第17話 剣の猫→メイドの猫②


 「うぅ……」


 スプラッタ映画のワンシーンみたいな光景が広がる庭の真ん中で、オレと4号がたたずんでいる。

 血でびしょびしょに濡れた芝生は足の踏み場も無く、裸足のまま外に飛び出してしまったせいでオレは一歩も動けない。

 

「3号はどうしたにぃ?」


 そんなオレの姿にお構いなく、4号は血で濡れた剣をマントで拭いて平然とそんなことを聞いてきた。


「わ、わからない。ね、てた……から」


「んー? 姫はずいぶんお寝坊にぃ? もうそろそろお昼にぃ」


「にどね……、しちゃった」


「ああ、にゃるほど」


 なんだか1匹で勝手に納得して、4号は飛散してぐちゃぐちゃな鳥たちの死骸にその右手の肉球をかざした。


「今の時間だと、3号は洗濯かにぃ? 今日の予定は聞いてるにぃ?」


 待って。


「よ、よんごう。いま、なにをしたの?」


 あっという間に、鳥達の死骸が消えた。

 その血の一滴、肉片の一欠片も残さず、パッと消えた。


 庭の芝生は青々とした綺麗な状態に元どおり。

 ちょっと鼻にツンと来ていた、匂いすら残っていない。


「にぃ? 鶏肉を倉庫に移しただけにぃ?」


「そ、そうこ?」


「にぃ。アタシ達、人工猫妖精ケット・シー叡智の部屋ラボラトリにある各倉庫への転移アクセス権限パスが割り振られているにぃ。猫によってどの倉庫を使って良いかは違うけど、アタシは食料庫と武器・防具倉庫。それと素材倉庫への転移鍵ゲートキーを持っているにぃ」


「どこにいても、そうこにいれられるの?」


 何それ、すごい便利。


「そうにぃ? 例外として1号だけは全倉庫と魔導炉機関部、そして禁庫にアクセスできるにぃ」


「きん……こ? おかねいれるところ?」


「違う違う。禁庫にぃ。えっと、触ると危ない物を入れてりところだにぃ? 今の姫には関係ないにぃ」


「いちごうだけが、はいれる?」


「そうにぃ。アイツはアタシらのまとめ役。一番初めに造られた猫だからにぃ」


 やっぱり1号は、猫たちのリーダーなのか。

 あの振る舞いや指示の出し方とか、そうじゃ無いかと思っていたんだ。


「それで姫、今日の予定は知っているにぃ?」


 あ、ああ。そうだった。

 えっと、その1号が確か朝に何かを言っていた気がする。

 なんだっけ。


叡智の部屋ラボラトリの施設巡回と各設備の説明が予定されております。本来はもっと後、姫の知識データが完全に構築・稼働してからのスケジュールでしたが、現時点で姫は問題なく思考・行動できておりますので、1号の判断で予定を前倒ししたのです】


 あ、ありがとうイド。

 さっきまでのショッキングな光景と倉庫の件でちょっと混乱してたみたいだ。


【その為のシステム・イドです】


 助かるよ。これからもよろしく。


【ええ、任せてください】


「えっと、ラボラトリを、あんないしてくれるって」


 イドに教えてもらったことを4号に伝える。


「お? 予定とずいぶん違うにぃ? んじゃあ、3号の代わりにアタシが一緒に回ってあげるにぃ」


「いいの?」


 なんか3号、あとで怒りそうな気がするけど。

 一緒に行きたいって。


「どうせやる事なくて暇してたにぃ。3号は途中で迎えに行くにぃ。どうせ中庭にいるからにぃ」


 長い剣を背中の鞘に入れ直して、4号はオレの手をとって屋敷へと歩き始める。

 3号とは違う肉球の感覚。


 ふと4号のマントを見ると、鳥の血で汚れた剣を拭いたはずなのに、今じゃその跡すら残っていない。

 ボロボロだけどしっかりとした生地の、白地がちょっと汚れたただのマントだ。


 これも魔法なのだろうか。


 うーむ、不思議なことばっかだなぁ。


 なんとなく、4号と繋いていない方の左手で自分の髪の毛を摘んで毛先をくるくると回してみる。


 横目でちらりと4号の顔を見る。

 左側に立って見上げているから、オレから見える目は眼帯に隠されている方の目だ。


 なんで、4号だけ眼帯しているんだろう。

 聞いてみて、良いのかな?

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