第42話 白銀の世界→姫とかなり可哀想なおじさん達①


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『んじゃ、転移扉ポータルの接続と開放のプロセスに移行するにゃあ』


 拡声器スピーカーを通して聞こえてくる2号の声を聞きながら、オレとヨゥ、そしてミィの三人は転移扉部屋ポータルルームの中央にある、小さなガラス張りのドーム状の装置の中に立っていた。


『ミィ、現在転移先の天候は大陸規模で大荒れにゃ。転移と同時に熱と気流の結界を忘れずに展開するにゃあ?』


「分かってるわ」


『ヨゥは姫を最初から抱えていた方がいいにゃ。風速も結構強いからにゃ』


「おっと、んじゃあお姫様。抱っこの時間だ」


「あ、うん。お願いします」


 差し出されたヨゥの腕が、脇を通って背中を支える。

 そのままグイっと軽々と持ち上げられて、オレのベルトとヨゥの胸当てのアタッチメントがガチャリと音を立てて噛み合った。


 オレの今の体勢はヨゥの首に手を回して左腕に座っている状態で、人一人抱えているはずなのにヨゥは重さなど微塵も感じて無いかのように余裕の表情を浮かべている。


『転移先の軌道軸と地理情報を同期……ん。俺っちの魔導板モニターにはなんのエラーも出てないにゃ』


『了解にゃ。じゃあ、魔導炉の出力を一時的に上昇させるにゃ』


『魔導炉稼働率40%に到達。放熱、放魔力共に正常値の範囲にゃ。転移扉ポータル起動……亜空間接続を開始にゃ』


『接続を確認。時空嵐は観測されにゃいにゃ。プロセスを次段階へと移行。転移扉ポータルの出口側を先に開くにゃあ?』


『位相修正、空間軸固定。魔力杭マナ・アンカーを亜空間へ射出……反応返ってきたにゃあ』


『詳細修正……魔力杭マナ・アンカーより魔術式を展開開始……確認。出口が開いたにゃ。接続を最終プロセスに移行するにゃ』


『転移術式最大稼働、正常展開にゃ。問題にゃし』


『空間湾曲、さらに接続──────転移扉ポータル開放開始。三人とも、今から耐衝撃体勢にゃ。カウントは30はから始めるにゃ。30──29──……』


 拡声器スピーカーの向こうでは1号と2号が何やら小難しい言葉で淡々と作業を進めて行く。


 なんかかっこいいなぁあのやりとり、オレもやってみたい。


 さて、突然耐衝撃体勢って言われても。


 どうしていいかわからないから、とにかくヨゥの首に回していた腕に力を込める。

 強く締めすぎて苦しく無いかな、と思ってヨゥの顔を見ると、平気そうにニカっと笑った。


 オレのお尻に添えられたヨゥの手が、『大丈夫。安心しな』と無言のアピールかの如くしっかりと尻肉を掴んだ。


 どさくさに紛れてセクハラするのやめて下さい。


 突然背中に重みを感じて振り向くと、ミィが何かを察したらしくその身体をオレたちに密着させていた。


 あ、あのミィさん?

 しがみつくならヨゥさんにしてくれませんか?

 オレのちっこい身体に抱きついてくる意味、あんまり無いですよね?


 あとその右手。さりげなくオレの胸に当ててるその右手。

 やんわりモミモミするのほんとやめて。ゾワってするから。


 もう一度言うけど、どさくさに紛れてセクハラするのやめて下さい。

 やめて!

 二人して嬉しそうにニヤニヤしやがって、くそう。


 確かにオレは今びびってましたよ?

 

 1号と2号の声色がいつもより9割増ぐらいで物々しいし、初めての転移だから何もわかんなくて心臓バックバクしてましたけど?


 それを察して励ましてくれるのはありがたいんですが、アプローチの仕方間違ってませんか?


『──────3、2、1。来るにゃ』


「うわっ!!」


 拡声器スピーカーから聞こえた2号の声と全く同時に、オレたちの身体に強い衝撃が襲ってきた。


 空間を揺らす波。

 逆巻く空気とビリビリと振動する魔力マナ


 一塊の壁の様な風に煽られて、オレの身体が後ろへと強く跳ね飛ばされた。

 それを支えてくれるヨゥの胸と、遮る様に立ちはだかってくれたミィの身体が無かったら吹き飛ばされて壁に激突してたかも知れない。


 突然の衝撃に驚いてギュッと目を閉じ、ヨゥの首元により強くしがみ付いてしまった。


 俄然吹き荒れる風になんとか耐えながら、オレは薄目を開いて正面を見る。


 そこにあるのは、大きなシャボン玉の様な光沢のある真っ白な楕円。


 フチは黒く激しい稲妻の様な発光に覆われているけれど、その中心に向かうにつれく白くなっている。


転移扉ポータルの開放を確認。異常はなしにゃあ』


 風の音で聞こえづらくなっている2号の声が拡声器スピーカーから流れる。


『んじゃあ姫、気をつけて行ってくるも?』


『ヨゥ、ミィ。姫を頼んだにゃあ?』


『僕らもこっちでずっとモニターはしているし、連絡も常に取れる様にしているにゃあ? 何も心配せず、外界を思いっきり楽しんでくるといいにゃあ』


 猫たちが代わる代わる見送りのコメントをしてくれた。


 ヨゥの肩越しに、転移扉ポータルを操作しているコンソールに居る猫たちの姿を見る。


 ドームのガラスの向こう側。


 自分たちの身体より大きな椅子に座って並んでいる1号と2号、その後ろででっぷりと立って手を振っている5号。


 その表情はにこやかで、驚くべき事にあの無愛想な1号まで優しく微笑んでいた。


「行ってきます!」


 オレも負けじと右手を上げて振り返す。


「さぁ、姫。準備は良いかい?」


「楽しい旅行にしましょうね?」


 耳元で優しくささやくヨゥとミィの声に、小さく頷く事で返事とする。


 ヨゥの頼もしい胸の中、ミィにしっかりと支えられてオレたちは転移扉ポータルへとゆっくり歩き出す。


 そしてすぐ目の前まで迫った真っ白い楕円の表面。


 どこかに繋がっている様な感じは今のところしないけれど、きっとこの先に見たことの無い景色が広がっているはず。


 本音を言えばかなり怖い。

 だけどきっと、何があっても大丈夫だってオレは信じている。


 猫たちが見てくれている。

 ヨゥが守ってくれる。

 ミィが構ってくれる。


 そして、イドがずっと一緒に居てくれるから──────。


【ええ、イドは常に姫と共に。貴女を必ず護り抜いて見せます】


 うん。お願いします。


【はい。お願いされました】


「んじゃあ!」


「行くわよ!」


「──────うん!」


 オレたち三人は息を合わせて、新たな世界への扉へと飛び込んだ。

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