【学びの季節、育みの年】
第12話 叡智の部屋→貴女の為の世界①
「姫! もう一度にゃ!」
ズレ落ちたメガネを何度も何度も必死に直しながら、白衣を着た三毛猫がオレに詰め寄ってくる。
「お、おは……よう。に、ごう?」
若干詰まりながらも求められるがままにオレはもう一度朝の挨拶をする。
何度目だコレ。もう良いんじゃない?
「し、信じられにゃいにゃ……まだ移行したデータが脳の内部で順番に構築されてる段階のはずにゃ。完全に僕の言葉を理解してるし、言語として言葉も扱えてるにゃ」
大きく目を見開いて、2号は手元に持つ薄型液晶タブレットっぽい板とオレを交互に見やった。
「だから何度も言ってるにゃ! 姫は私達が予想していた以上の天才だったにゃ!」
ふんす! と鼻息荒く小さな胸を反らせながら、3号がまるで我が事の様にドヤっている。
黒を基調としたロングスカートにホワイトプリム。
襟まで丁寧にアイロンが掛けられた長袖のシャツ。
小さいけれど精密な造りのローファー。
どこからどう見てもメイドさんな3号は、今のオレの身長の半分ぐらいの大きさしかない。
艶のある綺麗な黒毛は手触り抜群で、ピスピスと動くお鼻がとっても可愛いこの黒猫は朝からとっても上機嫌だ。
「そ、そんな事あり得ないにゃ!
「に、にごう……お、おち、おちつ、いて」
バタバタと研究室の中を忙しなく駆け回りながら資料とモニターに映るデータを見比べる2号の姿があまりにも必死すぎて、思わず声を掛けてしまった。
「姫、こっちを見るにゃ」
くいっとドレスの裾を引かれた。
「俺っちの手にある棒を見るにゃ。何本に見える?」
そこに居たのは、大きなレンチを肩に担いだ左目に大きなブチのある白猫──────1号だ。
鋭い目つきでオレを見上げて、右手に何やら長くて細い棒を持っている。
どうやって握ってるのそれ。
猫の短い指じゃ握れなくない?
「い、いっ……ぽん」
「にゃあ。じゃあ、今度は?」
うわ、急に本数が増えた!?
どこからどうやって出したんだ!?
「よん……ほん」
知らない間に増えた棒の数を告げる。数えるまでもなく、見たまんま4本。
「ふむ。とりあえず視覚には異常は無いみたいにゃ。んじゃ、コレ読めるにゃ?」
またしても棒があっという間に消えて、代わりにページが開かれた薄めの本が現れた。
だからどうやって持ってんのさその本。
「お、おおきな……おそら……に、にじが、かかって……います?」
見開きに大きく描かれた絵に添えられていた文字を読む。
日本語ではないけれど、スラスラと読めてしまった。
なんだろう。絵本かな?
男の子と女の子が空を指差して笑っている。それにしても下手……いや、独特な絵だなぁ。
前世で言ってた現代アートってこういう絵のことだったのかな。
「ん。虹ってなんのことか分かるかにゃ?」
「そらに、かかる。アレのこ……と?」
「にゃあ………知識データは正常に機能してる様だにゃ。とりあえず心身ともに大した問題は無さそうにゃ。2号、原因はおいおい調べるとしてまずは姫のこれからを決めにゃいといけにゃいにゃあ」
「にゃ、だ、だけどこんなのありえ──────」
「実際にこうして姫は喋ってるし、会話もできてるにゃ。お前はすぐ冷静さを失う所が駄目にゃ所にゃ。もうちょっと冷静になるにゃ」
「──────にゃ、にゃあ」
1号にやんわりと叱られたっぽい2号が、ガックリと肩を落とした。
なんだか放っておけず、その頭を撫でる。
「げ、げん、き。だし……て」
「ひ、姫ぇ。ぐすっ」
うるうると潤った瞳でオレを見上げて、2号はずずっと鼻を鳴らした。
「にゃむ。姫、声が出しづらいにゃあ?」
「う、うん。イガイガ……して、いたい」
「純エーテルが肺から排出されるときに喉に炎症が起きたかもしれにゃいにゃ。2号、昼までに喉薬の調合レシピを書いておくにゃ。3号はそれを5号に渡して作らせるにゃ」
「わかったにゃ」
1号がとても冷静でびっくり。
その愛らしい猫の姿からは想像もつかないほどテキパキしてる。
なんとなくだけど、もしかして
なんかさっきからリーダーっぽいし。
「他に痛い所はあるにゃ?」
「だ、だいじょ、うぶ」
「よし、じゃあ今日はあんまりはしゃがないで良い子にしてるにゃ。とりあえず予定通り食事訓練にゃ。3号、姫をダイニングに案内するにゃ。予定を前倒しして『
「わかったにゃ。さぁ姫。朝ごはんにゃあ? 5号の所に行くにゃ!」
「ん、わかっ……た」
上機嫌な3号に連れられて研究室を出る。
「ひ、姫。僕、さっきは取り乱してごめんにゃあ……」
申し訳なさそうな顔でオレを見送る2号に、『大丈夫だよ』って意味を込めてひらひらと手を振った。
できるだけ平気そうな笑顔、できてたかなぁ?
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