三女と第三王子と夏休み4

 私は座ったレオの横に膝を立てて、彼の肩に震える両手をかざしていた。


 あの後、騒ぎに気付いて駆けつけた警察に男を引き渡した。


 私は急いで怪我をしたレオに駆け寄り、その手を引っ張って公園の木にもたれ掛からせるように座らせた。

 それから思ったより深いその傷口に、必死に魔力を込めていた。


 あの光景を目の当たりにしてから、時間が経過したにも関わらず、私の心臓は激しく鼓動を打っていて、体は冷水を浴びたように冷え切っている。

 そんな私に気付いているのか、レオが俯きながら「心配かけてごめん…」と呟いたので、私は少しだけ首を横に振りながら「ううん」と小さく答えた。




 しばらくして、塞がってきた傷口にほっと胸を撫で下ろしたところで、レオが二人の沈黙を破って口にした。


「リアムやノアだったらこんなヘマしないだろうな…」


 小さく呟かれたレオの言葉に「そんなこと…」と咄嗟に口にした後、「さっきのレオ、かっこよかったよ」と呟いた。


 すると、突然レオが肩にかざされた私の手をぐっと引っ張って、よろめいた私の体を後ろから抱くように自分の膝の間に座らせた。



「レオ、まだ終わってない…」


 両腕で抱きしめながら私の肩に顔を埋めるレオに視線を落としながら言うと、レオが小さく私に問いかけた。


「俺が王になりたいって言ったらどうする」


 レオの思いがけない問いに目を丸くしていると、レオは私の言葉を待たずに続けた。


「強くなりたいんだ。リアムとノアの後ろに隠れてるだけなのは嫌なんだよ」


 後ろから聞こえるレオの低く響く声に「うん」と小さく相槌をうった。


「お前のこともお前の大切なものもお前と生まれ育ったこの国も俺が自分の力で守りたいんだ」


 小さく力強いレオの言葉に胸がいっぱいになるのを感じながら、もう一度「うん」と優しく答えた。




 まわされた腕に触れながら「レオのことは私が守るね」と言うと「なんだそれ」とくすくす笑われたので、「レオが前に言ったんだけど」とむっと不満げに返した。


 すると、レオもいつかの約束を覚えているのか「そうだったな」と口にした。




「なんか恥ずいな」


 ふっと笑って言うレオに、「俺は王になる!だって」と笑いながら揶揄うと、余計恥ずかしさがこみ上げたのか「やめろ」と後ろから頭をぶつけられた。


 レオはふうっと短く息をはくと、後ろから私の頬にちゅっと口付けてから腕を離した。



「帰るか」


 私はその言葉に頷きながら、これからもずっとレオの側にいられるように、王都に戻ったら王妃になる勉強を頑張ろうと決意した。

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