三姉妹と三王子と学園祭3
サヨちゃんと一緒に周るノアと別れて、私とリアム様は二人で学園祭を巡っていたところ、あるお店が目に入った。
「貸衣装屋?」
模擬店の前に立っている看板の文字を思わず声に出して読むと、私の呟きに気づいた店員らしき女の子が声をかけてきた。
「はい!こちらでお貸しした衣装を着て、一日学園祭を楽しんで頂けます!ぜひ!」
女の子の言葉に返事をしながら、入り口から少し覗くと、色とりどりの衣装が壁に沿うように並べられていた。
中央にはマネキンが立てられていて、見たことない形をした衣装も飾られている。
数組の来場客が鏡の前で衣装を合わせたり、衣装に身を包んでソファで談笑したりしていた。
時折園内ですれ違う不思議な格好をした人たちはここで衣装を借りていたのかと納得した。
「へえ、面白そうだね」
同じように部屋を覗いていたリアム様も興味が湧いたようで、「入る?」と聞かれたので、せっかくだからと頷いた。
魔法学園の制服、ドレス、民族衣装が選べたが、制服は在学中に着ていたし、ドレスはいつも着ているので、民族衣装を着ることにした。
「あの…リアム様…?」
先ほどからリアム様が真剣な表情で掛かっている衣装を手にしては、私の体に当てる作業を繰り返している。
よほど集中しているようで、声をかけても視線は合わず、「うーん?」と適当な返事が返ってきた。
「リアム様、ご自分の衣装を選ばれては…?」
「いいんだよ、僕は後から適当に選ぶから」
「でも…」
確かに適当に選んだとて、何でも似合うのだろうけど。
リアム様はよく私に服や装飾品を選んでくれる。
一般的に男の人は女の人の買い物に付き合うのは好きではないと思うのだけど、彼は違うようだ。
私に似合うものは自分が一番分かっていると豪語する彼にもらったものは自分で選んだものよりよく褒められる。
この間旅行先で選んでもらった口紅もあまり自分では選ばない色だったけれど、妹たちや同僚によく似合うと褒めてもらった。
私もそれなりにお洒落に興味があるから少しだけ悔しいのだけど、同時に彼のことを褒めてもらえているようでなんだかくすぐったかった。
今も私のことに真剣になってくれている姿が少し嬉しくて、それ以上は何も言わなかった。
それからしばらくして、リアム様が「これにしよう」と満足げに口にした。
私も彼の衣装を選びたかったのだけど、「隣に並んでもおかしくないものを選ぶから」と衣装を受け取った私の背を奥にある更衣室に向けて強引に押してきたので、仕方なく従うことにした。
「これで合ってるのかな…」と小さな声で呟きながら鏡の前で全身を確認する。
彼が私に手渡した衣装はサリーと呼ばれる東南の方の民族衣装らしい。
身にまとってみたが、正しい着方なのか分からない。
鏡に映る自分を見て、それにしても…と思わず心の中で呟いた。
淡い水色の服は上下でツーピースにわかれていて、上着はオフショルダーになっている。
お腹の部分が少しだけあいていて、下に履いたハイウエストのパンツは絞られた足首の部分に向かって軽い布がふわりと膨らんでいる。
所々には金色の刺繍や装飾が施されていた。
社交の場で肩があいたドレスはよく着るのだが、お腹があいているせいかいつもより恥ずかしく感じて、長い髪をあいた胸元を隠すように下ろす。
お父様に知られたら怒られそうだな…と意味はないのだが、気持ちだけ上着を下げた。
更衣室から出て先ほどの衣装部屋に戻ると、衣装に着替えたリアム様がソファに腰掛け、両手を後ろにつき、足を組んだ姿勢で待っていた。
気だるげに座っているだけなのだがその姿はなぜか絵になっていて、彼の醸し出す艷っぽい雰囲気に周りの女の子たちがぼうっと心を奪われていた。
彼が纏う真っ黒の上着は首までボタンが止められた短い立ち襟で、裾は膝下までストンと落ちている。
片側だけ肩から腰あたりまで金色の刺繍が施されており、その下にはゆったりとした同じ黒のパンツを履いていた。
こちらに気づいたリアム様がふっと目元を緩めた姿に思わず見惚れそうになってしまった。
「おいで」
リアム様の言葉におずおず近づくと座った姿勢で両の手首を掴まれて、「とても可愛いよ」と微笑まれた。
見上げてくる彼の顔に頬が染まるのを感じながら、「リアム様こそとても素敵です」と精一杯返した。
視線を感じてふと周りを見ると、なんだか先ほどよりお客さんが増えているようで、噂を聞きつけたのか入り口にはちょっとした人集りが出来ている。
衣装を着た彼の姿が噂でまわるほど待たせちゃったのかなと申し訳なさを感じていると、「せっかくだから撮ってもらおうか」とリアム様に声をかけられた。
「確かに!」とその名案に声を弾ませて、バッグから魔法具を取り出す。
近くにいた学生に声をかけて、「ここのレンズを私たちに向けて、少しだけ魔力を込めながらここを押してもらえたら…」と魔法具の説明をしてから、立ち上がった彼の隣に並んだ。
魅力的な彼の隣はなんだか居た堪れなくて、少しだけ肩が竦んでしまった。
写真を撮り終えて、そろそろ店を出ようとバックを手に持った時、リアム様が「さあ、着替えようか」と言った。
私は一瞬その言葉が飲み込めながったが、彼女の説明が聞こえなかったのかもしれないと思い直した。
「リアム様、この衣装を着て、学園を周ってもいいそうですよ」
「うん、知ってる」
予想外の返答になおさら意味がわからなくてぽかんとしていると、リアム様は私の胸元におりた長い髪をゆっくり手の甲で後ろに流した。
それから、私の肩を優しく両手で包み、少し身を屈めた。
その様子に驚いている間も無く、リアム様は何もまとっていない私の左肩に口付けを落とすと、少しだけ私に視線を向けてから、耳元で「他の男に見せたくないんだよ」と囁いた。
いつものことながら顔を赤くさせて、声にならない悲鳴を上げている私に「僕は弟と違って素直だからね」と彼がにこりと微笑んだ。
そんなリアム様を見上げて「せっかく着たのに……」と不満げに口にしながらも、私もこれ以上いつもと違う彼を誰かに見られたくないな、なんて考えて、大人しく着替えることにした。
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