次女と第二王子と特等席

 リビングを覗くと、ソファに座ったノア様が本を読んでいた。

 ソファの隣にはそーちゃんがちょこんと丸くなって眠っている。



 ノア様と湖に行った後、別邸まで付いてきた猫を飼うことにした。


 名前は「そー」。

 理由は見た目との関連は一切なく、いつか読んだ小説のかっこいい主人公からとった名だ。


「サヨ」


視線を送る私に気付いたノア様が私を呼んだ。



「お忙しいですか?」


 恐る恐る尋ねると、ノア様は目元を緩めて「おいで」と言った。


 ソファの横はそーちゃんに先を越されていたので、ソファに座るノア様の斜め前にまわり、カーペットに座った。


「どうした」


 不思議そうに尋ねる彼に、「暇なんです」と正直に言うとノア様がふっと笑う。



 リアム様は外に出かけて行き、クルミお姉様は自室でなにやら書き物をしていた。

 アプちゃんとレオは庭に出て、のこぎりやトンカチを持ちながら楽しそうに何かを作っていた。

 その姿に頰が緩まりつつも、あの二人がすることはいまだによく分からなかった。



 部屋で絵を描いてみたり、学園の課題をしたりしていたけれども誰かと話したい気分になってノア様を探したのである。

 まあ本当はノア様の顔が見たかったのもあるのだけど…。



「床、痛くないか」


 ノア様に尋ねられて小さく首を振った。


 すると、本をテーブルに置いた彼が「立って」と口にした。


 どうしたんだろう、と思いながら言われた通りに立ち上がると、ぐいっと腰を引かれて、膝の下に腕を通されたかと思うと、ふわりとノア様の膝の上に横を向くように下された。



 咄嗟に彼の首に手を回したまま、ぽかんと口を僅かに開けて唖然としていると、至近距離で目を細めたノア様に「暇なら昼寝したらどうだ」と言われた。



 顔のすぐ近くにある整ったその顔に熱が上がっていくのを感じて、「これじゃあ昼寝できないです」と口を尖らせて、赤くなっているのを隠すように彼の肩に顔を埋めた。


 耳元でノア様がくすくす笑う声が聞こえる。



 「そうか」と短く口にした後、「何かお前が喜ぶことはないかな…」と囁いた。


 十分です、とノア様の行動に既に心が弾んでいる自分に胸の内で呟いた。


 心が満たされていくのを感じながら「ノア様…」と彼のサラサラとした銀色の髪に少し顔をすり寄せる。




「サヨ、顔上げて」


 ノア様の首筋から彼の顔を見るように顔を上げると、ちゅっと口付けられた。


 驚いて瞬きを繰り返すと、彼が私の耳に唇を寄せて「可愛い」と甘く囁いた。



 ノア様の膝の上で、いつになく私を甘やかすノア様に耳の先まで赤くしながら、彼の隣はそーちゃんに譲ってもいいかなと思った。

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