三女と第三王子と夏休み3
しばらくして店内の席についた私はメニューを広げながら、並んだパフェの種類にどれにしようかと真剣に悩んでいた。
周りの席のテーブルに乗っているパフェにちらちらと視線を送って、メニューに並んだ文字と見比べる。
期間限定メニューのシャインマスカットは黄緑色のつやつやとしたマスカットの粒がグラスに積まれたアイスクリームと生クリームを囲むように隙間なく敷き詰められていて、みずみずしいその実は見るだけで爽やかな酸味が口の中に広がるようだった。
ただ、定番も捨て難い。
このお店で一番人気はいちごパフェ。
雑誌に描かれていた写実画通り、半分に切られた大きめのいちごが花が開くように飾り付けられていて、グラスの中ではいちごとカスタードといちごソースが層になっている。
お決まりの組み合わせが美味しくないわけがない。ここまできて定番を食べないわけには…。
でも、旬のマスカットも今だけだし…。
悶々と考えてから、レオに「半分こしない?」と精一杯可愛く尋ねると、「言うと思った」と苦笑された。
運ばれてきたパフェは近くで見ると思ったより大きくて胸がときめいた。
前に置かれたいちごのパフェに手を付けると、いちごの酸味と生クリームのほどよい甘さが口の中に広がり、あまりの美味しさに頰に手を当てる。
しばらく堪能した後、レオにマスカットも食べさせてほしいと声をかけた。
「はい」
レオがマスカットの粒と生クリームをすくったスプーンを私の顔の前に出した。
それを見た私は思わず、ぱちぱちと瞬きを繰り返す。
これはもしかして、ここから食べろと言うことだろうか…と固まっていると、レオが「早く食べろよ」とずっと口元にスプーンを近づけてきたので、仕方なく口を開けた。
口の中のマスカットを噛むと、水々しいほのかな甘さが広がり、生クリームの上品な甘さと合間ってとても美味しい。
美味しいのだけど…。
私の食べる顔を見ていたレオが「お前、顔赤すぎ」とふっと吹き出すように笑った。
レオに食べさせてもらっている私を周りの女性たちが嫉しそうに見ているのは気のせいだろうか。
さっきは私の一言に顔を赤くさせてたレオが、今度はいちごのように顔を赤くした私を余裕そうに見つめていて、私はなんとも言えない悔しさを感じながら自分のパフェに視線を落とした。
パフェを堪能した私たちは、少しずつ赤く色付き始めた空を見て、帰路につくことにした。
店があった通りから来た道を辿るように戻り、公園近くに待たせていた馬車に駆け寄ろうとした時だった。
「きゃー!」
女性の甲高い叫び声が聞こえて、その声に肩を上げて勢いよく振り返ると、カバンを抱えた男が横を駆け抜けて行くのが目に入った。
続いて聞こえた「ひったくり!」という女性の叫び声に咄嗟に男が走り去っていった方向に顔を見ると、レオが瞬時に体を動かしていた。
レオのかざした手からバチバチと音を立てて放たれた電撃が男の背中に直撃する。
突然の出来事に、ばくばくと波打つ心臓を抑えて固まっている私に、レオは「ここで待ってろ」と言うと、倒れ込んで動かなくなった男に駆け寄っていった。
近づいたレオが男の下敷きになっているカバンを取ろうと、それを掴んだ。
その瞬間、男が突然体を起こし、手に持っていたナイフで振り向きながら、レオの肩を切りつけた。
「レオ!」
レオの右肩から真っ赤な血が飛び散ったのを見て、全身の体温が一気に冷めていくの感じ、目を見開きながら大きく叫んだ。
痛みに顔を歪めたレオは肩を抑えながら、間髪入れずに男のナイフを蹴り飛ばして、男に体を強くぶつけると倒れ込んだ男に先ほどより力を込めて魔法を使った。
青色の電撃に包まれた後、男は体を痙攣させて動かなくなった。
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