第25話 よく学べ!→よく遊べ!②


「姫、その服の着心地はどうにゃあ?」


「ん? う、うん。快適だよ?」


「良かったにゃあ♡ 頑張って作った甲斐があったにゃあ♡」


 るんるんとバスケットを抱えながら、3号がもはやスキップと似た足取りで軽やかに歩く。


 オレはバレない様にスカートの裾を摘んで、少しだけめくって中を確かめる。


 今回のピクニックにあたって、3号が用意してくれたこの外着。

 確かに着心地は良い。サラサラした手触りと、余裕のある腕まわり。

 通気性も抜群で、今のところこの陽気なのに汗一つかいていない。

 だからあの感想は嘘では無い。


 ただ言い出しづらい文句が一つあるのだ。


 外見はこの際目を瞑るとしてだ。

 『運動するから汚れても良い様な格好』っていうのが、オレの体育の先生である4号のリクエストだ。

 だけど3号が渡してきたこの服。

 そのデザインからして運動向きとは思えない。

 要所要所に施された赤と銀のラインと多めにふりふりしたフリル、少しめくっちゃえば下着がすぐ見え隠れしちゃう丈の短さ。

 この世界の服のことを全く知らないオレでもわかる。

 これ、派手すぎる奴。


 派手と言っても色が多いとか、デザインが大袈裟とかって意味じゃない。


 大胆なのだ。恥ずかしいのだ。


 なんで背中をこんな丸見えにしちゃったの?

 前部分と比較しても背中の布少なすぎない!?

 ちょっと指をかけて下にひっぱたら、お尻が見えちゃうと思うんだこれ!


 しかもなんで今日に限って、髪を一本に纏めてポニーテールみたいにしちゃったの?


 背中隠せないんだけど!?


 猫たちしか居ないからなんとか我慢できるけど、もし他に人が居たらオレ部屋から出てこれないよこれ……。


 あと、絶対今のオレにブラは要らないと思うんだ!

 だって何も盛り上がって無い! いや、実際はちょっとだけ膨らんでるけど、絶対ブラするほどじゃ無い!

 確かに前世でちらりと見たことのある幼児用スポブラみたいな奴だったけど!

 胸部に感じる僅かな締め付けに違和感すごくてちょっと落ち着かないんだよ!


 とは、テンチョン爆上げで嬉しそうにオレを着せ替え人形にしてた3号には絶対に言えなかった。


「アタシが用意したブーツはどうにぃ? 靴擦れしてたりしないかにぃ?」


「あ、これ。4号これ凄いよ! こんなに分厚くてしっかりしてるのに全然重くないし、全然窮屈じゃない! しかも足にぴったり!」


 そうそう。このブーツが凄いんだ。

 向こう脛ぐらいまである、なんかベルトとか金具とかステッチとかでゴテゴテした、いかにも『歩くぞ!』『走るぞ!』『守るぞ!』って感じのブーツ。


 ピクニックの予定が決まってから3号に採寸して貰って4号が作ったらしいんだけど、4日ぐらいしか作業時間無かったのにクオリティが半端なく高い。

 ソールも分厚く、裸足より目線が高いのに、それを感じさせないぐらい着心地が良い。


 何より、ブーツなのに全蒸れない! 結構歩いているのに、すっごい蒸れない!


「素材から厳選して作ったからにぃ。姫が大きくなったらまた調整するから、何か違和感を感じたらすぐアタシに言うにぃ?」


「うん! ありがとう4号!」


 やっぱ元男の子として、こう言うデザインの靴は好きだ。

 普通に嬉しかったりする。


 4号は猫たちの中でも戦闘に特化した猫だけど、その他にも防具や武器の作成・彫金や鍛冶の技術も持っているらしい。

 この間4号の部屋に遊びに行ったら、金床とか溶鉱炉とかが設置されているどう見ても作業場みたいな部屋でびっくりした。

 あの部屋のどこで寝てるんだろう……ていうか、部屋の中が暑すぎてとてもじゃないけど休めないと思う……。


「むぅ……にゃんか私がお召し物を渡した時より喜んでる気がするにゃあ?」


「そ、そんなことないよ! 3号が作った服、オレ大好きだよ!」


 反目でジロリと睨みつけられて、オレは慌てて取り繕う。

 オレの私室のクローゼットの中にある服の数。

 あの数を見て察しない人は居ないだろう。

 3号は長い間、オレに着てもらう事を楽しみにしてあれだけの服を作り続けていたのだ。

 その想いを無下にするほど、オレは酷い奴じゃ無い。


 ただ、3号の作る服って……ちょっと露出が高めな気がするんだよね……。


「それは良かったにゃあ! 今日は泳ぐかも知れないから、ちゃんと水着も用意してあるにゃあ! ふんす! 3号はどんな時でも姫のご要望にお応えできる有能なメイド猫にゃあ!」


 え?


「み、みずぎ?」


「ん? そうにゃ? だって今から湖に行くにゃあ?」


 何言ってんだこの姫、みたいな表情で3号がこてんと可愛らしく首を傾げた。


「お、泳ぐの?」


 そう問いかけると、先を行く4号が『あ、いっけね』みたいな顔で前足をポンと鳴らした。


「泳ぐって言うか、水の中でいろいろ試したい事があるって1号と2号に頼まれているにぃ。確かに水着の方がやりやすいにぃ。失念してたにぃアタシ」


 き、聞いてないよオレ。


「4号に任せたら、下着だけで水に入らされるところだったにゃあ? 良かったにゃあ姫?」


「う、うん。そ、そうだね3号……はは、あははははは」


 水着……水着かぁ。

 それはもちろん、女児用のなんだろうなぁ。


 なんか、嫌な予感がするぞ?

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