被れたニットがズレるってば! 中で髪の毛がぐるんぐるんになっちゃう!


「あははっ」


 いつもみたいにケタケタと笑いながら、ヨゥはまだ作業中で忙しそうな1号と2号の元へと行ってしまった。


 な、なんだよいつもよりちょっと背が高いからって!

 オレが二人分縦に並んでもちょっと足りないぐらい高身長だからって!


【姫、それはちょっとじゃ済まない差です】


 い、イドまでまたそんなこと言う!


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「ふふーん? 姫、どう? 似合ってる? 闇系のお仕事の人って感じ、出てる?」


「出てない」


 はい、正直に言いました。

 だって全然そんな感じ出てないんだもん。

 確かにとっても似合ってるし、めっちゃ綺麗だし可愛い。だけど。


「メイドじゃんそれ」


 メイドじゃんそれ!


【姫、何も同じことを頭の中で叫ばなくても】


 大事なことなのでちゃんと反芻しました!

 イド、ちゃんと今のオレの言葉をデータに残しておいてね!


【……かしこまりました】


「あれー? おかしいなぁ。盗賊とかに舐められない様にちゃんと『智慧溢れる有能で不敵な黒魔法使い』って感じを演出したのだけれど、そんなにメイド?」


「8割メイド」


 黒くてレースたっぷりでゆらゆら系のスカートをぶわんと広げながら、3号ことミィ・シルフェーは両手を広げてグルンと一回転した。

 その遠心力でぶるるんって擬音が聞こえそうなぐらい、その胸も揺れる。

 ヨゥと違って胸当てとかもつけてないからよりナチュラルに、そしてより扇状的にミィのおっぱいは服の布地を道連れに揺れまくった。


 セミロングの艶のある黒髪が、まるで高級シャンプーのコマーシャルみたいにダイナミックに揺れて不自然なまでに綺麗に纏まっていく。


 驚くほど白い肌とのコントラストが美しいなって、オレは思ったね。


「そっかメイド……。まぁ、良いわ。姫のメイドで間違いないしね?」


「え、良いの?」


「良いの良いの。ぶっちゃけ戦闘はヨゥに任せて、私は姫に全力で構ったり姫のお世話をしたり姫に全力で構ったり姫の躾をしたり姫に全力で構ったりするのが役目だから」


 構いすぎじゃないですかねぇ?

 配分おかしくないですかぁ?

 

 怖いです。


「そもそも、ヨゥが切り込まなきゃならないぐらい接近なんてされたら、私にできることと言えば状況と用途に合わせた結界を張るぐらいしか出来ないわけだし? 私の魔法が活きるのは遠距離でなおかつ多勢でしかも一方的な殲滅の時ぐらいだし?」


「あ、今の感じちょっと黒っぽかったよ」


 冷酷で残忍な魔女って感じがすっごい出てた。


「具体的にはどこらへんがメイド?」


「ホワイトブリムとエプロンドレスが致命的かな?」


「むむ、でもこれは譲れないのよねぇ。アウトラインに添えた黒くてスケスケのレースと、同じく黒いフリルが最大の譲渡」


 ミィの今の姿はその真っ黒な外套を外せば完全にハウスメイドさんのソレなんだけど、所々にミィの言う『闇系』だったり『黒っぽい』だったりが見え隠れしている。


 腰のホルダーとアタッチメントはオレの身につけている奴とお揃いで、ミィの方が身体が大きいからオレのよりいっぱい杖が帯杖できる様になっている。

 他にも儀式用の短剣だったり、投擲用の針一式だったりがあるから、それだけ見れば正に『闇の仕置き人』っぽさが出てるんだけど、それでもメイド成分が強すぎだと思うんだ?


 まぁ、猫の姿の時から色んな種類のメイド服を着ていたミィだ。

 メイドに並々ならぬ拘りがあるのだろう。


「ちなみにここにも、ほら」


 ミィはそう言って柔らかい物腰(比喩表現じゃない方)をぐにゃりと屈ませ、ロングスカートの裾を摘んで大胆に捲り上げた。


「わぁえっち! えっちなのはいけないと思います!」


 なんでロングスカートの中にまでナイフ仕込んでいるんですかね!?

 んでやっぱりガーターベルトに黒タイツなんですね!


 ダメだと思います! 良いか悪いかで言えば最高にえっちだと思います!


【良いか悪いかで言って下さい】

 

 えっちです!


「姫の可愛さにてられた愚かで汚らしい野獣どもには、これぐらいサービスしてやらないとそう簡単にはおびき寄せられないから……にゃあ?」


 あざとらしく語尾に『にゃあ』を付けてミィはニヤリと笑う。


 いや。オレみたいなちんちくりんより、絶対ミィとかヨゥみたいな綺麗でえっちなお姉さんの方が受けが良いと思うんだけど。


 この身体がどんなに美少女───最近自分の事を美少女っていうの、ちょっと嫌になってきたな───だろうと、より熟れてたわわに実った大人の二人の色香には勝てないって。


 そもそもこの身体に欲情するのはマジモンのロリ&コンだよ。

 そりゃ外界は広いから少なからず居るとは思うけど、そんな大量には居ないって。


 ねぇイド?


【そうだと、良いのですが】


 ……え?

 あの、イドさん?


 なんでそんな歯切れが悪いんですかね?

 いつもみたいにビシィって断言して欲しいんですが?


【いえ、ここ最近の姫が見せる乙女の進行具合を観測するに、イドにも若干の不確定要素と不安要要素がですね】


 ……マジ?


【はい、マジです。姫は自覚が無いと思われますが、以前より明らかに姫は『女の子』をされております】


 ふぇっ!? そ、そんな事無いでしょ!? 

 だってまだオレ、心は歴とした男の子──────。


「姫、さっきからなんでそんな百面相してるの?」


 心の内面でイドと話しているうちに、昂りすぎて顔に出ていたようだ。

 ミィが不安そうにオレの顔を覗き込んでくる。


 そ、そうだ!


「──────さ、3号の教育のせいだぁ! 3号がいつも口煩くオレを叱るから、オレどんどん立派な女の子に!」


「え、えっと。それはとても喜ばしい事だわ? 嬉しい事よ?」


「う、うれしくなんか──────」


『ミィー! ひーめー! 最終ミーティングはーじめるよー!』


「今行くわー。ほら姫、呼んでる呼んでる」


 あっ、待って!

 まだ話は終わって! 手を引っ張らないで!

 ああやっぱりまだ3号に力で勝てない!


 いったんストップ! タンマ! ジャスタモーメントプリーズ!


 お願いだから!


 はーなーしーをーきーいーてー!!

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