第18話 剣の猫→メイドの猫③
「よ、よんごうまって……あ、あるくの、はやい」
ぜぇ、ぜぇ……。
4号よりオレの方が歩幅大きいのに、ついていくので精一杯なんだけど!?
「んー? そうかにぃ?」
長い廊下をもう20分ぐらい、4号と手を繋いだまま歩いている。
朝に歩いた距離より二倍も歩けば、この未成熟な身体じゃ耐えきれないに決まっているじゃん!
「うーん、今の姫の体力と身体能力がどんぐらいか、アタシには分からないにぃ。予定が前倒しされたって聞いてちょっと期待したけれど、戦闘訓練はやっぱりまだまだ始められないみたいにぃ」
残念そうに眉を落として、4号は汗ばんだオレの顔をマントで拭う。
オレは膝に片手をついて、大きく深呼吸をして息を整える。
喉、喉乾いた……。お水飲みたい。
今度はキンッキンに冷えたお水、飲みたい……!
「よ、よんごう。おみずとか、もってない?」
「水ぅ? ああ、水筒はあるけどもう空にぃ」
何も持ってなかったはずの4号の右前足に突然現れた水筒。
カラカラと振って見せるが、水の音は全然聞こえない。
「ぐぅ、ざんねん」
5号のところに取りに行こうにも、今居る廊下はダイニング方向とは逆方向。
ここからお水を貰いに行くとしたら、着くまでに干からびそう……。
「あああぁああああ!!!! な、何やってるにゃあ!?」
ん? この声は。
広い廊下に大きく響き渡った声に首を動かして、声の主を探す。
オレたちが歩いてきた方、ここから三つ目の扉の前で、身体より大きな籠を抱えたメイドさんが口を大きく開けてこっちを見ていた。
3号だ。
「よ、4号!? なんで姫を連れているにゃあ!?」
籠を廊下の隅っこに荒々しく投げて、3号がエプロンドレスで前足を拭きながら駆け寄ってくる。
「ヒマだったから
「姫の体力を考えて今日は近場だけで済ますつもりだったにゃ! こんな遠いところまで連れてくるなんて何を考えてるにゃあ!?」
オレたちの元に辿り着いた3号が、4号から無理やりオレの手を奪い取った。
あう、ちょっと痛かった……。3号も結構強引だ。
「ま、魔導炉を案内するつもりだったにぃ。
ゼパル?
あ、そういや確か──────。
【はい、ゼパルは自身の身体を魔石へと変換錬成し、魔導炉を半永久的に稼働させる為の動力源として機関部中央へと組み込まれています】
そうだよね。
イドが見せてくれた、ゼパルの遺言動画でそんな事言ってたよね……。
見てみたい──────いや、できるだけ早く見ておかないといけない……気がする。
「魔導炉の機関室なんてここからどんだけ遠いと思っているにゃ!? 朝10分お散歩しただけで疲れて眠っちゃう姫には無理にゃあ!」
違うよ!
疲れて眠ったんじゃなくて、疲れたところに温かくて甘いお水とスープでポカポカしちゃって、その上で満腹になったから眠くなっただけだよ!
【姫、何を取り繕ったのか分かりませんが、同じ意味です】
ぐっ、ただ疲れて眠ったってだけじゃなんかこう、プライド的なものが!
今は違うけど、元男としてなんかこう!
わかんないかなぁ!
「ご、ごめんにぃ。にははは」
もの凄いおこな3号に対して、4号は笑って誤魔化す作戦に出たようだ。
「もう、もう! さぁ姫、戻るにゃあ? あ、まだお着替えも終わってないにゃ! 寝巻きのまんまにゃ!」
そんな4号の態度に呆れたのか、3号はぷりぷりと怒ったままオレの手を引っ張って元来た廊下を戻ろうとする。
「あ、、ま、まって。さんごうぅうう」
オレはとっさに足を踏ん張って3号を引き止めようとしたが、完全に力負けしてズルズルと引きずられてしまった。
お、おおお。全然止められない!
くぅ! 負けるもんかぁああ!
「さ、さんごっ。まっ、まって!」
オレの手首を掴む3号の前足を両手で握って、身体を目一杯反らして引っ張る。
それでようやく3号はオレが抵抗している事に気付いたようだ。
ここまでしてやっととか、どんだけ非力なんだオレ……。
「にゃあ? どうしたにゃあ? 屋敷の案内はお部屋に戻って顔も洗って、髪も綺麗に整えてからでも良いにゃあ? 庭園とか綺麗だにゃあ? 3号が頑張って手入れしてるにゃ。お庭の滝はとても大きくて見どころにゃ」
滝!?
この屋敷って滝まであるの!?
そ、それはそれで楽しそうだけど!
「ま、まどうろ……みてみたいなぁ、なんて」
せっかくここまで来たんだし、ね?
もう一度同じ道を戻るのも億劫だし、ほら。
「…………どうしてもにゃあ?」
「う、うん、とっても、みたい」
お願い!
3号の前足を両方手に取って、
「──────はぁ。わかったにゃあ。姫がそこまで興味を持ったのならそれはそれで喜ばしい事にゃ。魔導機械は生前の
ふんす、と鼻を鳴らして3号は諦めたかのように肩を落とした。
「あ、ありがとうさんごう」
「疲れたらちゃんと言うにゃあ? 1号や2号が想定していたより姫が元気だからって、まだ無理をしていい状態じゃにゃいのは見ててわかるにゃ」
「う、うん」
素直に頷く。
心配してくれているのだ。それを押してわがままを言っているのはオレ。
ちょっと罪悪感で胸が痛い。
「ほら、まずは息を整えてお水を飲むにゃあ? 汗もちゃんと拭くにゃ」
「わぷっ」
また突然現れた布で顔をゴシゴシと拭かれる。
そのまま服の中にまで布を突っ込まれて首や背中、腕や脇まで一通りされるがままに拭かれた後、3号は布をオレに渡して今度は水差しとコップを取り出した。
そっか、この唐突に現れる布とかコップとかは、さっき4号が教えてくれた『倉庫』から取り出しているんだ。
「にははは、3号は過保護だにぃ」
「4号は姫の扱いにもっと気を配るにゃあ! 今は目覚めたばかりで大事を取る時期にゃ! 笑ってないで手伝うにゃ!」
「ご、ごごご、ごめんにぃ!」
怒られた4号が慌てて3号から水差しとコップを受け取り水を注ぐ。
「本当にもう! 本当に!」
ぷんぷんしたまま3号は『倉庫』から何枚かの服を取り出した。
真っ白い肩出しの、丈が短いワンピース……。
え、オレがあれ着るの?
まだちょっと抵抗あるよ?
この寝巻きはまだ裾が長いから良いけど、そのワンピースは短すぎない?
とはいえ、今の3号に何か言えるほどオレはまだ気が据わっていない。
「──────猫たちの中で一番口煩いのが3号にぃ。怒らせると長いから気をつけるにぃ?」
オレに水の入ったコップを渡しながら、4号が耳元でそう教えてくれた。
なるほど。なんとなく分かる。
「何か言ったにゃ!?」
「な、なんでも無いにぃ! ねぇ姫!?」
「う、うん。なんでもない、よ?」
オレと4号はお互いの顔を見合わせて、ちょっぴり笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます