第26話 よく学べ!→よく遊べ!③


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「やっぱりだぁああああっ!!」


 オレは両手で体を隠してうずくまる。

 恥ずかしすぎて顔が熱い! 多分真っ赤っか!


「さ、3号! 3号さん! これ、ダメ! これ! 3号!!!」


 バタバタと右手を伸ばして、3号が意地悪して持たせてくれないタオルのような布を求める。


 早くそれを渡すんだ! 手遅れになるぞ!


「姫、なんでにゃ! とっても可愛いにゃ! ふんすふんす!」


「そうにぃ? 恥ずかしがることなんかないにぃ?」


 静かな湖畔の森の影、誰もいないとは分かっていても大っぴらに開けたところで着替えるのを嫌がったオレのために作られた、カーテン式の更衣室。


 猫たち二匹は微笑ましいものを見るような優しい表情でオレをまじまじと見ている。


「だ、だって! おへそ! おへそ丸出し!」


「それが可愛いにゃあ! 姫の真っ白いお腹がとってもプリチーにゃあ!?」


「あとちっさいの! とってもちっさいの! 主に下が!」


 股上何センチなんだよこれ! お尻の少し上までしか無いじゃん!


「動き回るんだから、ちょっとぐらい窮屈でもそんぐらいしっかりしてた方が逆に安心にぃ?」


 で、でも! なんでよりにもよって上と下がセパレートしてるんだよぉ!

 もっと良い方法あったでしょう! 競泳水着っぽいのとか! 全身タイツみたいなのとか! 短パンみたいなヤツとか! あるでしょう!?


「にゃあ! 3号は姫の可愛さを際立たせるデザインと快適性と実用性、どっちも追求するのがモットーにゃあ! 可愛いにゃあ! とってもとっても可愛いにゃあ!!」


 興奮してふんすふんすと鼻息を荒くする3号が、謎の小さな板状の機械を片手にオレ目掛けてボタンを連打している。

 アングルだったり光源だったりを気にしているってことは!

 それカメラ的なヤツだろ!


 写真撮るのをやめろぉ!


「ううぅうううううっ」


 あんまりにも恥ずかしいから、ちょっと泣きそうになってきた。

 着替える時についでにと変えられた髪型──────長いツインテールがぴょこぴょこと揺れる。


 ちょこちょこと足の指だけで移動し、木の影に隠れる。


「あっ、姫! 大丈夫にゃ! 怖くにゃいにゃあ! さぁ、出てくるにゃあ?」


「ふっ、ふかーっ!」


「だめにぃ? あまりにも恥ずかしすぎて何故か猫化してるにぃ? ほーら、こっちおいでにぃ?」


「姫ぇ〜? せっかくの可愛い姿にゃあ? ちゃんと記録に残しておくにゃあ? ちなみに恥ずかしがってる方が可愛いの分かっててやってるにゃあ?」


「さ、3号の馬鹿ぁ!」


 う、ううううう。


 一度両手を広げて、自分の姿を再確認してみる。

 水着の上部分は、首周りだけストラップがあった三角形で胸を覆うタイプ。

 脇の下や肩は完全に露出していて、背中も同じ感じ。


 左右に分割してないだけまだマシだけど、それにしてもこのパステルっぽいピンクが本当に前世の女児向けの水着っぽくて、オレに残った男の子としてのプライドを深く抉っている。


 下が──────下が本当にダメだ。

 ローライズってヤツだ。

 腰より下ってヤツだ!


 小さすぎるんだよ! マジで!


【姫、イドはそのお姿とても可愛らしいと思います】


 か、可愛いのは! 知ってる!


 すっごい知ってる!


 これは別に自画自賛とか、ナルシストとかそう言う話じゃない!


 オレは今の自分の容姿を客観的に見てる。

 そりゃそうだ。この身体はこの『魂』が本来持っていた姿じゃない。

 毎日鏡を見る度に、『これが自分の姿じゃなかったら、素直に愛でられるんだけどなぁ』って複雑な気持ちになっている!


 だから可愛いのは否定しない!

 前世とこっちの可愛いの価値観が同じなら、ラァラ姫の容姿はロリコンホイホイで事案が多発するレベルだ!


 銀髪幼女とかアニメかよ!


 だけどやっぱり、実際にラァラとして振舞うと他人事じゃなくなるんだよ!


【肉体と精神の同期が進んでいる証拠です。自我がその身体に定着し始めているんです】


 ごめんイド! 今はそんな難しい話じゃない!


「姫ぇ? 恥ずかしいのは察するけど、やることいっぱいあるにぃ? そろそろ覚悟して貰わにゃいと屋敷に帰るのに日が暮れちゃうにぃ?」


「そうにゃそうにゃ! お昼ご飯も冷めちゃうにゃあ? 今日はローストチキンと卵のサンドイッチにゃあ。5号が一昨日から仕込んでいた自信作らしいにゃあ?」


 う、うう……。

 なんだかオレが駄々を捏ねているみたいな空気じゃんかぁ。

 悪いのオレみたいな空気じゃんかぁ!


 一番悪いのはこんなデザインの水着持ってきて、無理やり羽交い締めにして着替えさせた猫二匹なんだぞ!

 オレの抵抗とかガン無視だったじゃん!


【姫、諦めることを推奨します。今の姫の身体能力ではあの二匹に抵抗しても無意味です】


 イド!?

 イドまでアイツらの肩を持つの!?


 み、味方が居ない!


「アタシらの他に誰もいないにぃ? 慣れちゃうとどうってこと無いにぃ」


「そうにゃあ? 他に人がいるなら、私だってそんな蠱惑的な水着用意しないにゃあ。もっと清楚でお上品なヤツにするにゃあ」


「こ、こわくてき!? 3号、これが大胆すぎる水着だって知ってて持ってきたなぁ!?」


 確信犯じゃん! 計画的犯行じゃん!

 ギルティだよ! 有罪だ有罪!


「ふーむ。これじゃあ本当に日が暮れちゃうにぃ? 3号は後ろから『束縛バインド』で。アタシは前から速攻をかけるにぃ?」


「任されたにゃあ」


 え?

 ま、待って?


 な、何する気?


「覚悟を決めるにぃ?」


「大丈夫にゃあ? 痛くしないにゃあ?」


 ちょ、ちょっと?

 何そのウネウネ!?

 え!?

 

 オレがこの世界で始めてみる魔法、そんなエロいヤツなの!?

 酷くない!?


【捕縛を目的としてた初級魔法です。もっとも3号ほどの使い手なら低級のドラゴン程度なら苦もなく捕まえてしまいますから、アレはもう初級の域から逸脱しております。決して性的なモノではございませんのでご安心を】


 違う! そう言う真面目な感じをオレは求めていない!


 あ、まって!

 分かった!

 分かったから!

 ちゃんと心の準備ができたら自分で出てくるから!


「待っ──────うわぁあああああ! きゃあっ!」


 きゃあとか言っちゃた! 言っちゃった!

 

 た、助けて! 乱暴される!


【攻撃性のある魔法ではございません】


 だから真面目か!

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