第二王子と次女と特等席

 昼食後の昼下がり、夏の陽に照らされるソファで邸宅の書庫から持ってきた本を広げていた。

 隣で丸まっている最近飼い始めた猫の灰色の柔らかい背中を撫でながら、読み進める。



 ゆらゆら揺れる蜃気楼が少し開けた窓から見えて、あまり外に出る気にはなれなかったが、庭からは下二人のけらけらと笑う楽しそうな声が時折聞こえてきた。

 また何かしでかさないといいけどな、と自分の中ではまだ幼い子供のような二人を思い浮かべながら思った。



 しばらく本を読みふけっていると、視線を感じた。

 何気なく、視線の方に首を回してみると、リビングの入り口から顔をのぞかせたサヨが立っていた。


 膝下まである白いリネンのワンピース姿は胸まで下ろした長く艶やかな髪と透き通るような白い肌にとても合っていて、その愛らしい姿に思わず頰が緩むのを感じた。


 忙しいかと尋ねてくる少し不安そうな姿に、安心させるように「おいで」と呼びかけた。



 私が忙しいと思っているサヨはいつも少し遠慮がちに声をかける。

 王都にいるとき、副団長として日々忙しいのは間違いないのだが、サヨと過ごせる時間を無くしてまで仕事をしたいとは思わない。

 遠慮をしてほしくないと思いながら、もしかしたら自分の仏頂面がそうさせてしまっているのかもしれない、と少し落ち込んだ。



 どうしたのか、と尋ねると、「暇なんです」と少し恥ずかしそうに口にした。


 サヨは隣にそーがいるのを確認して、私が座るソファの側の床にちょこんと私の方を向いて座っている。


 私が座るソファの前には同じようにソファが置いてあるのだが、あえて隣の床に腰を下ろしたいじらしい彼女をみて、ふと思いついた。



 私の呼びかけに立ち上がったサヨを横抱きにする。

 ふわりと軽く抱き上げると、サヨが小さな口を少し開けて、白い頰を真っ赤に染めた。


 彼女のその表情と不意に回された腕に、思わず愛しさがこみ上げてきて、くすくすと声を出して笑ってしまった。


 何か楽しめることはないか、と思案していると、サヨが私の名前を囁きながら、猫のようにすり寄ってきた。



 あまり可愛いことはしないでほしい…


 湧き上がる欲望を抑えながら彼女に口付けて「可愛い」とサヨの耳元に唇を寄せると、首に回った腕にぎゅっと力がこもったのを感じた。


 サヨの持て余した暇を何かで埋めてあげたいと思いながらも、しばらくはこのままでいてもらおうと片腕で強く抱きしめた。

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